【質問】
親が亡くなりまして、遺産としては親の住んでいた自宅だけがあります。
相続人は、私(次男)と長男の2人だけです。
親が亡くなって空き家ですが、昔から慣れ親しんだ場所なので、私が自宅を取得して住みたいと思っていました。
しかし、兄も同じ考えだったようで、どちらも自宅を取得希望で譲らず、遺産分割協議が進まず、調停になる見込みです。
調停となった場合、どちらが自宅を取得できるのでしょうか。
【説明】
遺産が不動産で、特に一戸建ての場合、遺産分割方法として、実務上は
1 代償分割
2 換価分割
のいずれかの方法で分けることになります。
どちらかが取得を希望する場合は、1の代償分割になりますし、どちらも取得を希望しない場合は、売ってお金で分ける(2の換価分割)ということになります。
では、本件のようにどちらも取得を希望する場合(どちらも代償分割を希望する場合)、どのように分割することになるのでしょうか。
この点について、どのように決められるのか、今のところ法律や判例で確たる基準があるわけではなく、調停や個々の審判事件でケースバイケースにより妥結されているのが実情です。
ただし、最近は、話し合いでの調整が難しい場合、東京家庭裁判所では、以下の考慮要素を設定して双方に主張・立証させた上で、裁判所がどちらが取得すべきか、という点を決しているようです。
1 相続人の年齢、職業、経済状況、被相続人との間の続柄等
2 相続開始前からの遺産の占有・利用状況(誰が、どのように遺産を利用していたか)
3 相続人の財産管理能力(誰がどのように遺産を管理していたか、管理が適切であったか)
4 遺産取得の必要性(なぜ遺産を取得したいのか)
5 遺産そのものの最有効利用の可能性(遺産をどのように利用・再利用するのか)
6 遺言では表れていない被相続人の意向
7 取得希望者の譲歩の有無(遺産を取得する見返りとして他の部分で譲歩できるか)
8 取得希望の程度(入札により高い値を付けたほうが取得するという意向があるか)
9 取得希望の一貫性(調停の経過から取得希望の一貫性があるか)
(以上、「家庭の法と裁判」No.12 145〜146頁より抜粋)
私が関与したケースでも、本件と同じ争点について調停で議論した経験がありますが、上記の考慮要素の中でも、特に重要なのが、2の「相続開始前からの遺産の占有・利用状況」であり、相続開始前から占有・利用していた相続人のアドバンテージはかなり大きいと感じています(この点は、子どもの親権争いの場合に「従前の監護状況」に比重をおいて判断されているということとも重なります)。
相続開始前に、相続人の誰も占有・利用していなかった、という場合には、2以外の要素を総合考慮して、裁判所が結論を決めるということになりますので、このような場合は予測を立てるのは難しいケースが多いと思われます。
以上を踏まえると、相続後に取得を希望したい不動産等がある場合には、なるべく相続開始前から占有・利用に関わるように意識した行動が必要であると考えられます。
2018年4月11日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。