親からもらった出産祝い金等の祝い金は、相続の際に特別受益となるか。

【相続人からの質問】

親が亡くなりました、相続人は子である私(長男)と姉(長女)の二人です。

私は、自分の子供が生まれたときに、親から出産祝いとして200万円をもらっています。

 

遺産分割の話合いで、姉からはこの200万円が特別受益になる、と主張されています。

確かに、出産祝いとしては少し高額ですし、姉はこのような祝い金は親からもらっていないのですが、このようなお祝いで親からもらったお金も相続のときに全て考慮しなければならないものなのでしょうか。

【説明】

特別受益」とは、共同相続人中に、被相続人から遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がいるときに、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えた上で、各人の相続分を算定し、共同相続人間の公平を図る制度です。

したがって、例えば被相続人の生前に、金銭等の贈与を受けた者がいる場合に、この贈与が「特別受益」に該当するかが遺産分割協議の際に問題となります。

もっとも、金銭の贈与があってもすべてがこの「特別受益」に該当するというわけでなく、それが「生計の資本として贈与を受けた」ものに該当しなければ、特別受益となりません。

この「生計の資本」とは、一般的には、相続人の居住用の不動産を購入・新築したときの費用援助、土地の贈与を受けたり、起業する際の資金援助、大学や留学のための学費の援助を受けたりした場合が該当します。ただし、生活費等の援助については、親として通常の扶養義務の範囲内に入ると評価される場合は、特別受益には該当しないと解されています。

また、金銭の贈与が「特別受益」に該当するとしても、被相続人が生前に当該贈与について遺産分割において持ち戻す必要がない旨の明示または黙示の意思表示をしていた場合は、「持戻免除」として、特別受益を遺産分割の際に考慮しないということとなります。

このように、被相続人の生前に、金銭の贈与があった場合には、

1 当該贈与が生計の資本としてなされたものか

2 当該贈与について、被相続人が持戻免除の意思表示をしていたか

という2点が主に問題となります。

本件は、東京高等裁判所平成30年11月30日決定の事例をモチーフにしたものですが、本件では「親から子への、子の誕生祝い金200万円の贈与が特別受益(生計の資本としての贈与)に該当するか」という点が問題となりました。

出産祝い金、新築祝い、入学祝いなどの祝い金については、「親として通常の援助の範囲内でなされたお祝いの趣旨に基づく贈与は、特別受益にはならない」というのが家庭裁判所の実務の考え方となっています(「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第3版)」片岡武ほか)。

そのため、本件では、この誕生祝い金が「親として通常の範囲内でなされたか」という点が問題となりました。

この「親として通常の範囲内でなされたか」という点の判断は、贈与の額が重要な要素となりますが、この他、支出当時の被相続人の資産及び社会的地位等と言った被相続人の状況、当時の社会状況、相続人間の公平という観点なども併せて考慮されます。

本件事例で裁判所は、以下のように述べ、金銭が多額であること、相続人間の公平を考慮し、子の誕生祝い金200万円は特別受益に該当すると判断しました。

「昭和51年当時における200万円という金額は、被相続人の資産、被相続人と申立人(贈与を受けた者)との親子関係等を考慮するとしても、当時の貨幣価値からすると、社会通念上高額であるし、また、本件においては、相手方(贈与を受けていない相続人)には同様の趣旨に基づくお祝い金が贈られていないことからすると、相続人間で均衡を失するから、200万円の贈与は特別受益に当たる。」

もっとも、裁判所は、以下のように述べて、200万円のうち、100万円については被相続人に持戻免除の意思があったとして、最終的に100万円を特別受益と認定しました。

「他方で、被相続人の孫の誕生を祝う心情と被相続人の資産等を考慮すると、100万円の限度においては親としての通常の扶養義務の範囲内に入るものと認められるから、特別受益の持戻し免除の意思を推認できる。」

このように、特別受益については、金銭の贈与の有無とその立証だけでなく、贈与が生計の資本に該当するか否か、持戻免除の意思表示があったか否か等、複数の観点から考慮が必要となりますので、特別受益を主張する相続人は、これらの観点から検討して的確に主張する必要があります。


この記事は、2021年4月10日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2021年04月10日 更新日:2021年04月10日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。