弁護士コラム

遺産の一部分割を行った場合の、残余遺産の分割への影響

2020.04.19

【質問】

親が亡くなり、相続人は兄弟二人です。私は弟です。

遺産は預金が2000万円と親の実家の不動産のマンションが一戸(評価額は約2000万円)という状況です。

マンションについては、いつ売れるかわからないので、とりあえず預金についてだけ、兄弟で分けるということになりました。

兄が親と同居して面倒を見てくれていたので、私は預金は兄が全て相続するということで了承し、不動産については売れたお金を2分の1ずつの相続分で分ければよいと考え、預金については、兄が全て取得するという内容での遺産の一部分割を行いました。

 

しかし、その後、兄と不仲になりましたので、やっぱり法定相続分通りに分けるべきだと考えるようになりました。

法定相続分を考えれば、遺産の一部分割で兄が預金を全て取得したのですから、私はマンションの売却代金を全て取得するのが公平だと考えています。

このような話の進め方は可能でしょうか。

【説明】

遺産の一部分割については、例えば遺産が不動産や株など多岐にわたり全体の分割をするとなると時間がかかる場合や、一部の遺産の分割方法(不動産)についてだけ争いがあるものの、その他の遺産については特に争いがなく分けてしまうことが可能な場合などに、よく行われています。

しかし、遺産の一部を分割した場合、残余の遺産についてどのように分割すべきかという点について、しっかり決めておかないと、本件のように後々問題が生じることがあります。

遺産の一部分割と残余遺産への影響については

① 一部分割は残余の遺産分割に影響を与えない(一部分割の遺産は全く存在しないものとして残余の遺産分割を行う)

② 一部分割した遺産と残余の遺産をトータルで計算して、各相続人が法定相続分(もしくは合意した相続分)を取得できるよう残余の遺産分割を行う

の2つのパターンが考えられるところであり、一部分割を行う場合は、上記のいずれかを行うかを一部分割協議書に明記しておくことが肝要です。

もし、上記のいずれかで行うかが明記されていなかった場合(もしくは明示的に合意されていなかった場合)に、どちらと解釈すべきかは問題となります。

この点について、判断したのが東京家庭裁判所昭和47年11月15日審判です。

この審判例では、遺産の一部分割が行われる場合というのは、原則として上記②(一部分割した遺産と残余の遺産をトータルで計算して、各相続人が法定相続分(もしくは合意した相続分)を取得できるよう残余の遺産分割を行う)と解釈するのが合理的であって、特段の事情がある場合には、一部分割された遺産を除外して残余の遺産分割を行うべきと判断しています(以下審判要旨です)。

「残余財産の分割において、遺産全体の総合的配分の公平を実現するために、残余遺産についてのみ法定相続分に従つた分割で足りるか、一部分割における不均衡を残余遺産の分配において修正し、遺産全部について法定相続分に従う分割を行なうべきかが問題となる」。

「この点については一部分割の際の当事者の意思表示の解釈により定まり、共同相続人が一部分割の不均衡をそのままにし、すなわち一部分割における自己の法定相続分に不足する部分については各当事者が持分放棄あるいは譲渡の意思で一部分割を行なうときは、残余遺産につき前者の方法によることを承認したものとみられる」

「このような特段の意思表示のないときは、残余遺産につき後者の方法によることを承認したものと推認すべきものと解される。」

以上を踏まえると、本件設例では、弟が、兄に対して「預金は一部分割後に遺産分割から除外して、後の不動産を法定相続分で分割する」という意思を明示していた場合は、弟は前言を翻して主張することは難しいと言えます。

いずれにしても、遺産の一部分割を行う場合は、残余の遺産分割との関係を協議書等でしっかりと明記しておくことが重要です。


この記事は2020年4月19日時点の情報に基づいて書かれています。

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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