遺産分割審判において「配偶者の生活を維持するために特に必要があるとき」に該当するとして配偶者居住権が認められた事例

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、2020年4月1日以降に発生した相続から適用される制度です。この権利は、被相続人が所有していた建物に、残された配偶者が生涯または一定期間無償で居住できる権利です。

配偶者居住権は、不動産の権利を「使用(居住)権」と「その他の権利」に分離し、別々の人が相続することを可能にする仕組みです。これによって、遺産分割によって被相続人と同居していた配偶者が自宅に住み続けられる権利を保証し、その生活を保護することが可能となります。

配偶者居住権が成立するための要件

配偶者居住権が成立するためには、以下の要件が必要となります。

①配偶者であること

②相続開始の時に遺産である建物に居住していたこと

③居住建物が被相続人の単独所有又は配偶者との共有であること

④遺産分割、遺贈又は死因贈与によって配偶者居住権を取得するものとされること

上記①〜③の要件を満たしている場合に、配偶者が、配偶者居住権を獲得するためには上記④のとおり、被相続人に遺言で書いておいてもらうか、それとも被相続人が亡くなった後に他の相続人との間の遺産分割協議によって取得をする必要があります。

協議がまとまらなかった場合は

では、遺産分割協議・調停でも話し合いがまとまらず、遺産分割審判となった場合には、この配偶者居住権の成否というのはどのように判断されるのでしょうか。

この場合、「居住建物の所有権を取得する相続人の不利益を考慮しても、なお配偶者の生活を維持するために特に必要があるとき」(民法1029条)という要件を満たす必要があります。

この要件について判断をしたのが福岡家庭裁判所令和5年6月14日審判の事例です。

この事案では、被相続人が亡くなり、その妻と子ども3名(うち2名は養子)が相続人であったという事案です。なお、養子2名のうち1名は他の養子に相続分を譲渡したため、遺産分割審判の当事者は、被相続人の配偶者・実子・養子の3名となっていました。

遺産は、主に、土地と建物3棟と預金が遺されていました。

配偶者は、遺産に属する建物への終身の配偶者居住権の取得を希望し、実子は配偶者居住権が設定された建物を取得することを了解し、養子は建物の取得は希望せず、相続分を金銭で取得することを希望していました。

裁判所の判断

このような事案において、裁判所は、配偶者の生活を維持するために特に必要があるとして、配偶者による上記配偶者居住権の取得を認めています。

まず、配偶者居住権の評価については、当事者間が合意している以下の内容(簡易な評価方法)について、その合意を不当と認める特段の事情がないとして採用しています。

配偶者居住権の評価方法

(1)本件土地及び本件建物2の合計現在価額 356万4660円

(2)負担付本件各建物所有権の価額 法定耐用年数超過により0円

(3)負担付本件土地所有権の価額 【本件土地の現在価額】225万5940円×【83歳女性の簡易生命表上の平均余命10年を存続期間とするライプニッツ係数】0.744≒167万8419円(1円未満切捨て)

(4)配偶者居住権の価額 【上記(1)】356万4660円-(【上記(2)】0円+【上記(3)】167万8419円)=188万6241円

以上を前提として、裁判所は、配偶者居住権を認める理由として以下のとおり述べています。

「相手方Bは,被相続人の配偶者であり,相続開始の時に本件不動産に居住していたところ,本件各建物について配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出ており,相手方Bは,配偶者居住権が設定された本件各建物の取得を了解している。そうすると,相手方Bの受ける不利益の程度を考慮してもなお,配偶者である相手方Bの生活を維持するために特に必要があると認められる。したがって,相手方Bに本件各建物につき存続期間を同人の終身の間とする配偶者居住権を取得させ,相手方Cに本件不動産の所有権を取得させるのが相当である。」

以上のとおり、本件では配偶者居住権の評価や不動産の帰属などについて当事者間で特に争いがなかったため、配偶者居住権は特に問題なく認められる事例だったと見られます。

配偶者居住権の成否が審判で判断された事例はまだ少なく、配偶者居住権の成立要件である「配偶者の生活を維持するために特に必要がある」という点と配偶者居住権の評価方法について、実務上参考になる事例です。


この記事は2024年11月27日時点の情報に基づいて書かれています。

公開日:2024年11月27日 更新日:2024年11月27日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。