相続・遺言無効・遺留分請求のための弁護士相談

【質問】

祖父が亡くなりました。

私の父は、既に亡くなっていたため、代襲相続人として祖父の遺産を相続することになりました。

 

私の父は亡くなるまで祖父の家業である農家に従事し、祖父のためにずっと働き財産の医事・増加に寄与していました。

私は、このような父の寄与を寄与分として主張したいのですが、それは可能でしょうか。

【説明】

親の家業や介護に尽くした者について、遺産分割の際に寄与分が認められるか?

という問題があります。

この問題については、主として、「その貢献が特別の寄与にあたるのか」「特別の寄与に当たるとして、寄与分としてどの程度の金額が認められるか」という点を巡って調停や審判で争われることが多いです。

しかし、その他の問題として、

「そもそも、寄与行為をした者が誰か?」

という点が問題となることがあります。

なぜかと言うと、民法は、寄与分を主張できる者を「相続人」に限定しています(民法904条の2)。

そうだとすると、特別の寄与(貢献)があったかどうかは「相続人」の行為について判断されるのであり、相続人以外の者がどれだけ貢献したとしても原則として遺産分割で寄与分は主張することはできないのです。

では、本件のように、寄与行為をした者が既に亡くなっており、その子が代襲相続人として相続する場合はどうでしょうか。

すなわち、被代襲者の寄与行為に基づき代襲相続人に寄与分を認めることができるか、という問題です。

本件は、東京高裁平成元年12月28日決定をモチーフにした事例です。

この事案で、裁判所は、

「寄与分制度は、被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした相続人に、遺産分割に当たり、法定又は指定相続分をこえて寄与相当の財産額を取得させることにより、共同相続人間の衡平を図ろうとするものである」

とした上で、

「共同相続人間の衡平を図る見地からすれば、被代襲者の寄与に基づき代襲相続人に寄与分を認めることも、・・・許されると解するのが相当である。」

と判断しました。

このように、裁判所は、寄与分の制度趣旨から代襲相続人の主張を認めたものですが、これに加えて、代襲相続の制度趣旨からも認めることができます。

すなわち、代襲相続の効果は代襲相続人が被代襲者に代わって被代襲者の地位で相続することであり、被代襲者の相続分を受けることであり、代襲相続制度は被代襲者の死亡等による相続権の喪失で被代襲者の子が受ける不利益を避けて衡平を図るためのものであるから、代襲相続人が相続の効果として受ける内容は被代襲者の相続権と同一である、とされています。

したがって、被代襲者の主張できることは代襲者も主張できる、という帰結になるわけです。


2018年12月17日更新

【質問】
父が亡くなりました。相続人は長男と私長女の2人です。
遺産分割で揉めていて、現在審判となっています。
私は、大学に進学せず、学校卒業後にすぐに就職して、家に生活費を入れていましたが、長男は、大学に進学し、学費から生活費まで全て両親から援助を受けていました。
その金額はかなりの金額に及ぶと思いますので、これは「特別受益」にあたると主張しています。
これに対して、長男は、以上のような事実は認めつつも、その具体的な金額については、全く開示せず、資料も提出せず、家裁の調査官の調査にも応じません。
このような場合、私の特別受益の主張は認められないのでしょうか。

【説明】
被相続人の生前に、生活費や家の購入資金等で被相続人から援助を受けていた相続人がいる場合、その援助はいわば「遺産の前渡し」にあたるとして、特別受益として遺産分割で考慮することになります。
紛争となっている遺産分割協議や調停ではこのような「特別受益」を巡る争いはとても多く、
「長男は、家の購入資金を援助されているから、それは取り分から引くべきだ!」
「私は大学に進学しなかったが、兄弟は私立大学の医学部に進学して高額な学費を親から援助されていたのだから、遺産分割で考慮すべきだ!」
という主張が展開されることが多いです。

このような特別受益の主張については、もし調停、審判で判断される場合には、
「特別受益を主張する者が証明する責任を負う」
ということが原則となっています。
ですので、単に「親からお金をもらっていたはずだ」、「だから、もらっている側が明らかにしろ」というだけでは足りず、具体的に、いつ、いくらを、どうやってもらったか、を証拠を持って証明する必要があるわけです。
実際の実務では、この証明ができず、結局特別受益が認められないというケースも多いのが事実です。

他方で、本件のように、ある程度生前贈与(特別受益)について、概括的な事実関係は認められるものの、援助を受けた側が審理に協力しない、資料を提出しないためにその具体的な金額の算定だけができない、というケースもあります。
本件は、札幌高等裁判所平成14年4月26日決定をモチーフにした事例ですが、この事例では、相続人の1人だけが被相続人から学費・生活費の援助を受けていたことは明らかであったものの、援助を受けていた相続人が資料の提出や家裁調査官からの調査に協力しなかったという事例です。
そのために、具体的な生前贈与の金額の算定ができなかったわけですが、この事例で、裁判所は、

「援助を受けた者が、調査に非協力なために具体的な金額が算定できないことを理由に特別受益を否定することは相当ではない」

と判断し、特別受益の証明責任を緩和するような判断をしました。

実際の調停・審判実務でここまで公平性に踏み込んで判断してもらえることはなかなか難しく、基本的には原則どおり「特別受益はそれを主張する者が全て証明しなければならない」という形で審理が進んでいくことも多いのが実情ですが、いわゆる「逃げ得」は許されない場合もある、ということを示す1つの判断として参考になります。


【判決要旨】札幌高等裁判所平成14年4月26日決定
「抗告人X1の特別受益についての判断において、抗告人X1が昭和40年4月にb大学に進学し、昭和44年3月に卒業したこと、その入学金・授業料・下宿代を含む生活費については両親である被相続人夫婦が負担したこと、抗告人X2は、中学を卒業した後、家業の農業に従事し続けていたこと、相手方Y(以下「相手方Y」という。)は、抗告人X1の大学生時代に、被相続人に対し、実家への援助として、当時の相手方Yの給料収入月額約1万9800円のうち1万円を渡していたこと等の認定事実に基づいて、抗告人X1には、大学進学について特別受益が認められる旨判示しながら、その具体的な算定について、抗告人X1が資料を提出せず、家庭裁判所調査官の調査にも応じないことを理由として、抗告人X1の特別受益については本件遺産分割において考慮しない旨判示する。
 しかし、抗告人X1について認められる特別受益を、その判断によって不利益を被る抗告人X1の非協力を理由に算定しないというのは相当でない(昭和40年当時の大学入学金、一般的下宿費用等を大学への照会その他適宜の方法によって調査すること及びそれに基づいて消費者物価指数の変動等を考慮して特別受益の現価を算定することは抗告人X1の協力なくして行うことができる。)。
 4 以上のとおり、原審は、本件遺産の分割の対象となる財産の範囲についての判断を誤り、遺産分割の判断過程において考慮されるべき特別受益の算定を行うことなく、遺産分割の審判をしたもので、原審判は、取消しを免れない。」


2018年12月13日更新

【質問】

親が亡くなりました。相続人は長女と次女である私の二人です。

親の生前に、長女の夫が会社で不祥事を起こしてしまい、会社に300万円の損害を与えてしまいました。長女もその夫もこれを支払えず、身元保証人をしていた親がその300万円の支払いをしました。

その後、この300万円について親から長女に請求はしていないようです。

 

この300万円については、今回の相続で、長女の特別受益とすべきではないでしょうか。

【説明】

本事案は、高松家庭裁判所丸亀支部平成3年11月19日審判をモチーフにした事例です。

この事案では、相続人の夫が起こした不祥事について身元保証人をしていた被相続人が会社に損害賠償を行いましたが、その後死ぬまで被相続人は長女にもその夫にも求償権を行使しませんでした

そこで、遺産分割の段階になり、他の相続人が上記損害賠償について「被相続人が負担した分について特別受益に該当する」として争いました。

この事案で裁判所は、被相続人が支払った金銭相当額について特別受益に該当すると判断しました。

その理由としては以下の通り述べています。

「申立人の夫が勤務先で不祥事を起こしたので、同夫の身元保証をしていた被相続人はその責任を問われ、右勤務先等に対し、遅くとも昭和40年までに少なくとも300万円を支払った(○○○○○、○○○の各上申書)。被相続人は申立人の夫に対し、右支払い金額を請求することがなかったと認められるので、そのころ申立人の家族の幸せのためその支払いを免除したものと解される

ところで、被相続人の右金銭の支払いは、自己の身元保証契約上の債務を履行したものであるから、それ自体は申立人に対する「生計の資本としての贈与」とは解することができないけれども、申立人の夫に対する求償債権の免除は、申立人に対する「相続分の前渡し」としての「生計の資本としての贈与」と解するのが相当である。」

以上の通り、裁判所は、

・被相続人が会社に金銭を支払った事自体は特別受益ではない

・被相続人が支払った金銭相当額について、求償権を免除したことが特別受益にあたる

と判断したわけです。

通常、被相続人から相続人に対する金銭の貸付等があり、未返済分を残したまま被相続人が死亡した場合には、それ自体が「遺産」として計上されることになりますので、特別受益の問題とはなりません。

本件は、「被相続人が求償権を免除(放棄)した」という点を捉えて特別受益としていますので、この点が問題となった場合には、「被相続人が権利を免除(放棄)した」と言えるような事情があるかどうかという点に留意する必要があります。


2018年11月19日更新

特別受益について、民法903条1項は、

「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」

と規定しています。

この「特別受益」に該当するか否かを巡って多く争いとなるのは、生前贈与で「生計の資本として贈与を受けた」かどうかという点です。

この「生計の資本」とは、一般的には、相続人の居住用の不動産を購入・新築したときの費用援助、土地の贈与を受けたり、起業する際の資金援助、大学や留学のための学費の援助を受けたりした場合が該当します。

不動産の購入資金の援助などは、ある程度客観的な証拠で証明が可能ですが、「学費の援助」については、いろいろなパターンが有り、争いになることが多いです。

例えば、

1 兄弟のうち、一人だけが大学に進学した

2 兄弟のうち、一人だけが私立大学の医学部に進学した

3 兄弟のうち、公立学校と私立学校に通った者がいた

というような場合、それぞれの子どもが親から受けた学費の額もかなり異なってくるため、その差額について「生計の資本として贈与を受けた」として特別受益の主張がなされる場合もあるわけです。

上記のうち、2については、https://iryubun-bengoshi.jp/928(医学部に進学して多額の学費を援助してもらった場合、特別受益になるか)記事で解説しています。

また、上記のうち、3について、「特別受益とはならない」という判断をした裁判例があります。

それが大阪高等裁判所平成19年12月6日決定です。この決定は

「Aは,学費に関して,CとAらは,共に高等教育ではあるとしても,実際の教育出費には歴然たる差がある旨指摘するが,本件のように,被相続人の子供らが,大学や師範学校等,当時としては高等教育と評価できる教育を受けていく中で,子供の個人差その他の事情により,公立・私立等が分かれ,その費用に差が生じることがあるとしても,通常,親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので,遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般であり,仮に,特別受益と評価しうるとしても,特段の事情のない限り,被相続人の持戻し免除の意思が推定されるものというべきである。」

と判断し、公立・私立と別れ学費に差が生じたとしても、それは扶養の一内容であり、特別受益とはならない(仮になるとしても持戻免除の意思あり)と判断しました。

親が子どもの大学卒業まで、学費等の援助を行うことは、今の世の中では、親の子どもに対する「扶養」の一環としてある意味当然のようになされているものです。

したがって、この点について特別受益を主張する場合には、学費の額だけに着目して特別受益を主張するのではなく、それ以外の周辺事情も全て丁寧に拾い上げて「本当に不公平か」どうかを裁判所に理解してもらうよう主張・立証に努めることが重要です。


2018年11月18日更新

遺産の土地・建物や、共有状態となっている土地・建物の分割について、相続人間(もしくは共有者間)での話合いで解決できなかった場合、裁判所の調停・審判・訴訟ではどのように分割されるのでしょうか。

不動産の分け方というのは大きく分けて4つあります。

①現物分割

②代償分割

③換価分割

④共有分割

の4つです。

上記のうち、原則的な方法は、①の現物分割、すなわち、まさにそのものを分ける、という方法になります。

これは、できる限り目的物を現実に利用している者の生活に配慮して分割すべき、との趣旨から、まずは原則として物そのものを分けることを検討すべき、ということとなっているわけです。

しかし、この分割方法は、あくまでも「物そのものを分ける」ということになりますので、土地などの不動産の場合には、そのまま法定相続分や共有者の数に従って土地を分けると、例えば100㎡の土地を相続人4人で分けたら一人当たり25㎡になってしまい、もはや土地の利用価値がなくなってしまいます。

とても広い土地であれば別ですが、普通の住宅地などではまず意味のない分け方になってしまいますので、一般的な宅地の場合にはこの方法によることはできません。

一戸建ての建物なども、法的にも物理的にも分けることは困難ですので、この現物分割の方法が執られることはありません。

では、仮に広い土地などで、現実に分けられそうである、という場合に、さらに現物分割をするにあたってはどのような考慮が必要になるのでしょうか。

この点、民法258条は、

1 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。

2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

と規定していますので、現物分割の条件として、

「現物分割によってその価格を著しく減少させるおそれ」

があるかどうか、という点も十分考慮する必要があるということになります。

土地や建物を現状から分ける場合には、価値が上昇したり、逆に減少したり、ということが起こりうるわけですが、

「どの程度の下落までは現物分割で許容範囲なのか」

という点が問題となります。

この点について、一つの目安を示したのが東京地裁平成9年1月30日判決です。

この判決の事例は、三筆の土地と三棟の建物をいずれも二人で各持分二分の一の割合で共有していて、共有物分割請求訴訟が提訴されたという事例です。

原告側は、土地を南北に分ける現物分割を希望し、被告側は、現物分割では価値が著しく減少するとして換価分割を希望していました。

この事例で裁判所は、

「被告は現物分割によって本件各土地は著しくその価格を損するおそれがあると主張するが、・・・全体を一括して売却した場合には約一億一〇〇七万円の価格であるのに対し、分割して売却した場合の価格の合計は九七五〇万円から九七九二万円程度に低下する旨の記載がある。」

「しかし、右記載によっても、本件各土地を一括して売却の場合に比してその低下の割合はせいぜい一〇パーセント強程度に過ぎず、現物分割によって本件各土地の価格が著しく損するとまでは到底認められず、他に一個の所有権である場合に比して、その価格が著しく減少すると認めるに足りる証拠はない。」

と述べて、10%の下落では、「価値が著しく減少するとまでは認められない」という判断をしました。

なお、本事例では、土地や建物のこれまでの使用状況や、分けた後に想定される使用状況なども踏まえて、現物分割の可否や方法について検討していますので、価値の減少額の程度のみで、その可否や方法が判断されるわけではないという点に留意が必要です。


2018年11月16日更新

【質問】

父が亡くなりました。相続人は長男と次男である私の二人です。

 

父はアパートを所有しており、父の死亡後もそのアパートの賃料が入ってきています。

しかし、その賃料は、父の死後は長男が全て収受しており、私には渡そうとしません。

 

今は長男と遺産分割協議中ですが、色々と揉めているので、合意するまでにはまだまだ時間がかかりそうですが、その間発生しているアパートの賃料は、遺産分割協議が終わるまでは私は全く取得できないのでしょうか。

なお、長男は

「アパートは自分が相続するつもりだから、賃料は渡さない」

ということも言ってきていて、話し合いに応じてくれません。

【説明】

遺産にアパートやマンションなどの収益不動産がある場合、被相続人が死亡してから発生するその賃料について、

・死後に発生した賃料も遺産となるのか

・賃料は誰に、どのような割合で帰属するのか

・遺産分割協議の結果によって、賃料の帰属や割合に影響するのか

という点が問題となります。

この点については、民法909条

「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」

と規定していることから、

「遺産分割でその不動産を取得する者が、死後発生した賃料も全て取得できるのではないか」

と考える相続人もいるため、後々この点を巡って相続人間で認識の相違が生じて問題となることがあります。

このような、被相続人の死後に遺産から生じる賃料等の収入の問題については、最高裁判所平成17年9月8日判決がリーディングケースとなっています。

この最高裁は、

「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである」

と判断しました。

すなわち、被相続人死後に発生した賃料等は、

・遺産にはならない

・法定相続分に従って当然に分割される

・その後の遺産分割協議の結果に影響されない

ということを明確にしました。

したがって、本件のケースでは、長男が一人で収受して渡さない賃料について、次男は、遺産分割協議とは関係なく法定相続分の割合で長男にすぐに支払うよう求めることが出来ます。

なお、実務上は、

・死後発生した賃料も遺産分割協議の中で併せて協議する

・賃料の分配についてだけ、暫定的に相続人間で合意して随時分配する

という方法が執られることが多いです。

相続が発生してから、遺産分割協議(調停)が成立するまでに、かなり時間がかかりそうなケースでは、発生する賃料の額もそれなりになりますし、その間の賃料収入に関わる相続人の税負担の問題も発生しますので、この点についでだけでも、可能な限り相続人間でどのように処理すべきかを決めておく必要があります。


2018年11月8日更新

【質問】

親が亡くなり、子ども3人(長男、次男、三男)が相続人でs。

親は遺産として不動産を所有していましたが、その不動産が遺産分割調停中に行政に収用されることとなりました。

そこで、とりあえずは長男が代表として収用の手続を行い、遺産不動産の処分代金が長男のもとに振り込まれました。

その代金について、次男と三男が、法定相続分の3分の1ずつを長男に払うよう求めたのですが、なぜか長男はこれを払ってきません。

 

遺産分割調停の中でこの不動産の代金についても分割するよう求めたいと考えていますが、可能でしょうか。

【説明】

遺産分割協議が成立する前に、不動産を処分する必要がある場合、相続人間の協議の仕方としては、

・不動産の一部分割の合意をして不動産の代金だけ分けてしまう

・相続人全員で、不動産の売却代金については遺産分割の対象とする合意をした上で売却する

という方法で行われることが通常です。

しかし、上記のような合意をせずに、遺産分割協議中(もしくは調停中)に、不動産の売却処分だけを進めて、相続人の誰か一人がその代金を受領・所持しているという状態となった場合に、その「処分代金」を遺産分割協議・調停・審判の対象として分けることができるか、ということが法律上問題となります。

この点について判断したのが、最高裁判所昭和54年2月22日判決です。

この判例は、

「共有持分権を有する共同相続人全員によつて他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものである」

と判断しました。

したがって、本件の事例で言えば、

①相続人間で、不動産の処分代金について遺産分割の対象に含めるという合意をしていれば、遺産分割協議・調停・審判の対象とすることができる

②合意をしていない、もしくは合意できなかった場合には、次男、三男はそれぞれ自己の法定相続分に相当する金額を、長男に対して請求し、それでも解決できなければ民事訴訟を提訴する(遺産分割協議・調停・審判とは別のラインの手続きとなる)

ということになります。

②の状況になってしまうと、別途民事訴訟などの手続をしなければならないという負担が生じますし、場合によっては遺産分割で考慮されるべき寄与分や特別受益等の主張ができなくなってしまう可能性もあります。

実務的には、上記のような合意なく遺産の売買を進めるケースは少ないと見られますが、合意せずに売買をしてしまった場合には、後々上記のような問題が生じてしまうということに留意すべきです。


2018年11月6日更新

【質問】

私の夫が亡くなりました。

私は、夫の育て親が所有していた建物で、その親と夫と長年同居してきました。

その後、親と夫が仲違いし、親が出ていかれましたが、私と夫は、その親の所有の建物に家族で30年間、無償で住んでいました。

夫が亡くなったことにより、その親の親族から

「この建物は、親があなたの夫に対して無償で貸していたものだ。使用貸借は借主が死亡したら終了するから、あなた達は出ていきなさい」

と立ち退きを迫られるようになりました。

これまで親側からは一度も立ち退きを迫られたことはありませんし、長年住んできた家ですから、このまま住み続けたいと考えています。

私たちは出ていかなければならないのでしょうか。

【説明】

民法599条は、使用貸借契約の終了原因の一つとして、

「借主の死亡」

を規定しています。

この規定は、使用貸借が無償契約であることに鑑み、貸主が借主との特別な関係に基づいて貸していると見るべき場合が多いことから、当事者の意思を推定して、借主が死亡してもその相続人への権利の承継をさせないことにした、と解釈されています。

したがって、借りている側が死亡した場合には、使用貸借契約はその時点で原則終了となります。

しかし、例外的ケースも存在します。

それが、東京高等裁判所平成13年4月18日判決の事例です。

この事例は、冒頭の事例とほぼ同旨ですが、かいつまんで言うと、育ての親の所有の家に、その子と妻が長年居住していたという事例で、その子が死亡したことにより、育ての親側(正確にはその相続人)が、

「子が死亡したことにより使用貸借は終了するから、その妻は建物から出ていくべきだ」

と主張して裁判を起こしたのです。

この事例で、裁判所は、貸主と借主のみならず、貸主と借主側の「家族」との関係を重視して、借主の死亡によっても使用貸借は終了しない、という判断をしました。

具体的には、

「民法599条は借主の死亡を使用貸借の終了原因としている。これは使用貸借関係が貸主と借主の特別な人的関係に基礎を置くものであることに由来する。」

「しかし、本件のように貸主と借主との間に実親子同然の関係があり、貸主が借主の家族と長年同居してきたような場合貸主と借主の家族との間には、貸主と借主本人との間と同様の特別な人的関係があるというべきであるから、このような場合に民法599条は適用されないものと解するのが相当である。」

と述べて、借主の使用貸借は終了せず、借主の相続人に引き継がれる、と判断しました。

使用貸借は、契約書等存在することが極めて少なく、親子などの特別な人的関係によってなされるもので、その終期などがはっきり決められていないため、法律関係がかなり曖昧な事が多いです。

本件のように、法律の規定がそのまま形式的に当てはまらず例外も認められますので、使用貸借を巡って争いとなった場合には、過去の経緯から遡って人的関係を丁寧に主張していくことが肝要です。


2018年11月5日更新

親と子の間で、土地や建物といった不動産を無償で貸借する、というケースはよく見られます。

無償での不動産の貸借(使用貸借といいます)が行われる場合、契約書などの書面を交わして使用期間などの合意をすることは実務上ほとんど見られません。

そのため、貸している側、もしくは借りている側のどちらかが死亡して相続が発生した場合に、この無償での不動産の貸借関係をその後どのように処理すべきかということを巡って争いになることがあります。

民法は、この使用貸借契約の終了原因について以下のように規定しています。

民法599条

使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。

この規定は、使用貸借が無償契約であることに鑑み、貸主が借主との特別な関係に基づいて貸していると見るべき場合が多いことから、当事者の意思を推定して、借主が死亡してもその相続人への権利の承継をさせないことにした、と解釈されています。

したがって、借りている側が死亡した場合には、使用貸借契約はその時点で原則終了となります。

しかし、例外的ケースも存在します。

それが東京地方裁判所平成5年9月14日判決の事例です。

この裁判例の事案の概略は、

・親が長男から土地を無償で借りて、その土地上に建物とアパートを建てて所有していた

・親が死亡し、建物については遺言で次男に相続させるものとした

・長男は、次男に対し、土地の使用貸借は親の死亡により終了したとして、建物収去土地明渡し請求をした

というものです。

この事案で、裁判所は、使用貸借契約が借主の死亡により終了すると民法で規定されていることを前提としつつも

「土地に関する使用貸借契約がその敷地上の建物を所有することを目的としている場合には、当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物所有の目的が重視されるべきであって、特段の事情のない限り、建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときに、その返還の時期が到来するものと解するのが相当であるから、借主が死亡したとしても、土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにはならないというべきである。」

と判断し、次男の使用貸借を認めました。

本事例は、他にも周辺事情を拾って使用貸借の成立を認めていますので、他の事例にも単純に当てはまるものとは限りませんが、借主死亡の場合であっても使用貸借の継続を認めた事例として参考になります。


2018年10月30日更新

【質問】

親が亡くなりましたが、親の遺骨を巡って子どもたちの間で争いになっています。

子どもたちがそれぞれ遺骨の引取を希望して譲らない場合、その帰属についてはどのように決定されるのでしょうか。

【説明】

遺体あるいは遺骨については、民法には何も規定がありません。

そのため、それに対し如何なる内容の権利が成立するのか、また、その権利がどのような原因によって誰に帰属するのか、という点については法律には全く書いていないため、この点を巡っていろいろな説が分かれていました。

なお、既に墳墓に納められている古い祖先の遺骨は民法八九七条の祭祀財産たる墳墓に含まれ、これと一体的に扱われるものとされています。

この点について判断したのが、最高裁平成元年7月18日判決の事例です。

本件は、被相続人夫婦の埋葬前の遺骨の所有権をめぐり、被相続人の養子と被相続人の主宰する宗教団体に所属し、かつ、被相続人夫婦を生前面倒を見てきた信者夫婦との間で、その帰属が争われたケースです。

この事例で、最高裁判所は

遺骨は慣習に従つて祭祀を主宰すべき者に帰属する

という判断を示しています。

したがいまして、遺骨・遺体については、民法897条の規定に従い、その帰属を決定するということになります。

【民法897条】

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。


2018年10月26日更新