弁護士コラム

療養介護の寄与分について、介護保険に基づく報酬相当額を基準にした上で、一部修正して算定した裁判例

2019.08.26

【質問】

親が亡くなりました。相続人は私長男と次男の二人です。

私は親と同居していましたが、亡くなる4年前から認知症を発症して要介護認定(4〜5)を受けていました。

ただ、親が自宅での生活を望んだので、在宅介護することとして、訪問介護やデイサービスを利用しつつも、毎日の食事やトイレ、さらに痰の吸引などもはほとんど私が付きっきりで介護していました。

親が亡くなった後、次男と遺産分割の話し合いになりましたが、私の上記のような介護の貢献についてどのように評価すべきか、次男と話し合いがつかない状況です。

もし家庭裁判所の調停や審判となった場合、どのように評価されるのでしょうか。

【説明】

相続人のうちの誰か一人だけが親を介護していた、という場合、その介護の負担がとても大きかった場合には、他の兄弟に対して介護の負担を考慮して相続分を多く主張するということは実務上非常に多く見られます。

 

この主張は、法律上は「寄与分」として評価できるかどうか、という点が調停や審判では問題となります。

 

これについては、「寄与分」とそもそも評価されるかどうか、という問題は、こちらで説明していますが、かいつまんで言うと、親が重度の要介護状態で常時付き添いが必要な状態であるような場合で、子が介護サービスなどを利用せずに在宅で介護したり、もしくは介護サービスの費用を負担した場合には寄与分が認められます。

 

では、子が介護していた場合、寄与分というのはどの程度認められるのでしょうか。

 

これについては、色々な考え方がありますが、最近の調停・審判実務では、「介護保険の介護報酬基準に基づく1日の報酬額に、看護した日数をかけ、それに一定の修正をかける」という方法が取られていることが多いです。

 

この考え方に従って親族による療養看護の寄与分を算定したのが東京高等裁判所平成29年9月22日決定です。

本件は、この裁判例の事例をモチーフにしたものですが、この裁判例は、子による在宅介護の寄与分の算定について、概要として以下の判断を示しました。

 

1 寄与分の算定方法として、まずは要介護認定に応じた介護報酬被相続人の要介護度に対応する要介護認定等基準時間の訪問介護費に療養看護の日数を乗じる方法で算定する。

2 子が痰の吸引を行っていたことについては訪問介護費より高額な訪問看護費として算定されるべきものとする。

3 上記1,2を前提とし、さらに裁量的割合として、0.7を掛けた金額を寄与分として評価する。

 

まず、1について裁判所は、

「被相続人は,遅くとも平成21年●月●日から平成22年●月●日まで要介護4,同年●月●日から要介護5と認定されていたところ(認定事実ア),要介護度の認定がされている場合に,被相続人の要介護度に対応する要介護認定等基準時間の訪問介護費に療養看護の日数を乗じる方法は,要介護5の場合に,その介護時間を120分以上150分未満とみることも含めて,被相続人に対して看護又は介護の資格を有している者が介護するのに要する時間を算定する方法として,一定の合理性があるというべきである。」

と述べて、介護報酬基準に基づく算定方法によるべきことを示しました。

 

次に2について、子は、早朝や深夜も介護していたことを介護時間に含めて算定すべきと主張しましたが、これについて、裁判所は

「被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度の貢献は相続分自体において評価されているというべきであり,寄与分は,これを超える特別の貢献をした場合に,相続人の行為によって被相続人の財産が減少することが防止できた限度で認められるものであって,相続人が,被相続人の療養看護をした場合であっても,相続人が行った介護について被相続人に対する報酬請求権を認めるものではないから,相続人がした全ての介護行為について,被相続人が資格を有する第三者に介護を依頼した場合と全く同額の報酬相当額を寄与分として算定することは相当ではない。」

と判断して、その主張は認めませんでした。

 

3については、

被相続人と相続人との身分関係に基づいて通常期待されるような程度の貢献は相続分自体において評価されているというべきであるところ,抗告人は被相続人の子であって,抗告人がした介護等には,被相続人との身分関係に基づいて通常期待される部分も一定程度含まれていたとみるべきこと,抗告人は,被相続人所有の自宅に無償で居住し,その生活費は被相続人の預貯金で賄われていたこと,被相続人は,第三者による介護サービスも利用していたことからすれば,原審判が,第三者に介護を依頼した際に相当と認められる報酬額に裁量的割合として0.7を乗じて寄与分を算出したことが不当であるとはいえ」ない

と判断しました。

 

上記のような介護報酬基準を踏まえた寄与分の算定方法は、今後も調停・審判実務で採用される例は増えていくものと思われます。

なお、本件では、遺産総額が6607万2398円であったのに対し、最終的に寄与分の算定は、以下の通り759万3530円と算定されました。

寄与分は、遺産総額の概ね10〜20%、というのが一つの目安とも言われていますので、裁判所として上記目安も意識した上で金額を算定しているとも言えます。

「被相続人が要介護4の認定を受けていた期間における寄与分は,要介護4の介護報酬6670円に80日を乗じ,これに0.7を乗じた37万3520円になり,被相続人が要介護5の認定を受けていた期間における寄与分は,要介護5の介護報酬7500円に1176.5日を乗じ,これに0.7を乗じた617万6625円になる。

抗告人がした医療行為についての寄与分は,前記(4)ウで算出した149万0550円に裁量的割合である0.7を乗じると104万3385円になる。これらを合計すると,抗告人の寄与分は759万3530円と算定される。」


上記内容は2019年8月26日更新時点の情報に基づくものです。

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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