弁護士コラム

遺産不動産の共有分割が認められる場合とは?

2018.05.07

【質問】
遺産として土地が複数あります。
相続人が5人おり、法定相続分通り分けるということは合意していますが、相続人の誰がどの土地を取得するか、遺産分割調停でも話がまとまらず、現在審判手続となっています。

代償分割の方法を誰も主張しておらず、かと言って、土地を競売にかけるということも誰も望んでいません。
この場合、遺産の土地をとりあえず「共有にする」という内容の審判が出されるのでしょうか。

【説明】

遺産を分ける方法については

1 現物分割
2 代償分割
3 換価分割
4 共有分割

の4つの方法があります。
調停や審判で検討される方法の順序も、まさに上記の順番の通りで
まず、原則的な方法は「現物分割」(まさにそのものを分ける)となります。
しかし、土地などの不動産の場合には、現物分割の方法に従ってそのまま法定相続分で土地を分けると、土地が細分化するなどして土地の利用価値がなくなる場合がほとんどです。
ましてや、建物(特に戸建て)も切って分けることはできません。
したがって、一般的な宅地や戸建てが遺産の場合にはこの方法によることは出来ません。

そこで、次に考慮される方法としては、「代償分割」というものになります。
これは、誰かが土地を相続することと引き換えに、土地を相続しない相続人に対して法定相続分に相当する土地の価値相当額(代償金)を支払うという方法です。
しかし、誰も土地を欲しない場合や、そもそも代償金を支払えるような相続人がいない場合もこの方法はとれません。

そうなると、次の手段として「換価分割」という方法になります。この方法は、不動産を競売にかけて、その競売代金を相続分に従って分割するという方法です。
要するに「売ってお金を分ける」という方法です。
不動産の場合は、現物分割や代償分割が不可能な場合、通常はこの「換価分割」という方法で分けられることとなります。

しかし、本件のケースのように、現物分割も代償分割も不可能であり、なおかつ、相続人全員が土地を競売にすることも望んでいないような場合、すなわち換価分割を望んでいない場合、裁判所は最後の「共有分割」という分割方法を認めるのでしょうか?

この点について述べた裁判例が大阪高等裁判所平成14年6月5日決定です。
この裁判例は、相続人全員が遺産土地の競売を望んでいなかった、という事例でありながらも、

「土地を換価分割すべき」

と判断しました。

その理由として、まず、遺産分割の検討方法について

「遺産分割は、共有物分割と同様、相続によって生じた財産の共有・準共有状態を解消し、相続人の共有持分や準共有持分を、単独での財産権行使が可能な権利(所有権や金銭等)に還元することを目的とする手続であるから、遺産分割の方法の選択に関する基本原則は、当事者の意向を踏まえた上での現物分割であり、それが困難な場合には、現物分割に代わる手段として、当事者が代償金の負担を了解している限りにおいて代償分割が相当であり、代償分割すら困難な場合には換価分割がされるべきである。」

として、現物分割→代償分割→換価分割、の順序で検討するよう述べました。

そして、共有分割の可否については、

「共有とする分割方法は、やむを得ない次善の策として許される場合もないわけではないが、この方法は、そもそも遺産分割の目的と相反し、ただ紛争を先送りするだけで、何ら遺産に関する紛争の解決とならないことが予想されるから、現物分割や代償分割はもとより、換価分割さえも困難な状況があるときに選択されるべき分割方法である。」

と述べて否定しています。

すなわち、遺産の共有分割が認められる場合とは「換価分割さえも困難な状況があるとき」と言うこととなります。
これが該当するのがどのような場合かは明確ではありませんが、競売による売却が事実上不可能な場合(競売でも買い手がつかないことが予想される場合)や、相続人全員が当該物件に居住などしていて売却されてしまうと行く宛もなくなってしまう、いった場合などかなり極端な場合に限られるものと考えられます。


2018年5月7日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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