弁護士コラム

遺産不動産から生じている賃料収入はどうやって分割するのか

2018.10.25

【質問】

父が亡くなりました。相続人は長男と、次男の私二人です。

 

父はアパートを所有しており、アパート、その他の遺産を巡って長男とは遺産分割協議がまとまらず現在に至っています。

 

父が亡くなった後もそのアパートからの賃料収入が入ってきますが、賃料収入については、長男が全て回収して管理しており、私には渡そうとしません。

 

産分割協議がまとまるまでまだまだ時間も掛かりそうなのですが、この間のアパートの賃料収入はどうやって分けるべきなのでしょうか。

なお、長男は、自宅だった不動産その他多くの遺産を取得する予定なので、アパートは私が相続することになると思いますが、その場合、父の死亡時まで遡って賃料も全て私が取得することができるのでしょうか。

【説明】

被相続人の方が亡くなってから、相続人間で遺産分割協議が整うまでに長期間を要する場合があります。

このような場合に、民法909条が

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

と規定しているため、遺産に本件のような収益物件があり、賃料が生じる場合、

① 遺産分割協議が成立するまでの間に発生した賃料はどのように分けられるのか

② 遺産分割協議が成立した場合に、その収益物件を取得した者が賃料も全て取得できるのか

ということが問題となります。

この点について判断したのが最高裁判所平成17年9月8日判決のケースです。

最高裁は、相続開始後に発生した遺産不動産からの賃料について、

①共同相続財産である賃貸不動産から生ずる賃料債権は、遺産とは別個の財産であって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する

②遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない

③相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、その相続人らが相続分に応じて分割単独債権として取得する

と判断しました。

上記のような最高裁の判断の理由として、判例タイムズ1195号 100頁は

「遺産分割前の時点において、遺産から生じた果実は、相続開始によって遺産共有となった財産を使用管理して収取されるものとなることから、遺産とは別個の、共同相続人の共有財産であると解するのが相当である。

そして、遺産たる賃貸不動産から生じた賃料債権は、可分債権であるから、民法427条により、当然に分割されて、共有者である共同相続人がその共有持分である法定相続分に応じて、単独分割債権として取得するものと解される(奥田昌道・債権総論335頁、340頁等。なお、賃借権を共同相続した場合の賃料債務は不可分債務となる。)。

さらに、以上にかんがみれば、遺産共有の状態にある賃貸不動産から生じた賃料債権について、遺産とは別個の財産として、各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として取得したものとする以上、その帰属は確定したものであって、遺産分割の効力を受けないものと解するのが相当である。」

と解説しています。

上記判断を本件に当てはめると、

父死亡後、遺産分割が確定するまでの間のアパート賃料については、長男と次男が法定相続分の2分1ずつ取得する

ということになります。

これは、後の遺産分割協議で次男がアパートを単独で相続するということになっても変わりません。

したがいまして、次男としては、遺産分割が確定するまでの間は、アパート賃料の2分の1相当額については、長男(もしくは賃借人)に請求することができるということになります。

なお、実務上は、遺産分割協議が確定するまでの間は、相続人間で合意して相続人の誰かが代表して賃料債権を回収・管理してその都度分配したり、遺産分割協議・調停の中で遺産と併せて分配について協議する、という方法が執られることが多いです。


2018年10月25日

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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