親が所有している一戸建てやマンションに、その子が無償で住んでいる、ということは少なからずみられる事象です。
兄弟が数人いて、そのうちの一人だけが上記のように親の所有建物に無償で住んでいたような場合、その親が亡くなった後に兄弟間で相続紛争が勃発すると、真っ先に親の建物に無償でいたことがやり玉に挙げられ、遺産分割調停などでは、
「親の家の無償で住んで者は、賃料相当額について利益を得ていたに等しい。」
「賃料相当額については、特別受益とすべきだ。」
という主張がなされることが多いです。
このような主張は認められるのでしょうか。
この点についての裁判例は見当たりませんが、家裁の実務においては、上記のような場合は、特別受益とはしない扱いで調停・審判が進められることが多いようです。
その理由としては以下の3つの事情が挙げられます。
1.被相続人が相続人に対して建物の無償使用を許諾している場合、
持ち戻すことを予定していないのが通常と考えられること。
2.建物使用貸借は恩恵的な要素が強く、遺産の前渡しとは考えられないとも
言えること。
3.実質的にも、建物の使用借権は、土地の場合とは異なり第三者に対する
対抗力はなく、明渡も容易であって、経済的な価値は無に等しいことに
対し、建物の無償使用の場合に賃料相当額自体を合計すると相当多額
になり、利益衡量上も妥当ではないと言えること。
以上の理由により、特別受益とはならない、とされていますが、この問題は理屈の問題ではなく、感情的に大きなウェートを占める問題となってしまっているため(特に無償で住んでいた兄弟に対する不公平感や嫉妬等)、実際の協議や調停の場では、この点を巡って紛糾することも多いように感じます。
2015年11月30日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。