相続・遺言無効・遺留分請求のための弁護士相談

Q 私には妻も子どももおらず、血のつながった家族は、兄がいるだけです。

したがって、私が死んだら私の財産は全て兄が相続することになります。

しかし、私は兄とは昔からとても仲が悪く、兄は私の婚約者との交際を邪魔したり、私が精神異常だといって精神病院に放り込んだりするなど、ひどいことばかりしてきました。

そんな兄に私の遺産を相続させることはとても抵抗があります。

そんな折、私が入院している病院でとても親しい友人ができました。

このまま私が死んで兄に遺産が行くくらいなら、その友人にいく方が良いと考え、その友人と相談して養子縁組することになりました。

このような養子縁組は後で無効とされることはないでしょうか。

A 単に相続が目的であって、親子関係を形成させる意思がない養子縁組は無効とされます

【以下、お読みになられる前に注意】*2017年2月7日追記

最高裁判所平成29年1月31日判決で、節税目的の養子縁組の有効性について、
相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
と判断しました。
上記判断が、今後の養子縁組の有効性の判断に影響を及ぼす可能性があることにご留意いただき、以下お読みください。

養子縁組というのは、真に養親子関係を生じさせようとする意思(これを縁組意思といいます)によるものであることが必要です。

したがって、こうした意思を含まず、単に何らかの方便として養子縁組の形式を利用したに過ぎない場合は、縁組意思を欠くものとして、その養子縁組は無効とされます。

今回のように、単に相続が目的であって、親子関係を形成させる意思がない養子縁組は無効とされます。

もっとも、養子縁組というのは、縁組をした二人だけの間の出来事ですので、本人たちから「相続が目的なんかじゃない。」と言われてしまうと、外野から「相続が目的だから、養親子関係を生じさせようとする意思」がない等と言って無効を主張することはそれほど簡単ではありません。

あくまでも、

・両者の間に親子という身分関係の設定の基礎となるような人間関係は存在しているか

・養子縁組がされた後も、両者が親族として交流した形跡があるかどうか

という事実の有無が重要になるのです。

今回の事例は、名古屋高等裁判所平成22年4月15日判決の事例をモチーフにしたものですが、この事例では、本人が死んだ後に、兄が養子縁組無効の訴えを起こし、それが認められました。

この事例で裁判所は、

・本人とその友人は親しくなってからわずか4ヵ月後に養子縁組をしていること

・同居して生活していた期間も僅か4か月程度しかないこと

・その友人は、本人の死後、葬儀の香典を受け取りながら香典返しをせず、他方で、本人の遺産を費消して高級外車に乗り換えるなど散財行為に及んでいたこと

・本人は養子縁組をした時点で認知症の疑いがあったこと

等といった事情を考慮して、本件養子縁組は、養親子関係という真の身分関係を形成する意思はなく、兄への相続を阻止するための方便として、友人との養子縁組という形式を利用したにすぎないものと認められるから、無効である、と判断しました。

昔は、相続税を安くするために養子縁組が濫用されるという時代もあったようですが、いずれにしても、むやみやたらに養子縁組することはやめましょうということです。


2015年11月30日更新

夫に先立たれ、子供もいない老婦人は一人で暮らしていました。

ある時老婦人が足を骨折して生活が大変になったことから、これを見かねた隣家に住んでいたお隣さんの女性が、老婦人の身の回りの世話をするようになりました。

そのような状態が5年ほど続きましたが、あるとき、老婦人は持病が悪化して入院することになりました。

その入院中に、老婦人の世話をしていたお隣さんは、自分の娘さんが、会社で金銭的なトラブルに遭っていたことから、娘に老婦人の財産を相続させようと考え、娘と老婦人とを養子縁組をさせることにしました。なお、この時、老婦人は認知症ではありませんでしたが、お隣さんの娘さんとは多少の面識がある程度で、交流はほとんどありませんでした。

老婦人の退院後も、お隣さんは老婦人の身の回りの世話をしましたが、養子となったお隣さんの娘さんは、特に老婦人の世話をすることもありませんでした。

養子縁組をした2年後に、その老婦人は亡くなりました。

養子となったお隣さんの娘さんは死亡の翌日には老婦人の預金の解約をするなど、速やかに財産相続手続をしました。

その後、老婦人の関係者は、

「お隣さんの娘との養子縁組は、財産目当てだから無効だ!」

と主張して、養子縁組無効の裁判を起こしました。

このような訴えは認められるのでしょうか。

財産目的があったとしても無効とはなりませんが、親子としての交流が全く無いよう場合は、養子縁組は無効となります。

【以下、お読みになられる前に注意】*2017年2月7日追記

最高裁判所平成29年1月31日判決で、節税目的の養子縁組の有効性について、
相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
と判断しました。
上記判断が、今後の養子縁組の有効性の判断に影響を及ぼす可能性があることにご留意いただき、以下お読みください。

ご老人が亡くなって相続が発生した時に、その方の戸籍謄本などを調べると、生前にさしたる交流もなかったのに死亡の直前に養子縁組がなされていたり、弱っている老人に迫って財産目当てと思われるような養子縁組がなされていたり、というケースを目にすることがあります。

このような場合、その老人と身分関係がある者(「養子縁組の無効により自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者」と言います。)は、養子縁組無効の訴えを提起することができます。

しかし、一度届出がなされてしまっている養子縁組、しかも、養親はすでに亡くなっているという場合でも、その無効主張は認められるのでしょうか。

本件は、大阪高等裁判所平成21年5月15日判決の事案をモチーフにしたケースですが、このケースで、裁判所は、

「縁組をする意思」(縁組意思)とは、真に社会通念上親子であると認められる関係の設定を欲する意思をいうものと解すべき

とした上で、

「親子関係は必ずしも共同生活を前提とするものではないから、養子縁組が、主として相続や扶養といった財産的な関係を築くことを目的とするものであっても、直ちに縁組意思に欠けるということはできない。」

と言いつつも

「当事者間に財産的な関係以外に親子としての人間関係を築く意思が全くなく、純粋に財産的な法律関係を作出することのみを目的とする場合には、縁組意思があるということはできない。」

と結論付けました。

そして、本件においては、

・養子縁組の前には、老婦人と養子が全く交流がなく、両者の間に親子という身分関係の設定の基礎となるような人間関係は存在していなかったこと

・養子縁組がされた後も、両者が親族として交流した形跡は全くなく、上記のような関係は基本的に変わっていなかったこと

・養子が、老婦人の死亡の翌日から速やかに財産相続手続を行ったこと

を理由として、

「身寄りのないの老婦人の財産を養子に相続させることのみを目的として行われたものと推認するほかはない。」

と判断して、養子縁組の無効を言い渡しました。

この判決を踏まえると

①養子縁組は、相続や扶養といった財産目的があっても良い

②養子縁組をしても、同居までする必要はない

③しかし、全く交流もないという状況が養子縁組の前後で続いている場合は、養子縁組は無効

ということになると考えられます。

養子縁組無効のご相談をお受けすることは多いですが、①、②までは認められても、③まで認められるような事案は少ないように実感しています。

ですので、この大阪高裁の事案に照らせば、養子縁組が無効とされるケースというのはかなり少ないのではないかと思います。


2015年11月30日更新

親が所有している一戸建てやマンションに、その子が無償で住んでいる、ということは少なからずみられる事象です。

兄弟が数人いて、そのうちの一人だけが上記のように親の所有建物に無償で住んでいたような場合、その親が亡くなった後に兄弟間で相続紛争が勃発すると、真っ先に親の建物に無償でいたことがやり玉に挙げられ、遺産分割調停などでは、

「親の家の無償で住んで者は、賃料相当額について利益を得ていたに等しい。」

「賃料相当額については、特別受益とすべきだ。」

という主張がなされることが多いです。

このような主張は認められるのでしょうか。

この点についての裁判例は見当たりませんが、家裁の実務においては、上記のような場合は、特別受益とはしない扱いで調停・審判が進められることが多いようです。

その理由としては以下の3つの事情が挙げられます。

1.被相続人が相続人に対して建物の無償使用を許諾している場合、

  持ち戻すことを予定していないのが通常と考えられること。

2.建物使用貸借は恩恵的な要素が強く、遺産の前渡しとは考えられないとも

  言えること。

3.実質的にも、建物の使用借権は、土地の場合とは異なり第三者に対する

  対抗力はなく、明渡も容易であって、経済的な価値は無に等しいことに

  対し、建物の無償使用の場合に賃料相当額自体を合計すると相当多額

  になり、利益衡量上も妥当ではないと言えること。

以上の理由により、特別受益とはならない、とされていますが、この問題は理屈の問題ではなく、感情的に大きなウェートを占める問題となってしまっているため(特に無償で住んでいた兄弟に対する不公平感や嫉妬等)、実際の協議や調停の場では、この点を巡って紛糾することも多いように感じます。


2015年11月30日更新

Q 父が亡くなりました。相続人は私と兄の二人だけです。

父の遺産は、土地と建物だけですが、合計で約1億円ほどの価値があります。

これ以外で、父は自らに生命保険をかけており、保険金は1億円でした。

しかし、その受取人は全て兄に指定されており、兄が全て受け取りました。

私には共済金が300万円程おりただけです。

兄は、父と同居して介護していたわけでもありません。それなのに、兄だけが遺産の総額に匹敵する1億円もの保険金を独り占めできるのは不公平です。

このまま遺産分割すれば、兄は、父の死で結果的に1億5000万円を手にしますが、私は遺産の半分の5000万円しか受け取れません。

この保険金について遺産分割の話し合いの中で何か主張することはできないのでしょうか?

A 原則として特別受益にはなりませんが、金額が大きい場合には特別受益となる場合があります。

生命保険の保険金は「受取人」が全て取得でき、遺産分割の対象にはならない、ということは、相続を経験した人にとっては「常識」のような知識として存在していると思います。

したがって、上記の事案でも兄は保険金1億円全額を受け取ることができ、それに対して弟は何も主張できないのが「原則」です。

しかし、この原則には当然「例外」があり、生命保険の保険金が遺産分割において考慮される場合も存在します。

最高裁判所の判例によれば、その例外的な場合とは「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間で生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」となります(最高裁判所平成16年10月29日判決)。

では、例外となる相続人間の不公平が著しい場合とはどういう場合か、という点について判断したのが東京高等裁判所平成17年10月27日決定のケースで、上記の事案のモチーフとなった事件です。

この事案で裁判所は、

・保険金額が遺産総額に匹敵する巨額の利益(約1億円)であること

・受取人である兄が、父と同居をしておらず、父が兄に対して扶養・介護を託する明確な意図を認めることも困難な事情であること

といった事情を重視して、1億円の保険金全額を兄が受け取っていることは著しく不公平である、と判断しました。

その結果、保険金1億円については「特別受益」として、遺産分割の中で考慮されることになりました。

この判例から読み取れることは、遺産の額と比較して保険金の額が同等かそれに匹敵する場合には、保険金の受取人が、多額の保険金を受け取れるだけの理由(親との同居や介護の約束があったか等)がないと、相続人間の公平を図るために保険金も遺産分割の際に考慮すべきであると判断されることとなる、ということになろうかと思います。

なお、東京家庭裁判所では、生命保険の受取金が遺産総額の6割以上の場合は、特別受益として取り扱う運用のようです。

昨今、相続対策として生命保険の利用が推奨されていますが、遺産の額と比べて保険金額が大きい場合には、この保険金を巡って死後に思わぬ紛争を引き起こしてしまう可能性がある、という点に留意しておく必要があります。


2015年11月30日更新

相続人のうち、一人だけが親と同居して長年介護をしていたような場合、

介護をしていた者は

「親の介護のために相当の労力を費やしたのだから、それを遺産分割の際に考慮して欲しい。」

という寄与分の主張をすることが多いです。

しかし、この主張に対しては、親と同居していない者からの反論として、

「親の預貯金が減りすぎている。介護と言ってもこんなにお金がかからないのになぜ減っているのか。」

「同居していた者が自分の為に親の預金を勝手に使っていたのではないか。」

という主張がされることが多いです。

これに対して、同居して介護していた者は

「親の介護のためにしか使っていない!」

と反論するものの、証拠が十分でない場合も多いために話がなかなか噛み合わず、泥沼の紛争になり・・・というケースを我々弁護士は非常に多く目にします。

このような泥沼の紛争になってしまうと、遺産分割まで何とか終ったとしても、一旦お互いに抱いた深い不信感は消えず、その後の兄弟間の関係は最早修復不可能なほどに壊れます。

したがって、このような泥沼の紛争が起きないように、親が存命中の間に、兄弟間でのコミュニケーションを密にしておくことが何よりも重要です。

また、兄弟間が疎遠であるような場合でも、親が亡くなった後に不必要に相手への不信感を募らせないために、介護にまつわる行動や出費を出来る限り記録しておくことが必要です。

具体的には、介護をしている者としては

・介護日誌をつける

・介護にかかった費用の領収証をとっておく

・他の兄妹に、親の状態を電話やメール等で逐一報告するなどコミュニケーションを欠かさない

ということを心がけておく必要があります。

また、介護を他の兄弟に任せている者としても

・ひとりだけに介護の負担が集中しないよう心がける

・親から介護の実情を聞いておく

ということをしておけば、親が亡くなった後の話合いにおいて、お互いが徒に感情的になることを避けられるので、紛争が激化することを防止できるでしょう。

この介護と相続の問題というのは、

覆水盆に返らず

という言葉を痛感することが多いので、とにかく親の生前にできる限りのことを尽くしておくということが肝要です。


2015年11月30日更新

Q 父が亡くなりました。相続人は姉と私の2人です。

父が亡くなるまでの約5年間、姉が父の家に住み込みで父の介護をしてきました。

そのため、遺産分割の時に、姉は父の介護をしてきたことを理由に相続分を多く主張してきています。

姉が父の介護をしてきてくれたことは感謝していますが、しかし、姉はその間父の家に無償で居住していたわけですから、全くの無償の介護とは言えないと思います。

姉の主張は認められるのでしょうか?

A 介護による特別な寄与を認めて相続分を多く獲得することは認められる可能性はありますが、家賃相当額をそこから差し引いて最終的に寄与分を算出することとなります。

親が重度の要介護状態のために常時付き添いが必要な状態であるような場合で、子が介護サービスなどを利用せずに介護したり、もしくは介護サービスの費用を負担した場合、このような負担をした子は、他の兄弟よりも多く相続分を主張できます(寄与分)。

しかし、その子が、例えば親の所有する不動産に無償で住んでいて介護していたような場合、その子は家賃相当額の出費をまぬがれているわけですから、いくら介護をして苦労したといえども、他の兄弟との関係ではこれを考慮しないと不公平ということになってしまいます。

そこで、このような場合には、介護による特別な寄与を認めて相続分を多く獲得することは認めるものの、家賃相当額をそこから差し引いて最終的に寄与分を算出するというのが裁判実務の傾向です(大阪高等裁判所平成19年12月6日決定参照)。

寄与分を認めるにあたっても、あくまでも「公平」という観点が重要なのです。


【判旨;大阪高等裁判所平成19年12月6日決定】

「被相続人は平成10年頃からは認知症の症状が重くなって排泄等の介助を受けるようになり、平成11年には要介護2、平成13年は要介護3の認定を受けたもので、その死亡まで自宅で被相続人を介護したCの負担は軽視できないものであること、Cの不動産関係の支出は、本件の遺産の形成や維持のために相応の貢献をしたものと評価できるけれども、本件建物の補修費関係の出費は、そこに居住するC自身も相応の利益を受けている上に、遺産に属する本件建物の評価額も後記のとおりで、その寄与を支出額に即して評価するのは、必ずしも適切でないこと」、「Cは、もともと、親族として被相続人と相互扶助義務を負っており、また、被相続人と長年同居してきたことにより、相応の利益を受けてきた側面もあること等本件の諸事情を総合考慮すれば、Cの寄与分を遺産の30%とした原審判の判断は過大であって、その15%をもってCの寄与分と定めるのが相当というべきである。

そうすると、後記のとおり、本件遺産の評価額合計は、9360万3235円であるから、Cの寄与分は、その15%に当たる1404万0485円となる。」


2015年11月30日更新

 

親を介護していた子が、他の兄弟に対して相続分を多く主張する場合というのは、相続の紛争においては多く見られます。

しかし、法律上は子どもが親の面倒を見ることは「扶養義務」という観点からは当然であると考えられていますので、一般的な生活の援助・世話をしているだけでは寄与分は認められません。

あくまでも、「特別の寄与」が必要です。

では、「特別の寄与」とはどの程度のものを言うのでしょうか。

これについては、親が重度の要介護状態で常時付き添いが必要な状態であるような場合で、子が介護サービスなどを利用せずに介護したり、もしくは介護サービスの費用を負担した場合のことを言います。

では、子が介護していた場合、寄与分というのはどの程度認められるのでしょうか。

これについては、色々な考え方がありますが、一つには介護保険の介護報酬基準に基づく1日の報酬額に看護した日数をかけるという方法があります。

もっとも、この場合でも、介護士の介護と親族が行う介護を比較すると、通常は親族の介護の方がサービスの質が劣るはずですから、介護報酬基準をそのままあてはめることは少々高い寄与分を認めることになってしまいますので、例えば、交通事故の裁判で入院等した場合の家族の付添費が一日8000円とされていることから、この8000円を基準として介護した日数を掛けて寄与分を出すという考え方の裁判例もあります(大阪家庭裁判所平成19年2月8日審判)。

子が親を介護する、ということは本来であればお金で価値評価すべきものではないはずではありますが、しかし、全く介護にかかわらなかった他の兄弟との公平を考えたときに、どのような方法で評価すべきか、ということは相続の紛争を公平かつ穏便に解決するために重要です。


【判旨:大阪家庭裁判所平成19年2月8日審判】

「(1) 相手方は、寄与分を主張する。すなわち、相手方は、平成元年に被相続人の妻Fが入院して以降、被相続人方の家事等生活の面倒を見てきたものであり、平成14年ころから、被相続人の認知症が進行し始めた後は、介護支援を行ってきたこと、被相続人が行っていた駐車場の経営を引き継いで管理、経営を行ったことにより、被相続人の財産の維持増加に貢献し、7366万7600円の寄与分があるとの主張である。

(2) これに対し、申立人らは、平成14年以降の3年間については、相手方が被相続人の介護を献身的に行っていたことを認めるものの、その余の点については、相手方に特段の貢献があったものとは認められず、前記、3年間の介護についても、相手方が被相続人宅に隣接した被相続人所有地に家を建て、地代等の負担もなく、長年住み続けている事情を考慮すると、相手方の主張する7366万7600円という金額は過大に過ぎる旨、主張する。

(3) そこで、検討するに、被相続人の妻Fは、平成元年ころから、短期の検査入院を繰り返すようになり、平成7年×月に死亡したものであるが、Fの入院中は、相手方の妻が毎日病院に通うほか(□□在住の申立人Aも週に1回程度、病院を訪れていた。)、相手方夫婦で、被相続人の家事全般の世話をしていた。

F死亡後は、相手方の妻が昼食と夕食を作り、被相続人方に届けるほか、日常的な世話を行っていた。被相続人方の周囲は広いため、除草作業や清掃作業の負担は大きく、申立人Aもときどき庭や周囲の溝の清掃を手伝っていた。

また、被相続人は、平成13年までは一人で新幹線に乗り、○○に住む申立人Bや申立人Cの家を訪問してしばらく滞在していた。

しかし、平成14年2月ころから被相続人に認知症の症状が顕著に出るようになったため、相手方は、被相続人の3度の食事をいずれも相手方方でとらせるようになり、被相続人が○○を訪問するときは、相手方が往復とも被相続人に付きそうようになった。このころから、被相続人は常時、見守りが必要な状態となり、また、被相続人の排便への対応にも相手方は心を砕いていた。

申立人らも、平成14年以降の3年間については、相手方が被相続人の介護を献身的に行っていたことを認めており、この期間については、相手方の被相続人に対する身上監護には、特別の寄与があったものと認められる。これに対し、平成14年2月より以前の被相続人に対する日常生活上の世話は、親族間の扶養協力義務の範囲のものであると認められ、特別の寄与とまではいえない。

また、駐車場の管理について、相手方が具体的に行動し始めたのは平成13年2月ころからであり、駐車場の清掃、苦情への対応、顧客離れを防ぐための賃料の減額などを行っていたものであるが、相手方が平成14年1月から駐車場管理の報酬として月額5万円を取得していたことに照らし、相手方の駐車場の管理について特別の寄与があるとまで認めるのは困難である。

(4) 相手方の被相続人に対する身上監護については、親族による介護であることを考慮し、1日当たり8000円程度と評価し、その3年分(1年を365日として)として、8000円×365日×3=876万円を寄与分として認めることとした。」


2015年11月30日更新

Q 例えば、長男が親と同居して親が死ぬまで介護をしていて、他の弟、妹らは親とは離れて暮らしていて特に親の介護もしていなかったような場合に、長男から

「自分が親の面倒を見ていたのだから、相続財産も多めにもらえるはずだ。」

という言い分が出されます。

このような言い分は認められるでしょうか?

A 寄与分を主張することにより相続分を多く取得できる可能性があります。

親が死亡して子どもが数人いる場合、相続の際には、親が亡くなる前に親の面倒を見ていた者とそうでない兄弟との間で対立が生じるということがよくあります。

本件のような長男の言い分を、法律的には「寄与分」(民法904条の2)と言いますが、この寄与分というものは、単に面倒を見ていたという程度では認められず「特別な寄与」があったと認められなければなりません。

親の面倒をみることは、子どもであれば当然のことですから、常識的な援助(例えば、親が入院しているときに世話をした等)をしていただけでは認められることは難しいです(大阪家庭裁判所堺支部平成18年3月22日審判)。

特に、親の「財産」の維持等に貢献したという事情、例えば子の貢献によって財産が増えた、又は余計な出費が減ったといった事情があることが重要なのです。

では、どのような行為があれば寄与分が認められるのでしょうか。

寄与分が認められる行為の類型を整理すると

①家業従事型(親の家業を助けていた場合)

②金銭等出資型(親に金銭を贈与した場合)

③扶養型(親の生活の世話などをした場合)

④療養看護型(親の介護をした場合)

⑤財産管理型(親の財産を管理した場合)

に分かれます。

調停では、本件のように親の介護をしていた場合に寄与分の主張がされるということは非常に多いですが、介護の場合も、やはり、子の介護によって親が介護費用を免れた等といった財産的な側面が重要なのです。

約2年間で5回の入院し、それ以外でも毎日親の入院時の世話をしたり、(毎朝新聞やお菓子等を届け、夕方に洗濯物を持ち帰った。)、また、通院の付き添いをしたという子が寄与分を主張したという事案では、その程度のことは扶養の範囲ということで「特別の寄与」とは認められませんでした。


【判旨:大阪家庭裁判所堺支部平成18年3月22日審判】

「1(1)ア 相手方Bは、昭和58年11月ころ、妻子と共に、F及び被相続人と同居して生活するようになり、F死亡後は、引き続き被相続人と同居して生活した。

イ 被相続人は、平成10年ころから平成12年2月ころまでの間に、胃潰瘍、ぜん息、白内障、腰痛等及び変形性脊椎症等の治療を受けるため、合計6回入院した(入院期間は、5回は1か月程度、1回は2か月程度である。)。また、被相続人は、平成12年11月ころから、毎日のように理学療法を受けるために通院し、その後、2週間に1度程度、内科及び整形外科で治療を受けるために通院した。

ウ 相手方Bは、被相続人の入院時の世話をし(毎朝新聞やお菓子等を届け、夕方に洗濯物を持ち帰った。)、また、通院の付き添いをした。

(2) 相手方Bは、上記のとおり、被相続人の入院時の世話をし、また、通院の付き添いをしていたものであるが、これは同居している親族の相互扶助の範囲を超えるものであるとはいえない上、これによって、被相続人が特別にその財産の減少を免れたことを認めるに足りる資料は見当たらない。そうすると、これをもって、相手方Bに被相続人の財産の維持につき特別の寄与があったとみることはできない。」


2015年11月30日更新

・子どものうち親と同居して介護していた者がいる。

・子どものうち親の家業を手伝っていた者がいる。

・子どものうち親と同居して生活費などをすべて出してあげていた者がいる。

上記のように、親のために介護や生活費などの出費を余儀なくされている子がいる一方で、親とは離れて暮らしていて特に負担も生じていなかった子もいるような場合、相続の際には、親のために特別の出費や負担をしていた者は、相続の際には自分の貢献度を認めてもらうために遺産から多く分けてもらいたいと主張することが多いです。

このような主張を法律的には「寄与分」(民法904条の2)と言います。

「寄与分」とは、被相続人の生前において、被相続人の財産の維持又は増加に貢献した者がいる場合、それを遺産分割において考慮する、というものです。

この寄与分というものは、単に同居して親の面倒を見ていたという程度ではなかなか認められず、「特別な寄与」があったと認められなければなりません。

親の面倒をみることは、子どもであれば当然のことですから、常識的な援助(例えば、親が入院しているときに世話をした等)をしていただけでは認められることは難しいです(大阪家庭裁判所堺支部平成18年3月22日審判)。

特に、親の「財産」の維持等に貢献したという事情、例えば子の貢献によって財産が増えた、又は余計な出費が減ったといった事情があることが重要なのです。

では、どのような行為があれば寄与分が認められるのでしょうか。

寄与分が認められる行為の類型を整理すると

①家業従事型(親の家業を助けていた場合)

②金銭等出資型(親に金銭を贈与した場合)

③扶養型(親の生活の世話などをした場合)

④療養看護型(親の介護をした場合)

⑤財産管理型(親の財産を管理した場合)

の5つの類型に分かれます。

先に述べたように、親の財産の維持に貢献したということが重要ですので、裁判例において寄与分が多く認められるのは、お金の出費の度合いが高い場合です。

上記の分類で言えば、①が多く、②、③と順に少なくなっていき、⑤が一番少ない場合というのが多いようです(もちろん個別の事情により異なります。)。

調停などで寄与分の主張として多いのは、子が親の介護をしていた場合(上記の④)ですが、介護の場合も、やはり、子の介護によって親が介護費用を免れた等といった財産的な側面が重要です。


2015年11月30日更新

Q 母が亡くなりました。

相続人は、私と兄と弟の3人なのですが、私も兄も、弟とはかれこれ30年以上連絡をとっていません。

住民票の住所にも住んでおらず、どこで生活をしているのか皆目見当もつきません。このような場合、遺産分割協議や調停はどのようにしたら良いのでしょうか。

A 家庭裁判所に「不在者財産管理人」を選任してもらうことで手続を進めることができます。

遺産分割協議や調停は、「相続人全員の合意」がなければ成立しません。遺産分割協議書には全員の署名・押印が必要ですし、銀行や不動産の名義移転の手続にしても同様です。したがって、行方不明の者がいる場合は、遺産分割協議も、遺産分割調停も進めることができません。

では、遺産分割を進めるためにはどうすれば良いのかというと、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任の申立をすることになります。

これは、その名のとおり、行方の知れない者=不在者の財産を、本人に代わって管理する権限を有する者を裁判所が選任するというもので、このようにして選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の許可を得て不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行うことができるのです。

したがって、相続人は不在者財産管理人との間で遺産分割協議や調停を行うことができ、手続を前へと進めることができるのです。

もっとも、裁判所に不在者財産管理人の選任をしてもらう場合、遺産分割協議が目的の場合には、弁護士等の第三者の専門家が選任されることが多いですのですが、不在者財産管理人はボランティアではなく、また、国がその費用を払ってくれるわけではありませんので、不在者財産管理人の選任を求める者が、この不在者財産管理人の報酬を確保するために、申立てる際に予めお金を裁判所に納めなければなりません。

その金額は、ケースバイケースですが、概ね10万~50万円程度となることが多いようです。


2015年11月30日更新