相続・遺言無効・遺留分請求のための弁護士相談

Q 親が亡くなりました。

相続人は私と弟の二人だけです。

遺産は、親の住んでいた家・土地くらいしか有りません。

弟は、「家は処分してお金に変えて分けよう」と言ってきていますが、私としては先祖代々からある家・土地ですし、生まれ育った実家でもあるので、できれば売らずに自分がそこに移住して守っていきたいと思います。

その話を弟にしても「自分は売ってお金に変えたい。それが嫌なら兄貴がその分お金を払ってくれ」と言って聞きません。

この場合、遺産分割で私が家・土地を取得するためにはどうしたらいいのでしょうか?

A 代償金を支払うだけの資力があれば、代償金を払うのと引換に家と土地を取得することが可能です。

親が死亡し、その遺産が、親の住んでいた家と土地だけだったという場合、相続人である子どもたちの間では「もう誰も住まないのだから処分してしまおう。」という意見か、「せっかく親が住んできた家なのだから、処分せずに守っていきたい。」という意見のどちらかで争われることが多いです。

後者の意見、すなわち「親が住んできた家だから処分せずに守る。」という方向で遺産分割協議をする場合には、家と土地の名義を相続人全員の共有にするという遺産分割方法をとることもあります。しかし、これでは、解決を次の世代に先送りするだけになってしまいますので、あまり良い方法ではありません。

それよりも、むしろ家と土地を相続人のうちの誰か一人が取得することとし、不動産を取得した相続人は、他の相続人に対して各々の相続分の価値に相当する金額、すなわち代償金を支払うという遺産分割方法、すなわち代償分割という方法を検討することが一般的です。

この代償分割という方法をとる場合は、果たしてその代償金を支払うだけの能力があるのかどうかという点が重要です。

例えば、本件のケースで親の住んでいた家・土地が4000万円の価値がある一戸建てだった場合、それを取得したい兄は、弟に対して相続分の2分の1に相当する金額(2000万円)を支払われなければなりません。しかも、原則として一括払いです。

相続人間で意見がまとまらずに裁判となった場合には、代償分割の方法が認められるためには、代償金を支払うだけの能力があるかどうかについて、預金の残高証明書や銀行の融資証明書、売却予定の不動産の買付証明書などの財産の存在を証明する証拠を提出したり、事情の存在を主張しなければ、代償分割は認められません。

したがいまして、資力の証明というものがとても重要です。


【判旨:最高裁判所平成12年9月7日第一小法廷判決】

「家庭裁判所は、特別の事由があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物をもってする分割に代えることができるが(家事審判規則109条)、右の特別の事由がある場合であるとして共同相続人の一人又は数人に金銭債務を負担させるためには、当該相続人にその支払能力があることを要すると解すべきである。

これを本件についてみると、原審は、抗告人相沢順子に対し、原決定確定の日から6箇月以内に、相手方らに総額1億8822万円を支払うことを命じているところ、原決定中に同抗告人が右金銭の支払能力がある旨の説示はなく、本件記録を精査しても、右支払能力があることを認めるに足りる事情はうかがわれない。

そうすると、原決定には家事審判規則109条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は裁判に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原決定中、被相続人楠木博文の遺産の分割に係る部分は破棄を免れない。そして、右に説示したところに従い更に審理を尽くさせるため、右部分について本件を原審に差し戻すのが相当である。」


2015年11月30日更新

Q 遺産として土地がありますが、相続人が5人いて相続人の誰が土地を取得するか話がまとまりません。また、誰もこの土地を欲しいという者もいません。

この場合、この土地はどのように遺産分割すべきでしょうか。

A 土地を競売にかけた上で、売れた代金を分けるという方法になります(換価分割)

遺産を分ける方法はいくつかありますが、原則的な方法は「現物分割」(まさにそのものを分ける)となります。

しかし、土地などの不動産の場合には、現物分割の方法に従ってそのまま法定相続分で土地を分けると、土地が細分化するなどして土地の利用価値がなくなる場合がほとんどです。

したがって、一般的な宅地が遺産の場合にはこの方法によることは出来ません。

そこで、次に考慮される方法としては、「代償分割」というものになります。

これは、誰かが土地を相続することと引き換えに、土地を相続しない相続人に対して法定相続分に相当する土地の価値相当額(代償金)を支払うという方法が検討されます。

しかし、誰も土地を欲しない場合や、そもそも代償金を支払えるような相続人がいない場合、最終的な手段として「換価分割」という方法になります。この方法は、不動産を競売にかけて、その競売代金を相続分に従って分割するという方法です。

もっとも、換価分割はあくまでも最終的な手段ですので、裁判所も簡単にはその方法での分割は認めないようです。

「現物分割」や「代償分割」が本当に不可能なのか、換価分割が本当にやむを得ないものなのかどうかを慎重に審理する傾向があります(仙台高決平成5年7月21日)。

現物分割も代償分割もできないような場合は、通常は、遺産分割調停の中で相続人間で不動産を仲介業者に委託して売却してもらいその売却代金を分割する旨の合意をし、その後に任意売却してその代金を分けるという方法がとられます。

競売にかけるよりも業者を通じた任意売却の方が売買代金も高くなりますので通常はこのような方向での話し合いがなされます。

しかし、不動産以外の遺産の分割で話し合い全てがこじれてしまったり、辺鄙な土地等で業者に委託してもなかなか売れないような不動産の場合には、やむを得ずに換価分割の方法をとり、不動産を競売にかけて不動産を処分するということになるのです。


【判旨:仙台高等裁判所平成5年7月21日決定】

「本件遺産につき、現物分割をすることが不可能であるとしても、直ちに、競売によりその代金を分割する方法を取ることは相当でない。」

「本件遺産につき、これを相続人のうちの特定の者(1人とは限らない。)に取得させて、取得者が債務を負担する方法をとることが可能であれば、競売による換価分割よりも望ましい方法であることは明らかである。ところが、原裁判所は、・・・抗告人ら及び相手方には本件遺産を取得する資力(分割支払い能力も含まれる。)を有する者はいないと認定して、債務負担の方法による遺産分割を否定しているが、相手方及び抗告人らに本件遺産を取得する資力を有する者はいないと認定するに足る充分な資料は一件記録からは明らかでない。」

「したがって、本件建物1の所有者である相手方及び抗告人甲野一郎、本件建物2の所有者である抗告人甲野三郎が本件宅地を利用している法律関係、本件遺産につき、これを相続人のうちの特定の者が取得して、取得者が債務を負担する方法が可能であるか否かにつき原裁判所は審理を尽くしていないというべきであり、これらの点につきなお審理を尽くさせる必要がある。」


2015年11月30日更新

遺産の不動産の分割について話合いで解決できなかった場合、裁判所の調停・審判ではどのように分割されるのでしょうか。

遺産の分け方というのは大きく分けて4つあります。

①現物分割

②代償分割

③換価分割

④共有分割

の4つです。

上記のうち、原則的な方法は、①の現物分割(まさにそのものを分ける)となります。

しかし、この分割方法は、例えば預金などのお金であれば単純に分けることも可能ですが、土地などの不動産の場合には、そのまま法定相続分に従って土地を分けると、例えば100㎡の土地を相続人4人で分けたら一人当たり25㎡になってしまい、もはや土地の利用価値がなくなってしまいます。

とても広い土地であれば別ですが、普通の住宅地などではまず意味のない分け方になってしまいますので、一般的な宅地が遺産の場合にはこの方法によることはできません。

次に考慮される方法としては、②の代償分割となります。

この方法は、誰かが土地を相続することと引き換えに、土地を相続しない相続人に対して法定相続分に相当する土地の価値相当額(代償金)を支払うという方法です。

しかし、誰も「そんな土地なんかいらない!」と言って欲しがらない場合はこの方法は使えませんし、また、都市部だと不動産の価値も高いことが多く、代償金額も数千万円になってしまいますので、誰も代償金を払えず・・・、ということも多いです。

そうなった場合、最終的な手段として③換価分割という方法が認められます。

この方法は、不動産を競売にかけて、その競売代金を相続分に従って分割するという方法です。

要は強制的にお金に変えて分けてしまう、という方法です。

話合いがつかなければ、裁判所はこの「換価分割」という方法の決定を下すことになります。

もっとも、この換価分割はあくまでも最終的な手段ですので、やはり裁判所も簡単にはその方法での分割は認めません。

現物分割や代償分割が本当に不可能なのか、換価分割がやむを得ないものなのかどうかを慎重に審理する傾向があります(仙台高等裁判所平成5年7月21日決定)。

なお、現物分割も代償分割もできないような場合は、通常は、遺産分割調停の中で「不動産を仲介業者に委託して不動産を売却してもらいその売却代金を分割する旨の合意」をし、その後に任意売却してその代金を分けるという方法がとられます。

競売だと市場価格の5割~7割くらいで処分されてしまいますが、仲介業者を通じた任意売却によれば、市場価格で売却されることがほとんどですので、売買代金も高くなります。したがって、現物分割も代償分割もできない場合は、このような方向の話合いになっていくことが多いです。

なお、裁判所が何らかの理由で「換価分割」も認めない、となった場合は、④の共有分割という分け方になります。

これは、不動産を法定相続分に従って、「共有」にするというものです。

もっとも、不動産を「共有」にしても、これはあくまでも問題を先送りにするだけということで、よほどの事情がない限りはこの方法は採られません。

仮に「共有」となった場合は、さらに、その後に別途「共有物分割請求訴訟」を提起して、分割を求めていく必要があります。


2015年11月30日更新

一般の方の多くは、遺産分割調停のなどの裁判手続になると「解決までにとても時間がかかるのでは?」ということを心配されます。

では実際にどれくらい時間がかかるかというと、ケースバイケースとしか言いようがないのですが、個人的な経験では、解決までは短くても6ヶ月、通常は1年くらい、長ければ2~3年、はたまた5年10年・・・という状況だと思います。

なぜ時間がかかるかというと、調停の進め方というのは概ね

1 相続人の範囲

2 遺産の範囲

3 遺産の評価(特に不動産について)

4 遺産の分け方(寄与分・特別受益)

といった順序で話を整理しながら相続人全員の合意を得ながら進めていくことになるのですが、そもそも、この調停自体が1~2ヶ月に一回のペースでしか開かれない上、一回の調停も概ね2時間程度で終わりますので1回あたりに話ができる内容も自ずと限られてきます。

相続人間で意見の対立の激しい争点(特に2~4でつまづくことが多いです)があると、合意ができるまで調停期日を何回も重ねることとなり、そのため解決までの期間も長期化する・・・ということです。

いずれにしても、解決までにはそれなりに時間がかかってしまう遺産分割調停ですが、この程東京家庭裁判所では、遺産分割調停については1年以内で解決することを目標に、今年の9月から調停の進め方のルールを定めたようです。口頭で聞いたものなので、不正確な部分もあるかもしれませんが、概ね以下のようなルールのようです。

・調停の3回目、5回目、7回目に、調停委員と裁判官が協議する機会を設け、調停の進行状況や、調停の成立を阻害するような要素を確認する。調停7回目を1つの目処とし、7回目終了後の評議においては、調停の終結も視野に入れて解決策・進行を評議する。

・5回目を目処に争点整理を完了する。その後、6回目、7回目の調停期日を出来る限り間髪入れずに設定して(本人の気が変わらないように)、7回目までに調停が成立するように調整をしていく。

・万が一8回目までに調停が成立しなかった場合、裁判官が、なぜ調停が成立しなかったのか、その事情や理由などを確認し、調停を続けるか、審判に移行するか検討する。

以上のとおり、家庭裁判所としては、8回目の調停までには調停を成立させることを目標に調停を運営していくようです。調停が開かれるのが、概ね1~2ヶ月に一回のペースなので、調停が8回というと大体1年以内ということになろうかと思います。

紛争が長引けば当事者の精神的負担も大きくなりますので、早く調停が進み解決することに越したことはないのですが、調停というのはあくまでも話し合いの手続ですから、解決のためには双方が納得することが必要です。期間だけに囚われすぎて、各相続人の「納得を得る」という過程がおろそかにならないことを望むばかりです。


2015年11月30日更新

Q 父が死亡しました。

相続人は私と姉の二人だけですが、遺産分割の話合いがなかなか進まず、父が亡くなってから既に3年以上経過しています。

姉は、父が生きていた時から、父の自宅で父と同居しており、父が亡くなった後も姉は父の自宅に一人で住み続けています。

私の相続分は、父の自宅についても2分の1になるはずですが、遺産分割がまとまらない間も姉は遺産である父の自宅に無償で住み続けており、このままでは、年が経てば経つほど姉だけが得して不公平だと思います。

今後、いつ遺産分割がまとまるかもわかりませんので、姉に対して父の自宅に住んでいることについて賃料相当額(の半額)の請求をしたいと思っているのですが、これは認められるのでしょうか。

A 遺産分割協議が確定するまでの間は、賃料相当額の請求はできません。

相続による権利等の承継は、被相続人が亡くなった時点で発生します。

したがって、被相続人が亡くなった時点で、その遺産は、法律上は相続人に引き継がれて相続人全員の共有状態となります。

本件では、父の自宅も、父が亡くなった時点で子ども二人2分の1ずつの共有となります。

そうであるとすれば、父の自宅については父の死亡後から弟も2分の1の権利を持っていますので、2分の1については姉に対して「貸している」状態になり、従って、家賃の2分の1について請求できるようにも思われます。

しかし、このようなケースにおいて、最高裁判所平成8年12月17日判決は、

「遺産分割協議が成立するまでの間は、姉は無償で住むことができる」

と判断しています。

その理由について最高裁判所は

「被相続人と同居の相続人の間において、被相続人死亡後、遺産分割で建物の所有関係が確定するまでの間は、引き続き同居の相続人に建物を無償で使用させる旨の合意があったものと推認し、被相続人死亡後は、その他の相続人を貸主、同居の相続人を借主とする使用貸借関係が存在する

と述べています。

したがって、遺産分割協議が長引いたとしても、それが終了するまでは同居していた相続人は無償で遺産の不動産に居住を続けることができます。


2015年11月30日更新

Q 私には息子が二人います。

次男は私の面倒を見てくれる親孝行な息子なのですが、一方、長男は放蕩息子で家のことを全く顧みない人間で、今はどこで何をしているかもわかりません。

ですので、私の財産は、私が死んだら、全て次男に与えたいと思っています。

そこで、「私の財産は、全て次男に相続させる。」という遺言を書きました。

なお、このような遺言だと長男の遺留分が問題になると聞きましたが、そんなことは関係なく、とにかく次男に全て渡したいという一心で遺言を書きました。

しかし、私が遺言を書いてから程なくして、次男が不慮の事故で亡くなってしまいました。

このような場合、私の遺言の効力はどうなるのでしょうか。

私としては、何としても長男には相続させたくないので、次男の子にそのまま全て代襲相続をさせたいと思っています。

遺言はそのままでも大丈夫でしょうか。それとも、無効になってしまうのでしょうか。

このまま何もしなくても、遺言の効力は次男の子どもに引き継がれ、次男の子どもが私の全ての財産を代襲相続することとなるのでしょうか。

A そのままでは効力はなく、次男の子には代襲相続されません。

この問題については、以前は下級審裁判例では見解が分かれていましたが、平成23年2月22日に最高裁判所の判例がでましたので、実務上の扱いがこれで確立されました。

最高裁判所の判例によれば、基本的には、遺言書の中に

「受遺者が先に死亡した場合にはその子どもらに代襲相続させる」

という内容が書かれていなければ、代襲相続はされずに遺言は無効となるおそれがある、ということになります。

したがって、本件のケースでは、親は、上記のような文言を遺言に書いていなければ、元の遺言のままでは次男の子どもに相続させることはできなくなる可能性がありますので、新たに遺言を書く必要があります。

したがって、遺言により財産を特定の者に相続させたいし、その者が自分よりも先に死んだ場合には、確実にさらにその子どもに相続させたい、という意思を持っているならば、遺言書に

「~が先に死亡した場合には、その子・・・に全ての財産を代襲相続させる。」

といった条項を入れることが必須です。


【最高裁判例判旨:最高裁第三小法廷平成23年2月22日判決】

「「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。 」


2015年11月30日更新

Q 父が死亡し、相続人は私と兄の二人だけです。

父の遺産は4000万円の預金だけで、遺産はすべて私に相続させるという遺言がありましたが、兄にも遺留分として4分の1は権利がありますので、遺産のうち1000万円は兄に渡しました。しかし、父が死亡する5年前に、私は父から4000万円相当の土地をもらっています。兄はこれも自分の遺留分を侵害しているとして私に対して遺留分減殺請求をしてきました。

父が死ぬ5年も前に贈与された土地であっても、遺留分減殺請求の対象となり、兄に対してその相当額(1000万円)を支払わなければならないのでしょうか。

A 相続人への生前贈与は1年以上前のものであっても遺留分減殺請求の対象となります。(注意:2019年7月1日の改正法施行後は、原則として相続開始前10年間になされた特別受益に限定されます。)

相続人以外に対する生前贈与は、死亡する1年前までになされたものか、遺留分を侵害することを知ってなされたものでない限りは、遺留分減殺請求の対象とはなりません。

しかし、相続人に対する生前贈与は、基本的には死亡時の1年以上前になされたものであっても遺留分減殺請求の対象となります(最高裁判所平成10年3月24日判決)。なぜなら、死亡の1年以上前になされた生前贈与が遺留分減殺請求の対象とならない、ということになってしまうと、遺留分を主張されたくない相続人と被相続人が共謀して、被相続人が特定の相続人だけに全財産を生前贈与してしまえば、それから1年以上経ってしまえば遺留分減殺請求できなくなってしまい、結局遺留分の制度が全く無意味となってしまうからです。

もっとも、だからといって、相当昔になされた生前贈与まで遺留分減殺請求の対象となると、生前贈与を受けた相続人に酷になる場合もあります。したがって、そのような「特段の事情がある場合」は遺留分減殺請求の対象とはなりません

では、どれくらい昔の生前贈与が対象となるかについて、判例解説などを見る限りでは、例えば40年以上前の預貯金の生前贈与などがその例としてあがっています。

そうなると、5~10年前の生前贈与は、余程の事情がない限りは遺留分減殺請求の対象となる可能性が高いと考えられます。


【判旨:最高裁判所平成10年3月24日判決】

「民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。」

「けだし、民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法一〇四四条、九〇三条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ、右贈与のうち民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。」


2015年11月30日更新

2019年1月14日追記

Q 父が死亡しました。相続人は私と兄の2人です。

父は生前に自宅の土地と建物(時価3000万円相当)を有していたはずだったのですが、亡くなったあとに登記を調べてみると、亡くなる3年ほど前に土地と建物の名義を兄の名義に変更していました。父には他には財産はありません。

なお兄は、父の死後相続放棄の手続をしています。

私は、相続できる財産もなく、しかし、兄だけが生前に父から自宅の土地と建物を譲り受けており不公平です。

遺留分として自宅の土地と建物の4分の1の持分を兄に請求することは出来ないのでしょうか。

A その生前贈与が死亡する1年前までになされたものか、「遺留分を侵害することを知ってなされたものである」と証明できなければ、遺留分減殺請求はできません。

相続人に対する生前贈与は、基本的には何年以上前になされたものであっても遺留分減殺請求の対象となります(最高裁判所平成10年3月24日判決 なお、2019年7月1日以降に発生した相続の場合は10年間となります。)。

なぜなら、そのように解しないと、被相続人が特定の相続人だけに全財産を生前贈与してしまった場合に遺留分の制度が全く無意味となってしまうからです。

したがって、通常であれば、本件のケースにおいても、弟は自宅の土地と建物の4分の1の持分について兄に対して遺留分を主張し、遺留分減殺請求をすることが出来ます。

しかし、本件では、兄が相続放棄をしているという事情があるため、上記の場合とは異なります。

相続放棄をした者はそもそも相続人としての資格を有しないこととなるので、本件の贈与は「相続人に対する贈与」ではなく、いわゆる「第三者への贈与」と同等に扱われることになります。

したがって、上記の最高裁判例の理屈は適用されず、民法1044条の要件、すなわち、

・生前贈与が死亡する1年前までになされたものか、

又は、

・遺留分を侵害することを知ってなされたもの

のいずれかでない限りは、遺留分減殺請求の対象とはなりません。

本件では、兄は父が死亡する3年前に生前贈与を受けていますので、上記の要件にも該当しません。

したがって、相談者は、基本的には兄に対しては遺留分減殺請求をすることも出来ないのです。

このような状況を「法の不備」として批判する学説もありますが、現状では、このような生前贈与については、「遺留分を侵害することを知ってなされたものである」と主張していくしかないと考えられます。


この記事は、2020年4月13日時点の情報に基づいて書かれています。

Q 父が死亡し、相続人として私と兄の二人です。

父の遺産は自宅の土地と建物だけで、父は生前自宅で兄の家族と同居していました。そのため、父は「自宅の土地と建物は全て兄に相続させる」という遺言を残していました。なお、自宅の土地と建物の評価額は2000万円で、現在は兄とその家族が住んでいます。

この場合、私は遺留分として遺産の4分の1の権利を有していますので、自宅の土地と建物に対して4分の1の権利を兄に対して主張することができると思うのですが、しかし、自宅は兄が住んでいますので、4分の1の持分をもらってもしょうがありません。

ですので、自宅の価値の4分の1に相当する金額(500万円)を兄から払ってもらいたいと考えています。このような請求をすることは出来るのでしょうか。

A あくまでも持分4分の1の移転登記を請求することができるというのが原則ですが、兄が認めれば、お金の請求も可能です。

【注意】

平成30年7月の相続法改正で遺留分侵害請求権が金銭債権の請求権とされたことにより、本事例の争点の考え方については、改正法施行後は取り扱いが変わることにご留意ください。

【説明】

遺産が不動産しか無いような場合、遺留分を請求する具体的な方法は、遺留分の相当分(本件では4分の1)について不動産の移転登記を求めることができる、というのが原則です。

逆に言うと、遺留分を請求する権利者は、その遺留分に応じた持分(本件では4分の1)の移転登記を求めることしかできず、価値相当分を現金で払って欲しいという請求はできないのです(名古屋高裁平成6年1月27日判決)。

もっとも、遺留分を請求されている側(本件では兄)が、登記の移転ではなく、現金で払いたい、という意思を有しており、その旨表明した場合(例えば、兄が、自宅が弟と共有になることを避けたいと考えた場合)には、遺留分を請求する側(本件では弟)はその時点から初めて現金の請求ができることになるのです。これは民法1041条で定められています。

以上まとめると、遺留分を請求する側は、不動産に関しては登記の移転を求めることしか出来ず、相手方が金額での賠償をしたいという抗弁を主張してきて初めて、現金による請求ができるということとなります。

では、本件で弟が兄に対して遺留分の請求をしたものの、兄は「お金がないから500万円も払えない」と言ってきた場合、その後はどうなるのでしょうか。

弟としては、兄が現金で払う旨の意思表示をしてくれない以上、現金の請求をすることは出来ず、自宅の土地と建物の4分の1の移転登記を求めることが出来るだけとなります。

したがって、自宅の土地と建物は、兄と弟の共有状態となります。

しかし、弟としては、自分が住んでいない土地と建物の4分の1を取得したところで何の意味もありません。

そこで、次の段階として、弟は、兄に対して共有物分割請求の調停なり訴訟を裁判所に提起し、その共有関係の解消を求めるという煩雑な手続を取らざるをえないということになるのです。

自宅のような不動産の共有関係の解消は、簡単に切って分けられるものではありませんので、どちらかが金銭を払って持分を全部買い取るか、最終的に競売にかけて、競売で売れた場合のその代金を分けるという方法になるなど、解決までに難航するケースが多いです。

このように、遺産が不動産しかない場合の遺留分の紛争というのは長期化してしまうことも覚悟する必要があります。


【名古屋高等裁判所平成6年1月27日判決】

「ところで、被相続人は、原則として、遺言によって遺産を自由に処理することができるが、これを無制限に許すと、法定相続の制度と矛盾し、法定相続人の生活保障としての期待権が剥奪されることになる。そこで、民法は、一方では、遺言自由の原則を採りながら、他方で、法定相続人が一定の期間内に私法上の形成権である遺留分減殺請求権を行使したときは、被相続人に遺産につき、遺留分を除外した部分についてしか、自由な処理を認めないことによって、その間の調和を図っているのである。」

「そして、遺留分減殺請求権行使の法的効果は、一般的に、単なる債権の発生ではなく、物権的であると解されているから、その行使によって、遺産の一部が、当然に遺留分権利者に対して、移転帰属することになる。この場合に、遺留分権利者の権利を最も効果的に回復するのは、遺留分減殺請求権の行使によって帰属した遺産そのものを、遺留分権利者に引き渡すことであるから、現物返還主義がその目的に最も合致しているといわなくてはならず、民法においてこれに抵触する規定は存在しないばかりか、一〇三六条や一〇四〇条のように、これを前提とする規定も存在する。」

「もっとも、民法は、一〇四一条一項において、受遺者が価額弁償をすることによって、現物返還の義務を免れる方策を認めているが、そのためには、被相続人の意思、及び受遺者の便宜よりも、遺留分権利者の遺産の回復を重視して、単に価額弁償をするという意思表示をしただけでは足りず、価額弁償を現実に履行するか、またはその履行を提供しなければならないとされているのである」

「このように、遺留分権利者の権利を実現するためには、遺産の現物を遺留分権利者に引き渡すことが肝要であり、価額弁償の抗弁によって現物返還の義務を免れる上で、極めて重大な制約が課せられているのであるが、そうであれば、この価額弁償の抗弁を選択するには、受遺者の意思が十分尊重されなければならない。つまり、民法には、受遺者の意思を無視してまで、遺留分権利者に、受遺者に対して現物の返還に代えて価額の弁償を請求しうる旨の規定は存在しないのである。遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償として金員の請求をなしうるのは、あくまでも受遺者が価額弁償の意思を表明した場合に限られるというべきである(最高裁判所昭和五〇年(オ)第九二〇号、同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁参照)。」

「これを反対に、受遺者が価額弁償の抗弁を選択していないのに、遺留分権利者に価額弁償として金員の請求を認めるとすれば、遺産が流通性の乏しい換価困難な財産の場合には、遺留分権利者は受遺者以上に有利な地位に立つことになるし、遺産が不動産であって、価額弁償に応じるためには、当該不動産を換価する外ないとすると、換価に伴う譲渡所得税はすべて受遺者の負担となるから、極めて不公平な結果となる。

したがって、遺留分権利者が受遺者に対して、価額弁償として金員の請求をなしうるのは、受遺者が価額弁償の意思を表明した場合に限られると解するのが相当である。 」


2015年11月30日更新

 

Q 父が財産を全て長男に相続させるという遺言が見つかりました。

相続人は次男である私と長男だけです。

私の父がこのような遺言を書いたことが納得できず、兄である長男に対して、「父の遺言は置いておいて、兄弟で話しあって遺産を分けよう」と遺産分割協議の申し入れをしていました。

しかし、兄は全く意に介してくれず、父が死んでから1年以上が経っています。

どうしようか弁護士に相談したところ、遺留分という権利がある、と言われましたが、遺留分は原則として父が亡くなってから1年以内に請求しなければならないとも言われました。

私は遺産分割協議の申し入れしかしておらず、遺留分を請求する、とは兄に言っていないため、1年以上経った今となってはもう遺留分は請求できないのでしょうか?

A 原則として、遺留分減殺請求権の行使となりませんが、例外的に行使となる場合もあります。

遺留分減殺請求権は、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から、一年間これを行わないときは、時効によって消滅するものとされています(民法1042条前段)。

したがって、遺留分を侵害された相続がなされた場合には、速やかに内容証明郵便で遺留分減殺請求の通知を送って消滅時効の成立を防ぐ必要があります。

しかし、相続開始後しばらくの間弁護士がつかなかったような事案では、遺留分の減殺請求の裁判において、死後1年間の間に遺留分減殺請求をしたか、という消滅時効の問題が争点になることが多々あります。

何もしないままに1年間が過ぎてしまっているような場合はどうしようもありませんが、ここで問題となるのは本件のケースのように遺産分割協議の申入れや遺産分割調停の申立てはしていたが、遺留分減殺請求権を行使すると明示した通知などをしていなかったような場合です。

この点について、裁判例の傾向は、遺産の分割請求と遺留分減殺請求というのは、その要件、効果を異にするので、原則として遺産分割協議の申し入れや遺産分割調停の申立てをしても遺留分減殺請求の意思表示をしたことにはならず、消滅時効は進行すると解釈されています(東京高裁平4年7月20日判決)。

しかし、例外として、

・遺言で遺産の全部について相続人の一部の者に対して相続させるとされ、

・なおかつ、遺留分減殺請求権を行使する者が、この遺言の効力を争っていない場合

には、遺産分割協議の申入れや遺産分割調停の申立てをしたことをもって、遺留分減殺請求の意思表示をしたと解釈できるとされています(最高裁平成10年6月11日判決)。

したがって、本件のケースでは、例外として遺留分減殺請求の行使があったものと認められると思います。

いずれにしても、自己の遺留分を侵害するような遺言の存在に気づいた場合には、早急に内容証明郵便で遺留分減殺請求の通知をすることが肝要です。


【判旨:最高裁平成10年6月11日第一小法廷判決】

「遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。


2015年11月30日更新