親の介護に尽くした者について、遺産分割の際に寄与分が認められるか?
という問題があります。
この問題については、
「介護行為が特別の寄与(貢献)にあたるのか?」
「特別の寄与にあたり寄与分が認められるとしてどの程度の金額が認められるか?」
という点を巡って調停や審判で争われることが多いです。
しかし、その他の問題として、
「そもそも、介護をした者が誰か(法律上寄与分を主張できる者が介護したのか)?」
という点が問題となることがあります。
なぜかと言うと、民法は、寄与分を主張できる者を「相続人」に限定しています(民法904条の2)。
そうだとすると、特別の寄与(貢献)があったかどうかは「相続人」の行為について判断されるのであり、相続人以外の者がどれだけ貢献したとしても遺産分割で寄与分は主張することはできないのです。
この問題が顕在化するのは、介護において
「親の介護をしたのが、子ではなく子の妻だった」
という場合です。
例えば、認知症の親と、その長男家族が同居していたが、長男自身は単身赴任で自宅を空けていて、実際の介護は長男の妻が担っていてそれが特別の寄与(財産の減少を防止した)にあたるような介護態様だった、と言う場合です。
このような場合、実際に介護をし、特別の寄与をしたのは長男の妻になりますが、先程の理屈で言えば、長男の妻は「相続人」ではありませんので、親が亡くなった後の遺産分割において寄与分を主張することは出来ません。
しかし、これでは、実質的に長男の代わりに介護をした長男の妻の特別の寄与が全く評価されないという不公平な事態となってしまいます。
そこで、このようなケースにおいて、東京高等裁判所平成22年9月13日決定は、以下のように述べて、
相続人の配偶者による介護・看護の貢献については、相続人自身の貢献と同視する
という理屈で相続人に寄与分を認めました。
すなわち、裁判所は、まず、介護の態様について
「被相続人は,相続人の妻であるCが嫁いで間もなく脳梗塞で倒れて入院し,付き添いに頼んだ家政婦が被相続人の過大な要望に耐えられなかったため,Cは,少なくとも3か月間は被相続人の入院中の世話をし,その退院後は右半身不随となった被相続人の通院の付き添い,入浴の介助など日常的な介護に当たり,更に被相続人が死亡するまでの半年の間は,被相続人が毎晩失禁する状態となったことから,その処理をする等被相続人の介護に多くの労力と時間を費やした」ことを認め
「Cによる被相続人の介護は,同居の親族の扶養義務の範囲を超え,相続財産の維持に貢献した側面があると評価することが相当である。」
として、寄与分を認めるべき特別の寄与があったと認定しました。
そして、相続人ではなく、相続人の妻(C)が実際に介護をしていたことについては、
「Cによる被相続人の介護は,相続人の履行補助者として相続財産の維持に貢献したものと評価でき,その貢献の程度を金銭に換算すると,200万円を下ることはないというべきである」
として、相続人(Cの夫)に寄与分を認めたのです。
このように、相続人以外の者の特別の寄与であっても「相続人の履行補助者」という理屈に当てはめて、相続人の寄与分が認められています。
この「相続人の履行補助者」というのは、本件の事例では相続人の配偶者でしたが、その他、相続人の子どもも該当する場合があると考えられます。
このような裁判例により、相続人の配偶者による介護等(特別の寄与行為)についても寄与分が認められる可能性は高いといえます。
しかし、このような理論構成も一つ問題が有ります。それは、相続人が被相続人よりも先に亡くなってしまった場合です。
上記の理屈は、相続人の妻の特別の寄与について、あくまでも「相続人」の寄与分として認めるというものです。
したがって、被相続人(親)より先に相続人(子)が死んでしまった場合、相続人の妻は、何ら相続権がありませんので、寄与分を主張する術がなくなってしまうのではないか、という問題があるのです。
このような不都合を防ぐために、平成30年7月の相続法改正により、相続人以外の被相続人の親族が、被相続人に対して無償の療養看護その他労務の提供をし、これにより被相続人の事案の維持・増加に特別の寄与をしたときは、この親族は、相続人に対して、特別寄与料の請求ができる、という権利が創設されました(改正民法1050条)。したがいまして、この点についての不都合も改正法により解消されたと言えるでしょう。
2017年2月3日更新
2019年1月14日追記
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。