【質問】
父が亡くなりました。相続人は、長男である私と弟の二人です。
父が死亡したとき、金庫に500万円の現金がありましたので、とりあえず遺産管理人名義で預金を作成して、そこに入れて保管をしています。
弟とは、父の遺産分割を巡ってまだ協議が続いていますが、弟からは
「現金だった500万円については、協議成立前に半分(法定相続分)を払ってくれ」
と要求されています。
私としては、遺産分割の見通しを考え、遺産分割の成立までは弟には金銭を渡したくないと考えています。
金銭債権は、遺産分割協議を経ずとも当然に分割されるということを聞きましたが、現金についてはどうなるのでしょうか。
【説明】
遺産である財産については、法律上は相続人間で共有の状態となっています。
そのため、原則として、これを分ける(各相続人が処分できるようにする)ためには、相続人全員で協議して、その分け方や処分方法について合意しなければなりません。
そして、相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家裁が審判によってこれを定めるべき、ということとなります(最三小判昭62.9.4)。
一方で、上記のような協議や審判を経ずとも、「金銭債権」については、相続開始時において法定相続分割合に応じて各相続人に当然に分割される、とされています。
なお、以前は銀行の預金(これも銀行への払戻請求権という金銭債権とされています)も上記と同様に考えられていましたが、これについては最高裁平成28年12月19日決定で実務上の扱いが変更され、相続人全員の合意がなければ分割又は処分できないということになりました。
では、現金、すなわち金銭についてはどうなるのでしょうか。
「金銭債権」と同じと考えれば、遺産分割協議成立前でも法定相続分に従って分けるよう請求できるということになります。
そうでなければ、原則に従い、遺産分割協議や調停等での合意成立までは分けるよう請求ができない、ということになります。
どちらの扱いになるのでしょうか。
この点については、最高裁判所平成4年4月10日判決が以下のように指針を示しています。すなわり
「相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないと解するのが相当である。」
と判断しています。
したがって、遺産分割協議前に現金を分けるよう請求することはできない、ということになります。
これは、例えば、遺産たる現金が、その後誰か一人の相続人名義の預金口座に一時的に預け入れられていたとしても変わらないと考えられます(上記最高裁の事例でも、遺産たる現金を相続人が「●●遺産管理人〇〇」名義の通知預金としていました。)。
2019年4月21日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。