弁護士が作成に関与した公正証書遺言が無効とされた事例

遺言書を作成したとしても、遺言者が、その遺言の意味,内容を理解し,遺言の効果を判断するに足りる能力、すなわち「遺言能力」を有していなければ、後にその遺言は裁判で無効と判断されます。

「認知症や重病で、知的能力・判断能力が著しく衰えている状態で、遺産の独り占めを企てて,他の兄弟が自分に有利な遺言を親に書かせようとした。」
「こんな遺言は有効なのか」
というご相談をお受けすることが多いですが、このような場合は、後に遺言無効確認訴訟で遺言の有効性が争われます。
その際は「遺言能力」があったかどうかが中心的な争点となります。

近年は、遺言書に対する世間的関心の高まりや、司法書士、弁護士等による宣伝広告活動により、専門家が関与して、公正証書遺言が作成されるというケースが多くなっています。
司法書士、弁護士等の専門家が関与し、さらに公証人も関与して遺言が作成されれば、一般的には、
「専門家が、遺言者の遺言能力の有無なども確認した上で、遺言が作成されたであろう」
という印象が強いのは事実です。

しかし、診断記録、介護記録などから、客観的に認知症等の精神上の障害の存在が明らかな場合には、これら専門家が遺言の作成に関与していたとしても、
遺言能力なし
として、公正証書遺言が裁判で無効とされるのです。

東京地裁平成20年11月13日判決のケースは、

1 遺言者の事前の依頼に基づき弁護士が遺言の案文をとりまとめ
2 遺言当日,弁護士2名が証人となり、公証人においても同じ文面の遺言書の案文を,一か条ずつ読みながら確認した
3 遺言者は各条文の読み聞かせに対し手を握って応じた

というケースですが、裁判所は以下の事実を認めて遺言を無効としました。

1 本件遺言書作成日の約10日前から,肺癌の骨転移に伴う高カルシウム血症,腸閉塞に伴う脱水等の症状や肺癌に伴う肺炎に起因する低酸素血症などの意識障害を引き起こしかねない病態が重なって徐々に意識レベルが低下していた
2 本件遺言書作成日の約1週間前には,閉眼して傾眠傾向の状態になり,呼びかけてもあまり反応しないような状態に陥っていたこと,
3 本件遺言書作成日の前日にも傾眠傾向にあって,努力様の呼吸を続けており,同日夜には見当識障害が認められたこと
4 本件遺言書の作成当日には,上肢と手指に抑制器具を装着して酸素供給を受けながら,公証人により遺言公正証書の案文を読み聞かされている最中に,首を大きく横に振って非常に苦しそうな態度をしてそのまま眠ってしまい,公証人が一旦は遺言公正証書の作成を断念するほどの状況になり,妻から何度も揺すられ声をかけられてようやく目をさました、という状態だったこと

ちなみに、遺言者は、遺言作成時は、肺癌に脳幹梗塞を併発して入院中であり、遺言の作成の約一月後に死亡しています。

なお、遺言作成の10日前に、遺言者の主治医により「判断能力は十分にあったと考えられる旨の診断書」が作成されていますが、それでも、遺言書は無効であるとされています。

この裁判例においては、弁護士や公証人の関与、というのはほとんど考慮されていません。
あくまでも、遺言者の遺言作成時の「心身の状態」について、遺言作成の直前から遺言作成当日の状況まで、かなり詳細に事実認定をした上で、遺言の有効性を判断しています。


2015年11月30日更新