親と子の間で、土地や建物といった不動産を無償で貸借する、というケースはよく見られます。
無償での不動産の貸借(使用貸借といいます)が行われる場合、契約書などの書面を交わして使用期間などの合意をすることは実務上ほとんど見られません。
そのため、貸している側、もしくは借りている側のどちらかが死亡して相続が発生した場合に、この無償での不動産の貸借関係をその後どのように処理すべきかということを巡って争いになることがあります。
民法は、この使用貸借契約の終了原因について以下のように規定しています。
民法599条
使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。
この規定は、使用貸借が無償契約であることに鑑み、貸主が借主との特別な関係に基づいて貸していると見るべき場合が多いことから、当事者の意思を推定して、借主が死亡してもその相続人への権利の承継をさせないことにした、と解釈されています。
したがって、借りている側が死亡した場合には、使用貸借契約はその時点で原則終了となります。
しかし、例外的ケースも存在します。
それが東京地方裁判所平成5年9月14日判決の事例です。
この裁判例の事案の概略は、
・親が長男から土地を無償で借りて、その土地上に建物とアパートを建てて所有していた
・親が死亡し、建物については遺言で次男に相続させるものとした
・長男は、次男に対し、土地の使用貸借は親の死亡により終了したとして、建物収去土地明渡し請求をした
というものです。
この事案で、裁判所は、使用貸借契約が借主の死亡により終了すると民法で規定されていることを前提としつつも
「土地に関する使用貸借契約がその敷地上の建物を所有することを目的としている場合には、当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物所有の目的が重視されるべきであって、特段の事情のない限り、建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときに、その返還の時期が到来するものと解するのが相当であるから、借主が死亡したとしても、土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにはならないというべきである。」
と判断し、次男の使用貸借を認めました。
本事例は、他にも周辺事情を拾って使用貸借の成立を認めていますので、他の事例にも単純に当てはまるものとは限りませんが、借主死亡の場合であっても使用貸借の継続を認めた事例として参考になります。
2018年10月30日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。