相続・遺言無効・遺留分請求のための弁護士相談

Q 夫とは結婚してから4ヶ月ほどの間は性生活がありました。

しかし、4ヶ月を過ぎてから、夫から求めてくることもなくなり、また、私から求めても乗り気ではない態度を示すようになり、以後はセックスレスとなりました。

このような夫の態度が不満ではありましたが、子どもを授かったので、夫の態度に不満を抱きながらも結婚生活を続けていました。

しかし、結婚してから5年ほど経ったある日、警察官からの知らせで、なんと夫が3年前から他の男性と同性愛の関係にあり、しかも、その男性に振られた後も未練がありストーカーのようにつきまとうなどしていた、ということが発覚したのです。

私は、心の底からショックを受け、その日のうちに子どもを連れて実家に帰りました。もう夫の顔も見たくありません。

夫とは離婚できるでしょうか?

A 同性愛が原因で、夫婦関係が修復不可能な程度に至った場合は離婚が認められます。

上記の事案は、名古屋地裁昭和47年2月29日判決の事案とほぼ同じです。

この事案で、裁判所は妻からの離婚の訴えを認めると共に、精神的苦痛に対する慰謝料として150万円を認めました

妻の心情やショックを考えれば、この事案の結論としては妥当でしょう。

しかし、法律的には複雑な問題をはらんでいます。

同性愛、すなわち夫が「男性」と恋愛するということがは「不貞行為」すなわち「不倫」に該当するのか、という問題があります。

法律的に離婚原因として定められている「不貞行為」とは、「自由な意思に基いて配偶者以外の異性と性交渉を行うこと」とされています。

となると、同性愛者との交際は「異性」との性交渉ではないので、形式的には不貞行為には該当しないことになります。

そのため、この判決は、同性愛者との交際が不貞行為である、とは認定せず、

「妻がすでに、数年間にわたり夫との間の正常な性生活から遠ざけられていることや、妻が夫と相手の男性との間の同性愛の関係を知ったことによって受けた衝撃の大きさを考えると、相互の努力によって夫婦間に正常な婚姻関係を取り戻すことはまず不可能と認められる」

と認定し、いわゆる「婚姻を継続しがたい重大な事由がある」という理由で離婚を認めています。

また、そもそも、同性愛者という「性向」自体が夫婦関係にとって悪なのかどうかという問題もあります。

例えば、結婚した後で、夫が過去に同性愛者であったことが発覚した場合、たとえ現在はもう他の同性と交際をしていなかったとしても、同性愛者であったことを理由に離婚を求めることができるのかという問題もあります。

この点について、この判決は

「夫は、性的に異常な性格を有していることが明らかである。もっとも、それがいかなる程度のものであるかは明らかでなく、場合によっては、被告自身の努力と適確な医学的措置によって矯正することも可能なのではないかとも考えられる。」

と述べています。

上記のような判決の言いっぷりからすれば、

同性愛者であることは異常な性格であり、それが医学的に矯正できない程度の場合には、「同性愛者であること」を理由に離婚が認められる

とも受け取れます。

ただし、この判決は今から40年以上前の判決です。
性に関する価値観も今は変わってきており、今の時代では通用しない考え方かもしれませんので、あくまでも一つの参考事例として捉えた方が良いでしょう。


2015年11月30日更新

Q 夫が不倫をして家を出ていってしまいました。その後、夫は私に対して執拗に離婚を求めてきています。今離婚してしまうと私の生活も立ち行かなくなってしまいますので、絶対に離婚はしたくない、と拒んでいるのですが、夫は裁判してでも離婚する!と強硬な態度に出てきています。このまま別居が続けば、夫からの離婚の請求は認められてしまうのでしょうか?

A 別居期間が最低でも6~8年間以上ないと、離婚の請求は認められません。

夫が不倫をして家を出ていってしまった、そして、その後、夫から妻に対して離婚を求めた場合、このような夫の離婚の請求は裁判で認められるのか、という問題があります。

夫の行動はとても身勝手な行動ですので、これで簡単に離婚が認められては妻は悲惨極まりない結果となってしまいます。

このような離婚の請求のことを「有責配偶者からの離婚請求」といい、裁判実務においては「信義に反するもの」であるとして離婚請求が認められないのが原則です。

昭和の時代は、このような「有責配偶者からの離婚請求」は一部の例外を除いて認められなかったのですが、昭和62年に有名な最高裁判所の判決が出てから、一定の事情があれば認められるようになって来ました。

昭和62年の最高裁判所の判決は、有責配偶者からの離婚請求であっても、夫婦関係が完全に破綻しているという実情がある場合、離婚の請求が「信義に反するものではない」と言えれば、離婚請求は認められる、と判断して、一定の場合に離婚を認めるという立場を明らかにしました。

では、離婚の請求が「信義に反するものではない」、ということを判断するにあたって、どういう要素が考慮されるのでしょうか。

昭和62年の最高裁判所の判決は、以下に述べる3つの要素を中心に検討すべきと述べました。現在までこの3つの要素が重視されています。

①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるか

②相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれることがあるか

③離婚を認容することが夫婦間の未成熟の子の福祉を害するか、というものです。

この3つの要素を総合的に考慮して、離婚を認めることが信義に反するかどうかということを判断するのが現在の裁判実務です。

そして、離婚が認められるかどうか判断するための要件の中で、最初のハードルとも言うべき要件が別居期間の長さです。

別居期間が短すぎる場合、それだけでほぼ離婚請求は裁判所にはねられてしまいます。

例えば、夫婦が同居していた期間が6年半程度で、他方別居期間が2年4ヶ月というケースでは、離婚請求は裁判所に認められませんでした(最高裁判所平成16年11月18日判決)。

最高裁判所の判例で、有責配偶者からの離婚請求が認められた最短の別居期間は約8年です(最高裁判所平成元年3月28日判決)。

したがって、一般的には弁護士が有責配偶者からの離婚請求について法律相談を受けた場合に、離婚が認められるために必要な別居期間については「8年程度」という回答をすることが多いと思われます。

もっとも、8年別居していたからといって、離婚が認められるとも限らないのがこの問題の難しいところです。

別居期間が15年以上に及んでいても離婚が認められなかった、というケースもあります(東京高等裁判所平成20年5月14日判決)。

では、最短ではどれくらい別居期間で離婚が認められているのでしょうか。

公表されている裁判例を調査した限りでは、「約6年間」というのが最短のようです(東京高裁平成14年6月26日判決、東京地裁平成15年6月12日判決)。

なお、ここでいう別居期間の6年間というのは、別居をしてから裁判所での審理が終わるまで(口頭弁論終結時といいます。)の期間になります。裁判所での審理というのは、このような離婚自体を争うようなケースでは最低でも1年以上はかかりますので、その期間を差し引くと、別居してから裁判を起こすまでに約4~5年間の期間は待つ必要があるということになります。

東京高裁平成14年6月26日判決のケースは、不倫をした夫が、妻に離婚を求めたというケースで、別居期間6年で離婚を認めています。

このケースは、

・妻も一時期不倫をしていると疑われるような言動をしておりそれがさらに不仲の原因となったこと

・夫は自宅建物を妻に分与し、住宅ローンの残債も完済するまで全て払い続けることを約束していること

・夫婦の間に未成熟子がいないこと

など夫側にかなり有利な事情がありました。そのため、6年間という別居期間でも離婚請求が認められたと思われます。

東京地裁平成15年6月12日判決のケースは、同じように不倫をした夫から妻に離婚を求めたというケースで、別居期間約6年で離婚を認めています。

しかし、このケースでは夫側に有利な事情としては

・不倫が発覚した後、妻が夫を家から追いだして同居を拒否し続けたこと

・子どもはいずれも成人していること

といった程度の事情しかないものの、夫からの離婚請求を認めています。

離婚の際の財産的な給付をどれだけ妻に与えられるか、というのも重要な要素ですが、この点についてこのケースでは、

「被告は原告に対し慰謝料請求権及び離婚後は財産分与請求権を有しており、原告にもその意思があること」

といった程度の認定しかしておらず、具体的な金銭条件が全くわかりません。

もしかしたら、かなりの好条件の提案を夫側からしていたかもしれず、それと相まって離婚が認められたのかもしれません。

いずれにしても、有責配偶者からの離婚請求が認められるために最低限必要な別居期間について、現在の裁判例の一つの水準は「約6年~8年間以上」と言えるでしょう。


【判旨:東京地裁平成15年6月12日判決】原告:夫、被告:妻

「原告と被告は、平成9年6月12日以降今日まで、被告が同居を拒否しているため、別居している。そして、本件の事実経過からみて、被告が原告との同居を拒否していることは妻である被告の心情として無理からぬ面もある。

この別居について被告の供述とその陳述書(乙2)中には、今でも原告への愛情がありやり直したいと思っているが、今すぐに同居する気持ちにはなれない、その理由は、原告の女性問題はすぐには直らないこと、子供達が原告との同居をいやがっていること、原告と性交渉を持つ気になれないことをあげ、いずれ原告が女性関係を持つことがなくなり、子供達も原告を受け入れるようになったら同居に応ずる旨の部分がある。

しかし、被告は、これまで一貫して原告との同居を拒否し続けていること、今でも原告からの電話には出ていないこと(被告の供述)、原告との同居の時期を問われて「子供や私の精神的な状態が立ち直ったとき」と答えており、その明確な時期はわからない旨供述していることと、被告が原告の女性問題に悩まされ相当のストレスを受けたとの本件の事実経過から考えて、被告は、いまなお原告のこれまでの女性問題について気持ちの整理がつかず原告を受け入れることができないものと推認される。このことと、これまでの別居期間、原告の意思、被告が今なお原告との同居の時期を決断して明言することができないでいることからみて、原告・被告間の婚姻関係が正常な姿に回復することは極めて困難であり、したがって、遅くとも本件口頭弁論終結時には両者間の婚姻関係が破綻していたと認められる。

(2) 本件の事実経過からみて、婚姻関係破綻の原因は主として原告の女性問題にあり、原告はいわゆる有責配偶者である。

しかし、原告・被告間の2人の子は、いずれも成年に達しており、別居期間も被告の同居拒否により6年近くと長期間に及んでいる。そして、原告が別居後被告にほぼ毎月生活費を送金してきたこと、被告は原告に対し慰謝料請求権及び離婚後は財産分与請求権を有しており、原告にもその意思があること(原告の供述)、被告が離婚を拒否しているのは経済的な問題が主要な理由ではないこと(被告の供述)から考えて、被告が原告と離婚することにより被告の生活が全く立ちゆかなくなるとは認め難い。

したがって、原告が有責配偶者であることを理由にその離婚請求を否定すべき場合には当たらない。

3 したがって、原告の請求は理由があるから、認容する。」


2015年11月30日更新

Q 夫と不仲になり、夫は一人家を出て今は賃貸アパートに住んでいます。私は自宅に残っていますが、自宅は住宅ローンを組んで買ったマンションで、住宅ローンの名義人は夫なので、今も夫がローンを全額払っています。

夫からは離婚を求められていますが、協議がなかなか進まず、また、生活費も支払ってくれないので、私から婚姻費用分担請求をしています。家庭裁判所で用いられている「算定表」というものによると、夫が私に支払うべき標準的な婚姻費用は6万円程度とのことです。

しかし、夫は、

「自分は妻の住む家の住宅ローンで月10万円を払っており、妻は住宅費を全く負担していないのだから、これ以上妻に払うべき生活費はない。」と主張しています。

このような夫の言い分は正しいのでしょうか?

A 住宅ローンの全額を差し引くことは認められませんが、一部減額される場合もあります。

この問題は、実務上の取り扱いがまだ確立しておらず、ケースによって様々な考え方が示されています。

もっとも、確実に言えることは、

「住宅ローンで払っている金額全額が生活費の支払いとして認められることは無い」

ということです。

何故かと言うと、住宅ローンを支払い続けることによって、最終的には住宅の取得ができることになりますので、その支払いは、謂わば「資産を形成するための支払い」というべきものです。

賃貸住宅の家賃のように、払う一方で財産として残らない、というものとは意味合いが異なるからです。

したがって、このような住宅ローンの支払いについては、生活費の支払い(婚姻費用の分担)で考慮するのではなく、離婚の際の夫婦の財産分与において考慮すべき、という考え方が原則とされています。

しかし、妻が働いていて収入もあるような場合においては、夫が自分の賃貸住宅の家賃の支払いと、妻の住む家の住宅ローンの支払いの二重払いの状態を長く余儀なくされることは、夫にとっては大変酷ですし、他方で妻が収入がありながら住居費を全く払わないで住むことを認めるということは、公平を欠くとも言えます。

そこで、妻が無職ではなく働いていて収入があるような場合には、妻が全く住居費を払っていない、ということを婚姻費用の算定にあたって考慮すべきとするケースが多いです。

この場合の一つの考え方は、妻の収入に対応する平均的な住居関係費を、標準的婚姻費用相当額から差し引くという考え方です。

具体的には、家計調査年表等から、その人の属性や年収に対応する平均的な住居費というものを割り出し、その金額を標準的な婚姻費用相当額から差し引くというものです(大阪高等裁判所平成21年11月26日決定等)。

例えば、双方の年収から算出される標準的な婚姻費用相当額が6万円となる場合に、妻の年収から割り出される平均的な住居関係費が3万円である場合は、夫が妻に支払うべき婚姻費用は、6万円から3万円を引いた月額3万円ということになります。

他にも色々な考え方が裁判例において提唱されていますが、いずれにしても、

「住宅ローンとして支払っている金額を全て差し引ける」

という考え方は認められる可能性は低いです。

この点については、離婚相談をしていても一般的に誤解が多いように感じられます。

特に、住宅ローンを払っている夫側は、このような裁判実務の考え方に不満を持つことが多く、夫、妻どちらの側についても、弁護士として折衝に苦労することが多々あります。

以上を踏まえますと、ただひとつ言えることは、

自分が住宅ローンを払っている家から出て行くことは、相当の経済的リスクがある

ということですので、別居する場合には相当の覚悟を持っておくべきでしょう。


2015年11月30日更新

Q 妻が離婚すると言って家を出てしまいました。

その後、離婚の話合いは難航して長引いており、その間、妻からは「離婚するまでは生活費を支払え」という請求を受けています。

しかし、私には生活に困窮している母がいて、母に仕送りをしているので、別居中の妻に払える生活費などありませんので払えません。

母への援助を優先させることはできないのでしょうか。

A 妻への生活費の支払いが優先されます。

一昔前、親の扶養が十分可能な収入なのに親に生活保護を受給させていた、という芸能人のニュースが世間を賑わせていました。

このニュースによって、民法上の親に対する扶養義務、というものがクローズアップされています。

この扶養義務の問題と、別居中の配偶者への生活費(婚姻費用)の支払いが交差する問題があります。

上記のような夫の言い分は法律上認められるのでしょうか。

この夫の言い分は原則として認められない、と判断したのが、大阪高等裁判所昭和62年1月12日判決です。

なぜかというと、妻や子供に対して夫が負うべき扶養義務というのは「生活保持義務」というものです。これは、夫自身の収入と見合い、かつ自己の生活程度と同程度の生活を妻や子供にも保障すべき義務と言われています。

要するに、法律上は、夫は、自分の生活レベルと同程度の生活を、妻と子どもにも保障しなさい、と言うことになります。

他方で、親に対する扶養義務というものは、「生活扶助義務」というものです。これは、子が(妻子のそれを含めて)社会的地位相応の生活をおくった上で、なお余裕があれば、その限度で最低限の金銭的援助をすれば足りるものと言われています。

したがって、夫としては、まず第一に妻と子供に自分と同程度の生活を保障した上で、余裕があれば、親の面倒を見て良い、というのが法律の建前なのです。

もっとも、以上はあくまでも原則であり、例えば、夫婦の別居前から親と世帯を同じくして生活の面倒をみていた、という場合には、親に対する扶養義務と、妻と子供に対する扶養義務は同列となります。


【判旨:大阪高等裁判所昭和62年1月12日判決】

「民法七六〇条の「婚姻から生ずる費用」とは夫婦が共同生活を維持することにより生ずる一切の費用をいい、この婚姻費用分担義務は夫婦の一方が他方及び未成熟子の最低生活を維持すればよいというものではなく、いわゆる生活保持の義務として、他方及び未成熟子の生活を自己と同一程度において保障すべき性質をもつものである。」

「したがつて、夫はまずもつて妻子に対し自身の収入と見合いかつ自己の生活程度と同程度の生活を保障すべきであるから、両親の生活扶助に関し夫婦の別居前から世帯を同じくし生活保持の義務に準ずべきものとなつていたなど特段の事情がない限り、自分がその社会的地位、職業にほぼふさわしい生活程度を維持しうる限度で扶養すれば足りる親に対する生活扶助の義務よりも優先して妻子の婚姻費用を分担すべきである。」


2015年11月30日更新

Q 夫と離婚することになり、現在小学生の子どもは私が引き取り親権者になることとなりました。

現在夫と養育費について話合いをしていますが、夫は

「児童手当をもらえるんだから、その分養育費を減らせ。」

と言って聞きません。

このような夫の主張は認められるのでしょうか。

A 児童手当の分は養育費の算定にあたっては考慮されません。

夫婦が離婚した後、子どもを養育することになる者は、もとの配偶者に対して養育費を支払うよう請求できます。

養育費の金額は、裁判所の研究会が作成した「養育費算定表」というものを使って、双方の年収の数字から機械的に算出するというのが現在の家庭裁判所の実務です。

その金額については、どちらかが企業の役員であるなど相当の高収入でない限りは、子ども一人につきおおよそ5万円前後という金額になることが多いです(あるスポーツ選手の離婚の時は、養育費が月額500万円とか言われてましたが何とも夢の様な数字です。)。

この金額を高いと思うか、安いと思うかは人それぞれかと思いますが、この金額を決めるときによく出てくる主張が「児童手当の金額は考慮されないのか」というものです。

養育費を支払わなければならない側(一般的には夫が多い)は、月の支払を1万円でも2万円でも減らしたいがために「妻は子ども2人分の児童手当で、月~万円ももらっているんだから、その分は差し引くべきだ!」と主張することがあります。

このような主張が実際に裁判で争われましたが、結果的には認められませんでした。

広島高等裁判所平成22年6月24日判決は、上記のような夫の主張を認めなかった理由として

「子ども手当については、子育てを未来への投資として、次代を担う子どもの育ちを個人や家族のみの問題とするのではなく、社会全体で応援するという観点から実施するものであると説明されている」

と述べました。

要するに、子ども手当というのは、社会全体で子育てを応援するものなのだから、養育費のような夫婦間の問題とは次元が違うので一緒くたに考えるべきではない、ということのようです。

この判決が出された当時は、子ども手当は月2万6000円になることが予定されていましたし、収入要件もありませんでした。

しかし、今や「子ども手当」という名称すら変わり、金額やら収入要件やら色々と随分違う形になってしまいましたが、「子育てを社会全体で応援する」という根本的な思想は変わっていないように思いますので、今後もこの判決の考え方は維持されていくものと思われます。


2015年11月30日更新

Q 夫と離婚することになり、現在中学生の子どもは私が引き取り親権者になることとなりました。夫とは、養育費の支払いについて、公正証書で取り決めてして欲しいと話し合いをしています。私は子どもが大学に進学することも考えて、せめて大学卒業までは払って欲しいと求めています。

しかし、夫は

「高校卒業までしか払わない。百歩譲っても二十歳までだ。」

と言って聞きません。

離婚した後の子どもの養育費というのは子どもが成人するまでしか支払われないのでしょうか。子どもが大学に進学した場合、大学を卒業するまで支払われるのでしょうか。

A 離婚時にすでに子どもが大学に進学していたり、両親がどちらも大卒で、子どもも小さい頃から当然のように四年制大学に進学することを前提として教育を受けていたというような事情がある場合には、四年制大学を卒業するまで養育費が認められることもあります。

養育費というのは子どもが「未成熟子」である間に支給されるべきものというのが法律の考え方になります。

「未成年」ではなく「未成熟子」となっているのがポイントです。

「未成熟子」とは、親の監護なしには生活できない状況にあるため親に特に高度の扶養義務を課す必要の認められる子、と言われています。

このように、「未成熟子」という言葉は広い意味を持つので、その解釈によって養育費が支払われる期間というものも左右されることになります。

現在の裁判実務の傾向は、養育費が支払われるのは子どもが「成人するまで」、すなわち20歳になった誕生日の月までというのが基準となっています。

したがって、協議・調停で話し合いがつかず、裁判所で審判、判決となる場合には「成人するまで」という結果となることがほとんどです。

では、子どもが例えば4年制大学に進学した場合、大学を卒業するまで(通常は22歳まででしょう)支払われないのでしょうか。

夫婦の合意があれば、大学卒業まで支払う旨の条項を公正証書や調停で定めることは当然可能です。

しかし、協議や調停が整わず、裁判所で審判や判決が出されるような場合には、原則として「成人するまで」との審判や判決が出されます。

大学卒業まで、という判断が出ることは稀です。

しかし、離婚時にすでに子どもが大学に進学していたり、両親がどちらも大卒で、子どもも小さい頃から当然のように四年制大学に進学することを前提として教育を受けていたというような事情がある場合には、四年制大学を卒業するまで養育費が認められることもあるようです。

なお、最近は離婚調停などの話し合いの際に、お互いが合意の上で、大学に入学した場合の条件付きで、四年制大学を卒業するまで養育費を支払う、という合意をするケースも多いです。

現在では四年制大学へ進学する子どもがかなりの数に及んでおり、その間も子どもが経済的になかなか自立できないという現実を考えれば、親が子供の為に大学卒業まで養育費を支払ってあげるのが本来の形である・・・と言いたいところですが、調停や裁判では、夫婦間の心情的な事情もあり、経済状況もあり、なかなか難しい問題です。


2015年11月30日更新

Q 妻が他の男性と不倫をして、子どもを連れて家を出ていきました。

今も別居状態で、妻は子どもと二人で生活しています。

離婚の話がまとまらないうちに、妻から婚姻費用の請求がなされました。この場合、私は妻に生活費を支払わなければならないのでしょうか?

A 妻の生活費相当部分の請求は認められませんが、子どもの養育費に相当する部分については、請求は認められる場合があります。

夫婦間が不仲になり、妻もしくは夫が家を出て別居状態となり、もはや復縁の余地もないような場合であっても、離婚していない限りは、夫婦間で互いに生活費を分担する義務、すなわち、収入の多い配偶者(一般的には夫)が、収入の少ない配偶者の生活費を負担する義務があります。

これは、民法で扶助義務(752条)と婚姻費用分担義務(760条)が定められていることから生じるものです。

したがって、別居状態となった夫婦間で、離婚の協議が進まない場合には、一般的には収入の少ない妻の方から夫に対して生活費の支払いを請求するというのが一般的です。

しかし、今回のケースのように、別居の原因、夫婦関係悪化の原因を作った者から相手方に対して婚姻費用の請求をした場合、それは「権利を濫用するもの」として認められないというのが裁判実務の傾向です。自らが別居の原因を作っておきながら離婚せずに生活費だけ請求できるというのは明らかに不公平ですので、当然といえば当然の話です。

基本的には請求自体認められないという裁判例が多いですが、事案の悪質性(有責性)などを考慮して、全額請求は認められないが最低生活を維持する限度の生活費の請求は許されるとした事例(札幌高判昭50.6.30、名古屋高金沢支判昭59.2.13)もあります。

しかし、仮に今回のケースのように妻が不倫をして家を出たというように、妻が別居及び夫婦関係破綻の原因を作ったとしても、そのことについては子どもには全く責任はありません。

したがって、今回のようなケースで妻から婚姻費用の請求をした場合、妻の生活費相当部分は請求は認められませんが、子どもの養育費に相当する部分については請求は認められるという裁判例があります(東京家裁平成20年7月31日審判)。

親の不始末について子どもには全く責任はありませんから、これは至極当然のことでしょう。


【判旨:東京家庭裁判所平成20年7月31日審判】

「以上によれば、別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというべきところ、申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって、このような場合にあっては、申立人は、自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず、ただ同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。」


2015年11月30日更新

Q 夫が不倫をして家を出ていってしまいました。

夫からは離婚を強く迫られています。

私としては不本意ではありますが、離婚せざるを得ないと考えていますが、夫が許せないので慰謝料を請求したいです

この場合の慰謝料は、インターネットや本などで見ると300万円というのが一つの目安のようですが、それ以上の金額が認められることはありますか?

A 不倫による離婚の場合であっても、ケースによって300万円以上の慰謝料が認められることがあります。

離婚の法律相談の場面では

「夫が不倫をして家を出ていってしまい、その後離婚するよう迫ってきた。」

という相談を受けることが多いです。

この場合に、妻としては

・離婚を拒絶する

・慰謝料をもらって離婚する

のいずれかを選択してその後の対応を考えることとなります。

では、慰謝料をもらって離婚することを決めた場合、配偶者が不倫したことを原因として離婚をせざるを得なくなった場合に請求できる慰謝料はいくらぐらいでしょうか。

この場合の金額については様々な文献やインターネットで書かれていますのでご存知の方も多いと思いますが、裁判上認められている相場は「200~300万円」です。

もっとも、この数字は、昭和50年頃から変わっていないと言われています。

昭和50年からすれば物価は上昇し、交通事故の慰謝料は現在は倍になっているのに、なぜかこの慰謝料だけは30年以上前の金額からほとんど変わっていません。

それはさておき、このような「相場」の金額に対し、大半の方は「少なすぎる」と不満を漏らすのですが、不倫の慰謝料で300万円を超えるケースというのはかなり少ないのが現状です。

では、300万円という一般的な相場を超えるような慰謝料が認められるケースとはどのようなケースなのでしょうか。

これは、正直なところケースバイケースとしか言いようがないのですが、今回紹介する裁判例は、1500万円というかなり高額な慰謝料が認められています。

その理由としてあげられている事情は

・夫が不倫して家を出た際に妻に建物を渡したのみで、その後40年間の別居期間中全く生活費等を渡さなかったこと。

・夫が不倫相手と会社を3つ経営し、資産家であったこと。

です。

なお、このケースは昭和12年に結婚して、昭和24年に夫が不倫してそれから別居状態となり、離婚裁判を起こすも認められず、最終的に別居してから40年以上たった平成元年に、ようやく裁判で離婚が認められたというケースです。

判決言渡時には夫も妻も70歳を超えていました。

このように少し特殊なケースではありますが、このケースから一般的な基準を見出すならば、慰謝料が相場よりも増額される要素としては

・別居後に生活費などの援助をしていたかどうか

・不倫した配偶者が資産を持っているか(高収入か)

という点になるでしょう。

したがって、離婚を求める側としては慰謝料を増額されないためには、別居後も生活費はしっかりと払う必要があるでしょうし、慰謝料を求める側としては、別居後に生活費が支払われていないならばその事情を裁判所に訴えて慰謝料の増額を求めることになります。


【判旨:東京高等裁判所平成元年11月22日判決】控訴人:夫、被控訴人:妻

「控訴人は、昭和24年8月ころから丙野月子と同棲し不貞行為を継続しているものであり、しかも被控訴人と別居するに際して文京区○○町所在の建物(当時の価格24万円)を与えたほかには40年間何らの経済的給付をせずに今日に至つたのであつて、被控訴人を悪意で遺棄したものというべきであるから、控訴人には民法第709条に基づき被控訴人が受けた精神的損害を賠償する義務がある。」

「そこで慰籍料の金額について検討するに、被控訴人は破綻の原因を作出していないのに自己の意思に反して強制的に離婚させられ、控訴人が不貞の相手方たる丙野月子と法律上の婚姻ができる状態になることは被控訴人に多大の精神的苦痛を与えることは明らかであり、控訴人が丙野月子と生活して2人の子供も生まれ、一家によつて会社を経営し、相当程度の生活を営んでいることは前記のとおりであ」る。

「一方、被控訴人は実兄の家に身を寄せ、今日まで単身生活を送つてきたこと、その他一切の事情を斟酌するならば、被控訴人の精神的苦痛(控訴人が破綻原因を作つてから本件慰籍料請求反訴状が控訴人に送達された平成元年7月28日まで)を慰籍するには1500万円をもつて相当というべきであり、控訴人は被控訴人に対し右金員及びこれに対する不法行為の後である平成元年7月29日から完済に至るまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。」


2015年11月30日更新

Q 夫が会社の部下と不倫しました。

とてもショックを受けましたが、夫が謝ってきて不倫相手との関係を解消してくれたことや、子どもがまだ小さいので、子どものことなどを考えて離婚はせずに踏みとどまることにしました。

しかし、夫の不倫相手の女性のことは許せないので相手の女性に慰謝料請求をしたいと考えています。

慰謝料はどれくらい請求できるのでしょうか?

A 離婚した場合と比べて半分以下の金額になる可能性があります。

不倫というのは、法律的には、不倫をした夫とその女性の二人が、共同して妻の地位を侵害した、という共同不法行為(民法719条)と評価されます。

したがって、その損害賠償責任というものは、夫と不倫相手の女性が二人で共同して負うことになります。

不倫によって、結果的に夫婦が離婚に至ってしまった場合には、雑な言い方をすれば不倫の破壊力が高かったために婚姻関係も壊され、妻のダメージもそれだけ大きかったと評価されますので、慰謝料の金額も高くなります(相場では300万円前後です)。

他方で、今回のテーマのように、夫が不倫したものの、最終的に妻が許して離婚にまで至らなかった場合、不倫の破壊力はそこまで高くなく、離婚に至らなかったという意味で妻のダメージも修復可能なものと評価されるため、慰謝料の金額も低額となる傾向があります(50~150万円くらいとなることが多いようです)。

このように慰謝料の金額は、まず不倫によって結果的に夫婦が離婚したか否かということが、慰謝料の金額を決するための大きな分かれ道となります。

もっとも、その他、不倫に至る経緯が問題とされることもあります。

例えば、夫が不倫相手に執拗に交際を迫りなかなか別れようとしなかった場合には、不倫相手の責任はそれほど高くなかったと評価されるので、不倫相手への慰謝料は低くなるでしょう。

逆に、不倫相手が夫に対して職場の権限などを濫用して交際を迫ったような場合(パワハラ等)には、不倫相手に対する慰謝料は高額なものとなる可能性があります。

東京地裁平成4年12月10日判決のケースは、夫が不倫し、結果的に離婚はしなかったけれども妻から不倫相手に慰謝料を請求したというケースにおいて、不倫相手は夫の不倫関係を解消しようとしたものの夫が不倫相手となかなか別れようとしなかったこと、夫婦が結果的に離婚せずに夫婦関係が修復されたことなどを理由として、妻が500万円の慰謝料の請求をしたことに対して、裁判所は50万円のみを認めました。


【判旨:東京地裁平成4年12月10日判決】

「被告は原告と一郎とが婚姻関係にあることを知りながら一郎と情交関係にあったもので、右不貞行為を契機として原告と一郎との婚姻関係が破綻の危機に瀕し原告が深刻な苦悩に陥ったことに照らせば、原告がこれによって被った精神的損害については不法行為責任を負うべきものである。しかしながら、婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものであり、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあるというべきであって、不貞の相手方において自己の優越的地位や不貞配偶者の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて不貞配偶者の意思決定を拘束したような特別の事情が存在する場合を除き、不貞の相手方の責任は副次的というべきである。

本件においては、

(1) 被告と一郎との関係は、職場における同僚であるが、一郎は主任として被告の上役にあったものであって、被告において一郎の自由な意思決定を拘束するような状況にあったものとは到底認められず、前記認定事実に照らせば、むしろ、右両名が不倫関係に至り、これを継続した経緯においてはどちらかといえば一郎が主導的役割を果たしていたものと認められること、

(2) 原告と一郎の婚姻関係において不和を生じ、破綻の危機を招来したことについては、確かに被告と不倫関係を生じたことがその契機となっているとはいえ、夫婦間の信頼関係が危機状態に至ったのは一郎の生来の性格ないし行動に由来するところもあるものと認められ、また、一郎がこのような行動をとったことについては、原告と一郎との夫婦間における性格、価値観の相違、生活上の感情の行き違い等が全く無関係であったかどうかは疑問であること、

(3) 婚姻関係破綻の危機により原告が被った精神的苦痛に対しては、第一次的には配偶者相互間においてその回復が図られるべきであり、この意味でまず一郎がその責に任ずるべきところ、原告はこの点について一郎に対する請求を宥恕しているものと認められること、

(4) 原告が本件訴訟を提起した主たる目的は被告と一郎との不倫関係を解消させることにあったところ、本件訴訟提起の結果被告と一郎との関係は解消され、この点についての原告の意図は奏功したものと認められること、

(5) この結果、原告と一郎との夫婦関係はともかくも修復し、現在は、夫婦関係破綻の危機は乗り越えられたものと認められること(この点につき、原告は、本人尋問において、一郎と離婚するつもりであり、夫婦間の性交渉も拒否していることを供述するが、一郎は証人尋問において、原告から明確な形で離婚を求められたことはなく、平成四年五月以降は性交渉を含めて平穏な夫婦関係に復している旨を証言しているものであって、原告の右供述は、一郎の右証言内容及び周囲の客観的状況(原告と一郎は同居しており、現在に至るまで、原告から一郎に対して離婚調停、離婚訴訟等は一切が提起されていないことはもとより、離婚について親族を含めての話し合いが持たれたこともない。)に照らし、にわかに信じることはできない。原告本人の右供述は、法廷当事者席の被告に聞かせることを意識しての発言というほかはない。)、

(6) 被告と一郎との関係解消は、一郎の反省によるというよりも、むしろ被告の主体的な行動により実現されたものであって、被告が勤務先を退職して岩手県の実家に帰ったことによって最終的な関係解消が達成されたこと、

(7) 被告自身も一郎との不倫関係については相応に悩んでいたものであって、一郎との関係解消に当たって、勤務先を退職し、意図していた東京における転職も断念して岩手県の実家に帰ったことで、相応の社会的制裁を受けていること(これに対して、一郎は、従来の職場に引き続き勤務しているものであって、少なくとも社会生活上の変化はない。)

等の各事情が指摘できるところである。

右各事情に加えて、その他本件において認められる一切の事情を考慮すれば、本訴において認容すべき慰謝料額は金五〇万円をもって相当と認める(ところで、原告の被った精神的苦痛に対しては、一郎も不法行為に基づく損害賠償債務を負うことが明らかであるところ、被告の義務と一郎の義務とは重なる限度で不真正連帯債務の関係にあって、いずれかが原告の損害賠償債権を満足させる給付をすれば他方は給付を免れ、給付をした者は他方に対して負担割合(本件においては、一郎の負担割合は少なくとも二分の一以上と認められる。)に応じて求償することのできる関係にある、と解される。)。

なお、付言するに、本件においては、現在、本件訴訟の提起を契機として被告と一郎との関係は完全に解消されており、被告においてはもはや一郎との交際の再開を全く考えておらず、一郎においても、被告と関係を持ったことを反省して、原告との夫婦関係を修復してこれを維持していくことを強く希望していることが認められるものであるから、原告においても、過去における被告と一郎との関係に徒らに拘泥することなく、今はむしろ、一郎との間の夫婦関係を速やかに修復して、ふたりの間の信頼関係の構築に務め、今後夫婦関係を平穏、円滑に発展させていくことが、強く望まれるところである。」


2015年11月30日更新

 

Q 夫から離婚を求められ、不本意ではありますが離婚することになりました。しかし、私は結婚してからずっと専業主婦で、今後就職するにも厳しい状況です。

結婚中は、夫が散財していたせいで預貯金も残っておらず、家もありません。したがって、財産分与で受け取れる金額もごく僅かです。

両親は亡くなっており、頼れる親族もいない状況です。

このような状況では、離婚した後の生活がとても不安です。

離婚した後でも夫から生活費をもらうことはできないのでしょうか。

A 扶養的財産分与として、一定期間生活費をもらえる可能性があります。

離婚した夫婦において、妻が長く専業主婦であった場合、離婚後どのように生計を立てていくかは切実な問題です。専業主婦であった期間が長かったり、離婚時に高齢であった場合には就職することも相当の困難を伴う場合が多いため、財産的な手当がないままに離婚をしてしまうと妻が路頭に迷う事になりかねません。

このような場合に、離婚後に妻が自活できるまでの間、妻から夫に対して生活費の援助という形で金銭の支払を求めることができます。

これを法律上は「扶養的財産分与」といいます。

しかし、これが認められるケースというのは裁判実務では限定されているのが実情です。

離婚時になされる「財産分与」というものには、

「清算的財産分与」「扶養的財産分与」

という二つの概念が存在します。

夫婦が結婚生活中に形成した財産(貯金や家や車など)を、離婚の際に夫婦間で公平に分けることを「精算的財産分与」と言い、一般的に「財産分与」とはこの清算的財産分与のことを言います。

これに対して、「扶養的財産分与」とは、一方の配偶者(主に夫)が他方の配偶者(主に妻)に対して離婚後も扶養義務を負い、一定期間生活費を支払うというものです。

このように財産分与には二つの概念が存在するのですが、両者の関係は、基本的には清算的財産分与が第一で、扶養的財産分与というのはあくまでもオマケ(不正確な表現かもしれませんが)のような存在です。

すなわち、清算的財産分与(夫婦で形成した財産を分ける)をまず行い、その結果、妻に対して財産分与がほとんどなく、これでは妻が離婚後の生活に困るという場合に、扶養的財産分与というものが検討されるのです。

ですから、清算的財産分与でそれなりの財産が夫から妻に分けられるような場合には、扶養的財産分与というものは認められないというのが裁判実務の傾向です。

また、仮に清算的財産分与がほとんどない場合であっても、離婚後に妻が実家の両親のもとに戻るなどして、両親の収入などで生活できる場合には、やはり扶養の必要性がないとして、扶養的財産分与は認められないことが多いでしょう。

このように、扶養的財産分与というものが認められるためには超えるべきいくつかのハードルがあるのです。

また、仮に、扶養的財産分与が認められたとしても、永久に生活費を支払うというものではなく、離婚後、自立できるであろうまでの期間(1~2年程度)に限定される、ということが多いです。

以上の実情を踏まえますと、離婚するにせよしないにせよ、結婚生活中の「蓄え」というものが重要であると言えます。


2015年11月30日更新