Q 30年前に所有している土地を貸しました。借地人は、土地上に自宅を建てて今も住んでいます。当初の土地の賃貸借の契約期間が30年間でしたので、契約期間の満了のタイミングで、借地人に「契約を更新して更新料を支払って欲しい」と求めました。
すると、借地人は、「更新料は払いたくないから更新契約もしない」と言い、その後、契約期間満了後も借地上の自宅に住み続けています。
これは法律的には「法定更新」という状態で、借地人はそのまま土地の使用を継続できると聞きました。
これだと契約が更新されたに等しい状態ですので、更新料を支払ってもらいたいのですが、請求はできるでしょうか。
A 借地については、契約更新の際の更新料というのは当然に請求できるものではなく、契約の中で更新料の支払いの特約を明確に定めておかなければなりません。
契約で更新料の支払義務を定めておけば、契約期間満了後に合意で更新するときには、貸主は借地人に更新料の請求ができます。
しかし、本件のケースのように、当初の契約で更新料の支払義務について定めていたものの、契約期間満了時に更新について合意又は更新契約をすることができない場合があります。
そのような場合、すなわち、そのまま借地人が土地の使用を続ける「法定更新」の場合に、更新料を請求できるかどうか、という点が問題になることがあります。
貸主としては
「借地人が更新の協議に応じてくれて合意してくれれば更新料を請求できるのに、こちらからの更新の協議を拒否して、そのまま使い続けていれば借地人は更新料を支払わなくて良い、というのは不公平だ。」
と思うのではないでしょうか。
他方で、借地人としては
「民法や借地借家法だと、仮に更新の合意がなくても、更新拒絶にあたって正当事由が無い限り契約は更新されるとされている。それなのに更新料を払わなければならないということになると、結局は更新に条件を課すようなもので法律の趣旨に反するのではないか。」
という言い分が出てきそうです。
では、裁判実務はどうなっているのかというと、この問題については裁判例も結論が割れている状態です。
当事者の合意内容(更新料支払特約の条項の内容)や、従前の土地の利用状況をみて、「更新料特約が法定更新にも適用される、あるいは更新料の合意がある」、
ということで更新料が認められた裁判例もあります。
今回は、法定更新の場合に更新料請求を認めた比較的最近の裁判例を以下紹介します。
・東京地裁平成27年4月10日判決
この事例は、「賃貸借契約の期間満了の場合,地上建物が朽廃せずに現存するときは,賃借人は,賃借地を返還するか又は之に代えて賃借地の更地価格(契約期間満了時の)10ないし9パーセントの更新料を支払って賃貸借契約の更新を求めることができる。この場合,賃貸人は賃借人の建物の増改築を承認するものとする。」とする更新料に関する条項があった事例で、法定更新されたケースです。
このケースでは、裁判所は、前回の契約更新時に更新料の授受がなされたこと、及び、
「契約証書に署名押印するまでのやり取りなどにかんがみれば,更新料が契約期間の賃料の一部の前払たる性質を含むものと推定できるから,本件更新料支払条項が法定更新の場合に更新料の支払を免除する趣旨と解することはできず,被告は更新料の支払義務を免れないというべきである。」
と述べて、更新料の請求を認めています。
・東京地裁平成24年11月30日判決
この事例は、更新の規定や明確な合意がなかったものの、前回の契約の更新の際に調停において更新料と評価される金員を受け取っていることを前提として、
「本件合意により,本件契約の賃貸借期間が平成3年2月22日から20年間更新されたに過ぎず,20年後には再度合意更新ないし法定更新が予定されていること(本件契約が昭和の時期から更新されていることを考慮すると明白である。)を考慮すると,本件合意が今回の本件契約更新限りの更新料であったと解釈することは妥当ではない。」
「また,更新料は,更新時期の賃借権の価格と密接な関係にあるため,更新の際,更新料の額を合意することが困難であることを考慮すると,具体的な価格の定めがないことは更新料の合意を否定する事情にはならないと言うべきである。したがって,本件合意の当事者の合理的な意思解釈としては,上記更新期間満了後には再度更新料を支払う旨の合意があるものと認める。」
「更新料の合意は,賃貸借期間の再度の延長の際に賃借人から賃貸人に交付される金員であって,合意更新か法定更新かで区別する理由がないこと,更新料の価格は当事者間で直ちに合意できないこともあるので,法的更新にはその適用がないとすると賃貸人に一方的に不利益であることなどを考慮すると,法定更新の際にも合意更新と同様に更新料は発生するものと言うべきである。」
と述べて、法定更新の場合であっても更新料の支払いを認めています。
すなわち、この事例は、法定更新か合意更新かという視点ではなく、「次回の更新料支払いの合意が推認できるか」という視点で更新料の請求を認めています。
以上のとおり、借地においては、法定更新の場合に更新料が認められるかどうかは、最近の判例では、より実質的に「次回更新時にも更新料を支払うという合意が当事者間で形成されていたか」ということが重視されていると考えられます。
もし借地において、法定更新の場合に更新料の請求をするのであれば、前回の更新料の支払状況やその際の合意状況、とりわけ次回更新時も更新料を支払う合意があったのか、などを考慮して主張を組み立てていく必要があります。
2016年12月18日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。