遺留分の請求に対し、価格弁償の申し出を財産ごとに個々に選択できるか

Q 父が亡くなり、長男である私が全財産を相続するという遺言により、私が全財産を相続しました。

その後、次男と、三男からは遺留分の請求がされました。

父の遺産は、主に自宅の土地建物と株式ですが、自宅の土地建物は誰も住んでおらず空き家なので、価額弁償はせず遺留分の割合で次男、三男と共有となっても構わないと考えています。

しかし、株式は、父が経営していた会社の株式で、私がその会社の経営を引き継いでいますので、これを次男と三男に分けるとなると経営上問題が生じます。

したがって、株式については価額弁償したいと考えていますが、このように遺留分の請求に対して、一部の財産だけ価額弁償するということは認められるのでしょうか。

A 一部の財産についてのみ価額弁償の申し出をすることも認められます

【注意】

平成30年7月の相続法改正により遺留分侵害請求権が金銭の支払いを求める権利とされたことにより、本事例の争点の考え方については、改正法施行後は取り扱いが変わることにご留意ください。

【説明】遺留分減殺請求というのは、請求する側の立場としては、対象となるすべての遺産に対して行う必要があり、いわば、つまみ食い的に財産を選んで請求することは認められていません。

例えば、遺留分減殺請求の対象となる遺産として、土地建物、預金があった場合に、「土地建物はいらないから預金にだけ請求したい」と考えても、それは法律上認められず、すべての遺産に対して、遺留分が侵害されている割合をもって請求する必要があります。

これに対して、遺留分減殺請求をされた側の対応としては、減殺請求された遺産について相手に返還をしなければならないのが原則です。

これは、具体的に言うと、不動産については、その遺留分割合で共有状態としなければならず、預金についてはその遺留分割合相当額を支払う、ということになります。

もっとも、価額弁償の申し出、というものが認められており、例えば、不動産についてはその評価額に相当する金額を支払えば、返還する必要がない(共有状態にする必要がない)、ということが認められています。

そこで、疑問点として生じてくるのが、上記事案のように、一部の財産については返還し、一部の財産については価額弁償をする、というように選択することが認められるのか、という問題です。

この点については、特定の財産だけを選択的に受贈者が取得できるというのは、遺留分権利者に対して不当な結果となる、として否定的な見解がありましたが、最高裁判所平成12年7月11日判決は、価額弁償の申し出は各個の財産について選択的にできる、と判断しました。

すなわち、最高裁判所は、

「遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるのであるから、その返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各個の財産についてなし得るものというべきである。」

「遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財産を取得することが保障されているものではなく(民法一〇二八条ないし一〇三五条参照)、受贈者又は受遺者は、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければ、遺留分権利者からの返還請求を拒み得ないのであるから」「、右のように解したとしても、遺留分権利者の権利を害することにはならないからである。」

と述べています。

したがいまして、本件の事案では、長男は株式についてだけ、価額弁償の申し出をすることは可能ということになります。

以上をまとめると

遺留分については、請求する側は

・財産を選択して請求することはできず、すべての財産に対して行わなければならない

・金銭の支払請求は、受遺者(相手方)が申し出た場合にのみ可能であり、受遺者側が拒んだ場合には、現物分割、すなわち不動産の場合は共有となる

ということとなりますが、

請求される側(受遺者)は、

・目的物の返還をするか、価額弁償するかは自由に選択できる

・価額弁償する財産については自由に選択できる

となっており、どちらかというと、請求される側(受遺者)側の方が裁量の余地があると言えます。


2016年2月8日更新

公開日:2016年02月08日 更新日:2019年01月14日 監修 弁護士 北村 亮典 プロフィール 慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。