【質問】
私の夫が亡くなりました。
私は、夫の育て親が所有していた建物で、その親と夫と長年同居してきました。
その後、親と夫が仲違いし、親が出ていかれましたが、私と夫は、その親の所有の建物に家族で30年間、無償で住んでいました。
夫が亡くなったことにより、その親の親族から
「この建物は、親があなたの夫に対して無償で貸していたものだ。使用貸借は借主が死亡したら終了するから、あなた達は出ていきなさい」
と立ち退きを迫られるようになりました。
これまで親側からは一度も立ち退きを迫られたことはありませんし、長年住んできた家ですから、このまま住み続けたいと考えています。
私たちは出ていかなければならないのでしょうか。
【説明】
民法599条は、使用貸借契約の終了原因の一つとして、
「借主の死亡」
を規定しています。
この規定は、使用貸借が無償契約であることに鑑み、貸主が借主との特別な関係に基づいて貸していると見るべき場合が多いことから、当事者の意思を推定して、借主が死亡してもその相続人への権利の承継をさせないことにした、と解釈されています。
したがって、借りている側が死亡した場合には、使用貸借契約はその時点で原則終了となります。
しかし、例外的ケースも存在します。
それが、東京高等裁判所平成13年4月18日判決の事例です。
この事例は、冒頭の事例とほぼ同旨ですが、かいつまんで言うと、育ての親の所有の家に、その子と妻が長年居住していたという事例で、その子が死亡したことにより、育ての親側(正確にはその相続人)が、
「子が死亡したことにより使用貸借は終了するから、その妻は建物から出ていくべきだ」
と主張して裁判を起こしたのです。
この事例で、裁判所は、貸主と借主のみならず、貸主と借主側の「家族」との関係を重視して、借主の死亡によっても使用貸借は終了しない、という判断をしました。
具体的には、
「民法599条は借主の死亡を使用貸借の終了原因としている。これは使用貸借関係が貸主と借主の特別な人的関係に基礎を置くものであることに由来する。」
「しかし、本件のように貸主と借主との間に実親子同然の関係があり、貸主が借主の家族と長年同居してきたような場合、貸主と借主の家族との間には、貸主と借主本人との間と同様の特別な人的関係があるというべきであるから、このような場合に民法599条は適用されないものと解するのが相当である。」
と述べて、借主の使用貸借は終了せず、借主の相続人に引き継がれる、と判断しました。
使用貸借は、契約書等存在することが極めて少なく、親子などの特別な人的関係によってなされるもので、その終期などがはっきり決められていないため、法律関係がかなり曖昧な事が多いです。
本件のように、法律の規定がそのまま形式的に当てはまらず例外も認められますので、使用貸借を巡って争いとなった場合には、過去の経緯から遡って人的関係を丁寧に主張していくことが肝要です。
2018年11月5日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。