弁護士コラム

賃貸借契約が法定更新された場合に、従前の連帯保証契約には改正民法が適用されるか?

2023.07.06

保証契約における極度額の定めの必要性

2020年4月1日に施行された改正民法の465条の2第2項により、保証人が負うべき限度額(極度額)を定めなければ、保証契約は効力を生じないと規定されました。

*改正民法465条の2第2項

2.個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

したがって、改正民法が施行された2020年4月1日以降の賃貸借契約においては、保証契約が効力を生ずるためには、賃貸借契約書において保証人の負うべき極度額を「●円」とか「月額賃料の●ヶ月分」といった形で規定をしなければ、保証の効力が生じないということになります。

賃貸借契約が更新される場合の保証契約の継続の有無

当初の賃貸借契約と保証契約は改正民法施行日の2020年4月1日より前に締結され、契約書で保証人の極度額については規定していないという賃貸借契約は今もまだ多く存在すると思われます。

このような賃貸借契約において、

「改正民法施行日の2020年4月1日以降に、賃貸借の更新契約が締結された」

という場合に、保証契約の扱いはどうなるのでしょうか。

賃貸借契約が更新される場合、保証人との間で新たに更新の書面を取り交わすことはなく、賃借人との間で更新合意書等の書面を取り交わすことが一般的です。

このため、賃貸借の更新契約の締結の際に、保証人とも新たに保証契約をしなければ更新後は保証契約は効力を失ってしまうのか、という問題があります。

この点については、最高裁判所平成9年11月13日判決が、

原則として、改めて保証人と契約を締結しなくとも賃貸借契約更新後も保証人の責任は継続する

例外として、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情がある場合や、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合は保証人の責任は継続しない

と判断しています。

したがって、賃貸借契約の更新の際に、別途保証人と更新等の合意をしなくとも原則として保証人の責任も継続するということになります。

改正民法施行日の2020年4月1日以降に賃貸借契約を合意更新した場合の問題

では、話を戻して、2020年4月1日以降に賃貸借契約が更新された場合、更新前の賃貸借契約(保証契約)について、極度額の定めがされていなかったとしても、保証人の責任は継続するのでしょうか。

この問題は、

①賃貸借契約の更新の際に、保証人とも改めて保証契約の取り交わしをする

②賃貸借契約の更新の際に、保証人とは別途書面の取り交わしはしない

の2つの場合に分けて考える必要があります。

まず、①の場合は、改正民法施行後に新たな保証に関する合意があったといえるため、保証契約は改正民法の適用を受けることになります。

したがって、保証契約の更新において、極度額の定めをしなければ、保証は無効となってしまい、保証人の責任は継続しないということになります。

次に②の場合ですが、この場合、更新時に、新たに保証人と契約をしなくとも前述の最高裁判例の解釈に基づけば、当初の保証契約の責任の効力が、更新によっても失われずにそのまま継続するものと解されます。

そして、改正民法施行後に、保証契約に関し新たに合意をするものでもありませんので、改正民法の適用は受けず、極度額を別途定める必要もない、というのが法務省の見解のようです。

以上を踏まえると、改正民法施行後の賃貸借契約の更新において、保証人からも何かしらの書面にサインを貰う場合には、改正民法の規定を意識した対応が必要になることに注意が必要です。

改正民法施行日の2020年4月1日以降に賃貸借契約が法定更新された場合、保証人の責任は継続するか

上記は、賃貸借契約が「合意更新」された場合ですが、では、賃貸借契約が合意更新されず「法定更新」された場合はどうなるでしょうか。

この問題について判断したのが、東京地方裁判所令和3年4月23日判決の事案です。

この事案は、当初の賃貸借契約と連帯保証契約が改正民法施行日前に締結されていましたが、その後、改正民法施行日後の2020年11月13日に賃貸借契約が法定更新されたというものです。

この事案において、裁判所は

本件連帯保証契約は、改正民法の施行日(令和2年4月1日)よりも前に締結されたものであり、その後、本件賃貸借契約の更新に合わせて更新されることもなかったから、改正民法の適用がなく(平成29年法律第44号附則21条1項)、また、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情は認められない」

「連帯保証人において、各更新(平成30年11月4日付けの合意更新及び令和2年11月13日の法定更新)後の本件賃貸借契約から生ずる賃借人に債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたもの(このことは、本件賃貸借契約の19条1項が、連帯保証債務について「本契約が合意更新あるいは法定更新された場合も同様とする。」と定められていることにより裏付けられている。)と解するのが相当である。」

と述べて、改正民法の施行日以後に賃貸借契約が法定更新された場合も、原則として保証人の責任は従前と同様に継続するという判断をしました。

民法改正と、改正後の契約更新に伴う保証契約への改正民法の適用の問題については、法務省による資料で解説がされている問題ではありましたが、この点の判断を示す裁判例が乏しかったため、この問題に対する裁判所の考え方がわかる事例として参考になります。


この記事は2023年7月6日時点の情報に基づいて書かれています。

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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