特別受益について、民法903条1項は、
「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」
と規定しています。
この「特別受益」に該当するか否かを巡って多く争いとなるのは、生前贈与で「生計の資本として贈与を受けた」かどうかという点です。
この「生計の資本」とは、一般的には、相続人の居住用の不動産を購入・新築したときの費用援助、土地の贈与を受けたり、起業する際の資金援助、大学や留学のための学費の援助を受けたりした場合が該当します。
不動産の購入資金の援助などは、ある程度客観的な証拠で証明が可能ですが、「学費の援助」については、いろいろなパターンが有り、争いになることが多いです。
例えば、
1 兄弟のうち、一人だけが大学に進学した
2 兄弟のうち、一人だけが私立大学の医学部に進学した
3 兄弟のうち、公立学校と私立学校に通った者がいた
というような場合、それぞれの子どもが親から受けた学費の額もかなり異なってくるため、その差額について「生計の資本として贈与を受けた」として特別受益の主張がなされる場合もあるわけです。
上記のうち、2については、https://iryubun-bengoshi.jp/928(医学部に進学して多額の学費を援助してもらった場合、特別受益になるか)記事で解説しています。
また、上記のうち、3について、「特別受益とはならない」という判断をした裁判例があります。
それが大阪高等裁判所平成19年12月6日決定です。この決定は
「Aは,学費に関して,CとAらは,共に高等教育ではあるとしても,実際の教育出費には歴然たる差がある旨指摘するが,本件のように,被相続人の子供らが,大学や師範学校等,当時としては高等教育と評価できる教育を受けていく中で,子供の個人差その他の事情により,公立・私立等が分かれ,その費用に差が生じることがあるとしても,通常,親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので,遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般であり,仮に,特別受益と評価しうるとしても,特段の事情のない限り,被相続人の持戻し免除の意思が推定されるものというべきである。」
と判断し、公立・私立と別れ学費に差が生じたとしても、それは扶養の一内容であり、特別受益とはならない(仮になるとしても持戻免除の意思あり)と判断しました。
親が子どもの大学卒業まで、学費等の援助を行うことは、今の世の中では、親の子どもに対する「扶養」の一環としてある意味当然のようになされているものです。
したがって、この点について特別受益を主張する場合には、学費の額だけに着目して特別受益を主張するのではなく、それ以外の周辺事情も全て丁寧に拾い上げて「本当に不公平か」どうかを裁判所に理解してもらうよう主張・立証に努めることが重要です。
2018年11月18日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。