相続人の特別受益の金額の算定について、非協力を理由に証明責任を緩和した事例

【質問】
父が亡くなりました。相続人は長男と私長女の2人です。
遺産分割で揉めていて、現在審判となっています。
私は、大学に進学せず、学校卒業後にすぐに就職して、家に生活費を入れていましたが、長男は、大学に進学し、学費から生活費まで全て両親から援助を受けていました。
その金額はかなりの金額に及ぶと思いますので、これは「特別受益」にあたると主張しています。
これに対して、長男は、以上のような事実は認めつつも、その具体的な金額については、全く開示せず、資料も提出せず、家裁の調査官の調査にも応じません。
このような場合、私の特別受益の主張は認められないのでしょうか。

【説明】
被相続人の生前に、生活費や家の購入資金等で被相続人から援助を受けていた相続人がいる場合、その援助はいわば「遺産の前渡し」にあたるとして、特別受益として遺産分割で考慮することになります。
紛争となっている遺産分割協議や調停ではこのような「特別受益」を巡る争いはとても多く、
「長男は、家の購入資金を援助されているから、それは取り分から引くべきだ!」
「私は大学に進学しなかったが、兄弟は私立大学の医学部に進学して高額な学費を親から援助されていたのだから、遺産分割で考慮すべきだ!」
という主張が展開されることが多いです。

このような特別受益の主張については、もし調停、審判で判断される場合には、
「特別受益を主張する者が証明する責任を負う」
ということが原則となっています。
ですので、単に「親からお金をもらっていたはずだ」、「だから、もらっている側が明らかにしろ」というだけでは足りず、具体的に、いつ、いくらを、どうやってもらったか、を証拠を持って証明する必要があるわけです。
実際の実務では、この証明ができず、結局特別受益が認められないというケースも多いのが事実です。

他方で、本件のように、ある程度生前贈与(特別受益)について、概括的な事実関係は認められるものの、援助を受けた側が審理に協力しない、資料を提出しないためにその具体的な金額の算定だけができない、というケースもあります。
本件は、札幌高等裁判所平成14年4月26日決定をモチーフにした事例ですが、この事例では、相続人の1人だけが被相続人から学費・生活費の援助を受けていたことは明らかであったものの、援助を受けていた相続人が資料の提出や家裁調査官からの調査に協力しなかったという事例です。
そのために、具体的な生前贈与の金額の算定ができなかったわけですが、この事例で、裁判所は、

「援助を受けた者が、調査に非協力なために具体的な金額が算定できないことを理由に特別受益を否定することは相当ではない」

と判断し、特別受益の証明責任を緩和するような判断をしました。

実際の調停・審判実務でここまで公平性に踏み込んで判断してもらえることはなかなか難しく、基本的には原則どおり「特別受益はそれを主張する者が全て証明しなければならない」という形で審理が進んでいくことも多いのが実情ですが、いわゆる「逃げ得」は許されない場合もある、ということを示す1つの判断として参考になります。


【判決要旨】札幌高等裁判所平成14年4月26日決定
「抗告人X1の特別受益についての判断において、抗告人X1が昭和40年4月にb大学に進学し、昭和44年3月に卒業したこと、その入学金・授業料・下宿代を含む生活費については両親である被相続人夫婦が負担したこと、抗告人X2は、中学を卒業した後、家業の農業に従事し続けていたこと、相手方Y(以下「相手方Y」という。)は、抗告人X1の大学生時代に、被相続人に対し、実家への援助として、当時の相手方Yの給料収入月額約1万9800円のうち1万円を渡していたこと等の認定事実に基づいて、抗告人X1には、大学進学について特別受益が認められる旨判示しながら、その具体的な算定について、抗告人X1が資料を提出せず、家庭裁判所調査官の調査にも応じないことを理由として、抗告人X1の特別受益については本件遺産分割において考慮しない旨判示する。
 しかし、抗告人X1について認められる特別受益を、その判断によって不利益を被る抗告人X1の非協力を理由に算定しないというのは相当でない(昭和40年当時の大学入学金、一般的下宿費用等を大学への照会その他適宜の方法によって調査すること及びそれに基づいて消費者物価指数の変動等を考慮して特別受益の現価を算定することは抗告人X1の協力なくして行うことができる。)。
 4 以上のとおり、原審は、本件遺産の分割の対象となる財産の範囲についての判断を誤り、遺産分割の判断過程において考慮されるべき特別受益の算定を行うことなく、遺産分割の審判をしたもので、原審判は、取消しを免れない。」


2018年12月13日更新