弁護士コラム

遺産分割前に売却した不動産の代金は遺産分割の対象となるか

2018.11.06

【質問】

親が亡くなり、子ども3人(長男、次男、三男)が相続人でs。

親は遺産として不動産を所有していましたが、その不動産が遺産分割調停中に行政に収用されることとなりました。

そこで、とりあえずは長男が代表として収用の手続を行い、遺産不動産の処分代金が長男のもとに振り込まれました。

その代金について、次男と三男が、法定相続分の3分の1ずつを長男に払うよう求めたのですが、なぜか長男はこれを払ってきません。

 

遺産分割調停の中でこの不動産の代金についても分割するよう求めたいと考えていますが、可能でしょうか。

【説明】

遺産分割協議が成立する前に、不動産を処分する必要がある場合、相続人間の協議の仕方としては、

・不動産の一部分割の合意をして不動産の代金だけ分けてしまう

・相続人全員で、不動産の売却代金については遺産分割の対象とする合意をした上で売却する

という方法で行われることが通常です。

しかし、上記のような合意をせずに、遺産分割協議中(もしくは調停中)に、不動産の売却処分だけを進めて、相続人の誰か一人がその代金を受領・所持しているという状態となった場合に、その「処分代金」を遺産分割協議・調停・審判の対象として分けることができるか、ということが法律上問題となります。

この点について判断したのが、最高裁判所昭和54年2月22日判決です。

この判例は、

「共有持分権を有する共同相続人全員によつて他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものである」

と判断しました。

したがって、本件の事例で言えば、

①相続人間で、不動産の処分代金について遺産分割の対象に含めるという合意をしていれば、遺産分割協議・調停・審判の対象とすることができる

②合意をしていない、もしくは合意できなかった場合には、次男、三男はそれぞれ自己の法定相続分に相当する金額を、長男に対して請求し、それでも解決できなければ民事訴訟を提訴する(遺産分割協議・調停・審判とは別のラインの手続きとなる)

ということになります。

②の状況になってしまうと、別途民事訴訟などの手続をしなければならないという負担が生じますし、場合によっては遺産分割で考慮されるべき寄与分や特別受益等の主張ができなくなってしまう可能性もあります。

実務的には、上記のような合意なく遺産の売買を進めるケースは少ないと見られますが、合意せずに売買をしてしまった場合には、後々上記のような問題が生じてしまうということに留意すべきです。


2018年11月6日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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