Q 夫から離婚を求められ、不本意ではありますが離婚することになりました。しかし、私は結婚してからずっと専業主婦で、今後就職するにも厳しい状況です。
結婚中は、夫が散財していたせいで預貯金も残っておらず、家もありません。したがって、財産分与で受け取れる金額もごく僅かです。
両親は亡くなっており、頼れる親族もいない状況です。
このような状況では、離婚した後の生活がとても不安です。
離婚した後でも夫から生活費をもらうことはできないのでしょうか。
A 扶養的財産分与として、一定期間生活費をもらえる可能性があります。
離婚した夫婦において、妻が長く専業主婦であった場合、離婚後どのように生計を立てていくかは切実な問題です。専業主婦であった期間が長かったり、離婚時に高齢であった場合には就職することも相当の困難を伴う場合が多いため、財産的な手当がないままに離婚をしてしまうと妻が路頭に迷う事になりかねません。
このような場合に、離婚後に妻が自活できるまでの間、妻から夫に対して生活費の援助という形で金銭の支払を求めることができます。
これを法律上は「扶養的財産分与」といいます。
しかし、これが認められるケースというのは裁判実務では限定されているのが実情です。
離婚時になされる「財産分与」というものには、
「清算的財産分与」と「扶養的財産分与」
という二つの概念が存在します。
夫婦が結婚生活中に形成した財産(貯金や家や車など)を、離婚の際に夫婦間で公平に分けることを「精算的財産分与」と言い、一般的に「財産分与」とはこの清算的財産分与のことを言います。
これに対して、「扶養的財産分与」とは、一方の配偶者(主に夫)が他方の配偶者(主に妻)に対して離婚後も扶養義務を負い、一定期間生活費を支払うというものです。
このように財産分与には二つの概念が存在するのですが、両者の関係は、基本的には清算的財産分与が第一で、扶養的財産分与というのはあくまでもオマケ(不正確な表現かもしれませんが)のような存在です。
すなわち、清算的財産分与(夫婦で形成した財産を分ける)をまず行い、その結果、妻に対して財産分与がほとんどなく、これでは妻が離婚後の生活に困るという場合に、扶養的財産分与というものが検討されるのです。
ですから、清算的財産分与でそれなりの財産が夫から妻に分けられるような場合には、扶養的財産分与というものは認められないというのが裁判実務の傾向です。
また、仮に清算的財産分与がほとんどない場合であっても、離婚後に妻が実家の両親のもとに戻るなどして、両親の収入などで生活できる場合には、やはり扶養の必要性がないとして、扶養的財産分与は認められないことが多いでしょう。
このように、扶養的財産分与というものが認められるためには超えるべきいくつかのハードルがあるのです。
また、仮に、扶養的財産分与が認められたとしても、永久に生活費を支払うというものではなく、離婚後、自立できるであろうまでの期間(1~2年程度)に限定される、ということが多いです。
以上の実情を踏まえますと、離婚するにせよしないにせよ、結婚生活中の「蓄え」というものが重要であると言えます。
2015年11月30日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。