遺留分減殺請求権の消滅時効の起算点(民法1042条「減殺すべき贈与があったことを知ったとき」の意味)
民法1042条は
「減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。」
と規定しています。
したがいまして、遺留分減殺請求権は、「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」から起算して1年以内に行使しなければ、時効により消滅してしまいます。
請求の方法自体は、こちらのページに記載しているとおりですが、基本的には、この起算点から1年以内に「請求」をすればよく、具体的には内容証明郵便で遺留分減殺請求権を行使する旨を相手方に伝えれば良いとされています。
ここで、問題になるのは、
「減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」
とは、具体的にいかなる時を言うのか、という点です。
この点について判示した裁判例として東京高等裁判所昭和52年4月28日判決、及び大阪高等裁判所平成7年8月24日判決があります。
まず、大阪高判は、「知った時」の解釈として
「遺留分減殺請求権を行使することは通常は容易であること及び民法一〇四二条が短期の消滅時効を規定して法律関係の早期安定を図った趣旨に照らすと、ここでいう「知った」とは的確に知ったことまでも要するものではなく、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使することを期待することが無理でない程度の認識を持つことを意味するものと解すべきである。」
と述べています。
さらに、東京高判は、
「当該贈与の効力がそのまま維持されると右割合額による遺留分権利者の利益がなんらかの範囲で損われるということについてのそれであることを要し、かつこれをもって足りるのであって、遺留分の精密な算定や遺留分侵害の正確な割合、したがって減殺を請求しうる範囲などについて具体的な認識がなくても、消滅時効の進行が開始することの妨げとならないものと解するのが相当である。」
と述べています。
以上を踏まえると、
贈与や遺贈の事実を知りさえすれば消滅時効が進行するというわけではないが、
遺留分の精密な算定や遺留分侵害の正確な割合などについて具体的な認識がなくても、消滅時効が進行する
ということになります。
この辺りの解釈はどうしても曖昧な部分が残りますが、実務的には、遺言書によって贈与、遺贈がなされているケースが大半です。
したがって、遺言書の内容が明らかとなった時点(例えば、金庫から遺言書が発見された時点や、相続人の一人から遺言書の内容を明らかにされた時点などが)から時効が進行すると考えて、遺留分の請求のために行動をした方が無難であるといえます。
2016年2月23日更新
公開日:2016年02月23日
更新日:2017年01月31日
監修
弁護士 北村 亮典 プロフィール
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。
現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。