弁護士コラム

自筆証書遺言の保管制度の創設(相続法改正)

2018.07.10

今国会で、相続法に関わる民法の改正法案が成立しました。

相続法分野においては昭和55年以来の大改正であり、改正部分は多岐にわたりますが、ここでは、「自筆証書遺言の保管制度」について説明します。

今回新たに「自筆証書遺言を法務局が預かり保管する」という制度が創設されました。

これは、自筆証書遺言の利用を促進するという目的から作られたものです。

概要をかいつまんで言いますと

1 自筆証書遺言を、作成した本人が法務局に持参すれば(代理での持参は不可)、法務局で原本を保管してもらえる

2 原本の保管は、遺言者が亡くなり、遺言書による相続手続が終わると見込まれるまでの長期間保管される(おそらく半永久的に保管されると思われます)

3 法務局で保管された自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認手続が不要

です。

自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑さえあれば簡単に作成でき、その手軽さが一つのメリットではありましたが、他方で

1 作成後に、紛失、他人に偽造・変造される、もしくは亡くなった後に発見されないおそれがある

2 家庭裁判所の検認手続を経なければならず、相続開始後に手続の煩雑であり、なおかつ遺言書を利用した相続手続の開始に時間がかかる

3 方式の不備で無効とされたり、後に、遺言能力がない状況で書かれたとして争われるリスクが有る

というデメリットが指摘されていました。

そのため、専門家は、これまで上記デメリットをカバーできる「公正証書遺言」の作成を勧めることが一般的でしたが、今回の自筆証書遺言の保管制度によっても上記のデメリットをほとんどカバーできることになります。

公正証書遺言は、公証人が作成に関与しますので、法的に確実なものができる、という安心感がありますが、他方で、公証役場に問い合わせをしたり、公証人の手数料がかかったり、証人を2名用意しなければならないというデメリットもあり、人によっては大きなハードルともなっていました。

したがって、今回の保管制度により、遺言書の作成の実質的な選択肢が増えるものと考えられます。

なお、この保管制度は「遺言を書いた本人が直接法務局に持参しなければならない」ということとなっています。

そのため、入院中だったり、足が悪くて外に出かけられない方は、事実上利用が不可能ですので、その場合は、やはり公正証書遺言を利用せざるを得ないと考えられます。

逆に言えば、自力で法務局まで赴き、保管サービスの申込みをする必要がありますので、従前自筆証書遺言で多く見られた「遺言能力を欠く状態で作成された」「他人が作成した」という紛争は相当程度は減るものと思われます。

また、自筆証書遺言を法務局に持参した際に、窓口で形式の不備はチェックされるとみられますが(日付の記載や押印の有無など)、内容の不備(例:①一つの財産を複数人に相続させる場合で、各相続人の相続分を明記していない。②「配分は皆で相談して決めてください」などと書かれている。③「すべてを〇〇(兄の名前)に任せる」と書いてあるなど)まではチェックされないと思われますので、この点は留意が必要です。


2018年7月10日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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