弁護士コラム

遺産分割において、相続人間で取得を希望する不動産が競合した場合にはどのように決めるのか

2018.04.11

【質問】

親が亡くなりまして、遺産としては親の住んでいた自宅だけがあります。

相続人は、私(次男)と長男の2人だけです。

親が亡くなって空き家ですが、昔から慣れ親しんだ場所なので、私が自宅を取得して住みたいと思っていました。

しかし、兄も同じ考えだったようで、どちらも自宅を取得希望で譲らず、遺産分割協議が進まず、調停になる見込みです。

調停となった場合、どちらが自宅を取得できるのでしょうか。

【説明】

遺産が不動産で、特に一戸建ての場合、遺産分割方法として、実務上は

1 代償分割

2 換価分割

のいずれかの方法で分けることになります。

どちらかが取得を希望する場合は、1の代償分割になりますし、どちらも取得を希望しない場合は、売ってお金で分ける(2の換価分割)ということになります。

では、本件のようにどちらも取得を希望する場合(どちらも代償分割を希望する場合)、どのように分割することになるのでしょうか。

この点について、どのように決められるのか、今のところ法律や判例で確たる基準があるわけではなく、調停や個々の審判事件でケースバイケースにより妥結されているのが実情です。

ただし、最近は、話し合いでの調整が難しい場合、東京家庭裁判所では、以下の考慮要素を設定して双方に主張・立証させた上で、裁判所がどちらが取得すべきか、という点を決しているようです。

1 相続人の年齢、職業、経済状況、被相続人との間の続柄等

2 相続開始前からの遺産の占有・利用状況(誰が、どのように遺産を利用していたか)

3 相続人の財産管理能力(誰がどのように遺産を管理していたか、管理が適切であったか)

4 遺産取得の必要性(なぜ遺産を取得したいのか)

5 遺産そのものの最有効利用の可能性(遺産をどのように利用・再利用するのか)

6 遺言では表れていない被相続人の意向

7 取得希望者の譲歩の有無(遺産を取得する見返りとして他の部分で譲歩できるか)

8 取得希望の程度(入札により高い値を付けたほうが取得するという意向があるか)

9 取得希望の一貫性(調停の経過から取得希望の一貫性があるか)

(以上、「家庭の法と裁判」No.12 145〜146頁より抜粋)

私が関与したケースでも、本件と同じ争点について調停で議論した経験がありますが、上記の考慮要素の中でも、特に重要なのが、2の「相続開始前からの遺産の占有・利用状況」であり、相続開始前から占有・利用していた相続人のアドバンテージはかなり大きいと感じています(この点は、子どもの親権争いの場合に「従前の監護状況」に比重をおいて判断されているということとも重なります)。

相続開始前に、相続人の誰も占有・利用していなかった、という場合には、2以外の要素を総合考慮して、裁判所が結論を決めるということになりますので、このような場合は予測を立てるのは難しいケースが多いと思われます。

以上を踏まえると、相続後に取得を希望したい不動産等がある場合には、なるべく相続開始前から占有・利用に関わるように意識した行動が必要であると考えられます。


2018年4月11日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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