【アパートオーナーからの相談】
私は、所有しているアパートを、賃借人に月額7万5000円の家賃で賃貸しました。契約の際は、賃借人には保証会社と契約することを条件としてもらっています。
しかし、この賃借人が家賃を徐々に滞納するようになり、4ヶ月分連続で家賃の滞納をしました。
滞納した家賃は、その都度保証会社が立て替え払いをしていたのですが、このように滞納が続いた以上、信頼関係が破壊されたとして解除通知を出しました。
しかし、賃借人からは、「保証会社が立て替えて払っているのだから、家賃の滞納はない」と反論され、解除を拒んでいます。
このような賃借人の主張は認められるのでしょうか。
【説明】
賃貸借契約においては、賃借人は契約時に保証人を立てる必要があることは半ば当然の取引慣行となっています。
もっとも、近年は保証人を立てることに代えて、家賃保証会社を利用する賃貸人が増えています。賃貸人側としても、個人の保証人よりも家賃保証会社の方が賃料の回収が図れる可能性が極めて高いというメリットがあるからです。
家賃保証会社を利用した場合、通常は、賃借人が家賃を滞納すると、家賃保証会社がすぐに滞納家賃を賃貸人に支払い、その後家賃保証会社が賃借人に求償請求をする、という流れで進みます。
このため、賃借人が家賃を滞納してもすぐに家賃保証会社が支払うため、滞納賃料額が通常解除が認められる目安の3ヶ月分にまで達しないということも生じてきます。
そうなると、本件のように、賃借人が家賃の滞納を続けていてそれが長期間続き、賃貸人としては信頼関係が失われたとして解除したいと考えても、家賃保証会社による支払いにより形式上は滞納額が残っていない場合、果たして賃料滞納を理由とした解除ができるか、ということが問題となるわけです。
この点について判断した事例が、大阪高等裁判所平成25年11月22日判決です。
この事例では、賃借人は長期間家賃の滞納をしていたものの、家賃保証会社により賃料が支払われていたため、賃借人が解除を争ったのですが、裁判所は、以下のように述べて、賃貸人からの解除を認めました。
「本件保証委託契約のような賃貸借保証委託契約は,保証会社が賃借人の賃貸人に対する賃料支払債務を保証し,賃借人が賃料の支払を怠った場合に,保証会社が保証限度額内で賃貸人にこれを支払うこととするものであり,これにより,賃貸人にとっては安定確実な賃料収受を可能とし,賃借人にとっても容易に賃借が可能になるという利益をもたらすものであると考えられる。」
「しかし,賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって,賃借人による賃料の支払ではないから,賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり,保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない。なぜなら,保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって,これにより,賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではなく,ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである。」
このような事案について最高裁判例はまだありませんが、同様の結論を取る裁判例は複数出ていますので(福岡高等裁判所平成28年2月29日判決、東京地方裁判所平成27年7月16日判決等)、裁判実務としては上記判断が固まりつつ有ると言えます。
この記事は、2020年10月3日時点の情報に基づいて書かれています。
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。