土地や建物の不動産が遺産となる場合、土地や建物を切って分ける、ということは通常は困難な場合が多いです(土地が細分化するなどして土地の利用価値がなくなる場合など)。
したがって、一般的な宅地が遺産の場合に考慮される遺産方法としては、「代償分割」というものになります。
これは、誰かが土地を相続することと引き換えに、土地を相続しない相続人に対して法定相続分に相当する土地の価値相当額(代償金)を支払うという方法です。
この代償分割が認められるための要件として、最高裁判所(最高裁判所平成12年9月7日決定)は、特に代償金を支払う者の資力が重要であると述べています。
なぜならば、この代償分割により遺産分割が成立する場合には、遺産不動産を現物で取得する相続人は、遺産の所有権を直ちに取得することができますが、代償金の支払いを受ける相続人は、代償金債権を取得するだけであり、その履行がなされなかったとしても、遺産分割協議を解除することはできない(最判平成元年2月9日)とされており、また、債務不履行を理由に遺産分割調停や審判が無効であると主張することもできないからです。
そのため、遺産分割調停・審判で代償分割をするに際しては、代償金を支払うことになる相続人に対しては、その原資となるべき預貯金などの資産があるか、金融機関から融資を受けることが可能なのかどうか、あるいは今後の継続的収入が確実であるかどうかなどの資力に関する証拠の提出は必須というのが裁判実務です。
では、不動産を代償取得する相続人の資力が乏しい、もしくは証明ができない場合に、代償分割の方法は一切認められないのでしょうか。
この点については、裁判例や学説もいろいろと議論があるところですが、大阪高等裁判所平成3年11月14日判決は、
「代償金支払債務を負担させられる者にその支払能力がないのに、なお債務負担による分割方法が許されるのは、他の共同相続人らが、代償金の支払を命じられる者の支払能力の有無の如何を問わず、その者の債務負担による分割方法を希望するような極めて特殊な場合に限られるものというべきである。」
と述べています。
要するに、この裁判例によれば
「代償金の支払いを受ける側の相続人が、遺産を代償取得する相続人の資力等は全く気にせず代償分割を希望している」
という場合には、代償分割が認められる可能性がある、ということになります。
ただし、この点については、学説では反対論も根強く、また、そもそも上記裁判例の「極めて特殊な場合」というのがそもそもあり得るのか、と言う指摘もあり(最近の裁判例(大阪高裁平成28年9月27日判決)でも否定されています)、ハードルは高いと言えます。
2018年3月30日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。