親の相続が発生したときに、
「親が亡くなる前に親の家業を手伝っていた子と、そうでない子」
との間で対立が生じるということがあります。
裁判上よく見られるのは、実家が農家で、子どもが農業を手伝っていた、というケースです。
このような場合に、家業を手伝っていた子としては
「自分は無償で親の家業を手伝っていたのだから、その分遺産を多く取得できるはずだ」
という主張をするのではないでしょうか。
このような主張を、法律的には「寄与分」と言います。
「寄与分」とは、被相続人の生前において、被相続人の財産の維持又は増加に貢献した者がいる場合、それを遺産分割において考慮する、というものです。
この寄与分というものは、認められるためには、「特別な寄与」(特別な貢献とも言います)が必要となります。
「特別な寄与」、とは親の「財産」の維持等に貢献したという事情、例えば子の貢献によって親の財産が増えた、又は余計な出費が減り親の財産を維持できた、といった事情があることが重要なのです。
家業を手伝っていた子が「特別の貢献」があった認められるためには、短期間、有償で手伝っていた、というのではダメで、
・無償で手伝っていた(無償性)
・長期間継続して手伝っていた(継続性)
・片手間ではなく相当の負担を有するものだった(専従性)
という各要件を満たすことが必要です。
では、上記要件が認められるためには、具体的にはどの程度の行為・貢献が必要なのか、というところが問題となります。
この点、寄与分というのは民法904条の2第2項が
「家庭裁判所が寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して寄与分を定める」と規定しているように、裁判所の広い裁量を認めています。
したがいまして、過去の裁判事例などを参考にして判断していくしかないというのが実情です。
農業に従事していた子に寄与分を認めた事例として、比較的最近の裁判例として大阪高等裁判所平成27年10月6日のケースがあります。
この事例は、長男が、親の所有するみかん畑の耕作について、会社員として勤務する傍ら、休みの日に農作業を手伝い、また退職後も農作業に従事してみかん畑を維持していた、という事例で、農作業に従事していた長男から寄与分の主張がされました(その期間は、約30年にも及んでいました)。
このような事例で、裁判所は、
「みかん畑を維持することができたのは,長男が,昭和51年以降,農業に従事したからである」
とした上で,
「耕作放棄によりみかん畑が荒れた場合にはその取引価格も事実上低下するおそれがあるから,長男には,農業に従事してみかん畑を維持することにより遺産の価値の減少を防いだ寄与がある」
と判断して,みかん畑の評価額の30パーセントを寄与分と認めました。
寄与分が認められる場合、一般的には「遺産全体の・・%」(概ね10〜20%とされるケースも多いです)と算出されることが多いのですが、この事例は、遺産の全てではなく,遺産の一部(農地)についてのみ寄与による維持又は増加が認められるものとして、遺産の一部についてのみ寄与分を認めたという点で特徴があります。
2017年2月20日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。