遺骨の引渡を拒絶している者に対し、1日1000円の慰謝料の支払いを命じた裁判例

【質問】

父が亡くなりました。

遺言書で私が祭祀承継者として指定されていたのですが、妹はこれに従わず、墓の玄室に勝手に侵入して納骨するなど反発してきました。

話し合いにも応じないため、私は、自分の祭祀主宰権(父遺骨及び本件墓の管理権限を含む。)を有することの確認、玄室への立入禁止,精神的苦痛の慰謝料10万円の支払を求める訴えを起こしたところ、裁判所は全面的に私の訴えを認めました。

しかし、それでも妹は判決も無視して玄室に立ち入って遺骨を持ち出し、それからは私に遺骨を引き渡そうとしません。

そこで、私は遺骨の引渡しの訴えを起こす準備をしていますが、このような妹の行動に対して、慰謝料を請求することはできないのでしょうか。

【説明】

本件は、東京地方裁判所平成21年 2月17日判決の事例をモチーフにしたものです。

この裁判事例では、妹が遺骨を玄室から持ち出して返還しない行為について、

「遺骨に対する原告の管理権を侵害する不法行為に当たる」

とした上で、

「本件遺骨に対し原告が管理権を有することを確認した別件1審判決が言い渡された直後,これを無視して本件墓から本件遺骨を持ち出し,その後,原告から再三本件遺骨の引渡しを求められたにもかかわらず,また,本件1審判決を是認する東京高等裁判所の判決及び最高裁判所の決定が出されたにもかかわらず,本件遺骨を原告に返還する姿勢を全く示さないものである。」

「原告は,このような被告の行為により,日々精神的苦痛を受け続けているということができる」

として、結論として、

「慰謝料の額は1日当たり1000円を下らないと認めるのが相当である。」

と判断しました。

祭祀承継者であることの確認がなされた裁判の判決が出た後であるにも拘わらず、遺骨を持ち出して返還しなかった、という点で特殊事情があるとは言えますが、祭祀承継者への遺骨の返還拒否について1日当たりの慰謝料を認めたという点において参考となる事例です。


本記事は、2020年1月26日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2020年01月26日 更新日:2020年01月26日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。