Q 私は3人兄弟です。兄弟3人とも大学に進学しましたが、私だけが私大の医学部に進学したので、親から出してもらった学費が2000万円を超えています。
そのため、親が亡くなった後、他の兄弟から
「お前の学費は特別受益だ」
と主張されています。
親も医師でしたので、親を継ぐつもりで私は医学部に進学したのにです。他の兄弟の主張は認められるのでしょうか。
A 裁判所の考え方としては、学費の額の多寡を基準にしつつも、その他の周辺事情も考慮して多額の学費が特別受益にあたるかどうかを判断します。
親が子どもの大学卒業まで、学費等の援助を行うことは、今の世の中では、親の子どもに対する「扶養」の一環としてある意味当然のようになされているものです。
兄弟皆が大学に進学して、親から平等に大学の学費等についても援助を受けていた、ということであれば、この援助が特別受益と主張されることはまずありません。
しかし、私大の医学部ともなると他の学部の学費とは桁が違ってきますので、医学部に進学した者とそれ以外に者との学費の援助額には明らかに差ができてしまいます。
そのために、遺産分割で揉めてしまうと「私大医学部の学費は非常に高額なので特別受益だ」という主張を呼び込んでしまうのです。
他方で、医学部に進んだ者の立場からすれば
「自分は一生懸命勉強して、親の期待に答えようと頑張ったのに。それが特別受益だなんて。」
と解せない思いを抱く場合も多いのではないでしょうか。
では、この問題が裁判所で争われた場合、どのように判断されるのでしょうか。
この問題については、裁判所の考え方としては、学費の額の多寡を基準にしつつも、その他の周辺事情も考慮して特別受益にあたるかどうかを判断する傾向があります。
例えば、親の社会的地位や資産、医学部に進学した事情、他の兄弟が医学部に進学しなかった事情や、その他の援助の金額の状況など、周辺事情を総合的に考慮して、特別受益に該当するかどうかが判断されます。
例えば、冒頭の質問事例と同様の事例で、京都地方裁判所平成9年10月11日のケースは、以下のように述べて、一人だけが大学歯学部に進学した際の学費(約2300万円)について、特別受益に該当しない、と判断しました。
この裁判例は、学費については、まず
「学資に関しては、親の資産、社会的地位を基準にしたならば、その程度の高等教育をするのが普通だと認められる場合には、そのような学資の支出は親の負担すべき扶養義務の範囲内に入るものとみなし、それを超えた不相応な学資のみを特別受益と考えるべきである。」
と述べた上で、
・兄弟3人のうち、一人だけが医学部に進学しているが、他の兄弟二人も大学に進学していること
・親が開業医で、子どもに継がせたいと考えていたこと
・親が資産家だったこと
を理由として、医学部の学費の援助については
「相続人らはこれを相互に相続財産に加算すべきではなく、亡Aが扶養の当然の延長ないしこれに準ずるものとしてなしたものと見るのが相当である。」
として、特別受益を否定しました。
私大の医学部というだけでどうしても学費の額だけに目が行きがちになってしまいます。
しかし、この点で争いになった場合は、「援助を受けた側」は、それ以外の周辺事情も全て丁寧に拾い上げて「本当に不公平か」どうかを裁判所に理解してもらうよう主張・立証に努めることが重要です。
2016年5月11日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。