弁護士コラム

遺産分割協議成立後に、新たに発見された遺産について、法定相続分で分割すべきとした事例

2020.08.17

【設例:次男からの質問】

父親が亡くなりました。相続人は長男と次男である私の二人です。

父の遺産は、農地(相続税評価額で3000万円程度)と現金200万円ほどです。

話し合いの結果、長男が農地を相続し、私が現金200万円を相続することとなりました。

このときは、この分け方で仕方ないと考え私も納得していたのですが、その後父の預金として新たに1300万円の預金があることが判明しました。

 

従前の分割協議のときは、長男が相続税評価額でも3000万円になる農地を相続し、私は200万円ほどしか相続できず不衡平な分割協議でした。

ですので、新たに発見されたこの預金1300万円については、私が全て取得すべきと考えています。

私の主張は認められますか。

【説明】

本件のように、遺産の分割協議後が成立した後に、新たに遺産が発見された場合、新たに発見された遺産の分割について、

①法定相続分で分割すべき

②従前の遺産分割における不均衡を、新たに発見された遺産の分配において修正し、遺産全部について法定相続分に従った分割をすべき

のいずれが妥当かが問題となります。

この問題の考え方については

「先行する遺産分割協議の際の当事者の意思表示の解釈により定まる」

と言うのが、裁判実務での考え方となっています。

例えば、先行する遺産分割協議において、協議書に「新たに発見された遺産については、法定相続分で分割する」と記載されていれば、当事者の意思は明確になっていると解釈されます。

他方で、協議書に上記のような条項が入っていなかった場合には、遺産分割協議の当事者のやりとりや、遺産分割協議の内容を踏まえて、当事者の意思が果たしてどちらだったのかが解釈されることとなります。

本件の事例は、大阪高等裁判所令和元年7月17日決定の事例をモチーフにしたもの(なお、この事例では相続人は長男・次男の他に、母親もいました)です。

この事例では、協議書には、新たに発見された遺産の扱いについては特に明記されていなかったのですが、裁判所は、以下のように述べて、新たに発見された遺産については、先行の遺産分割協議の内容に影響されず、法定相続分で分割すべき、と判断しました。

「一件記録によれば,先行協議の対象となった被相続人の遺産には,不動産のほか,現金や預貯金もあったところ,相手方は,現金や預貯金は取得せず,本件各土地と農耕具などを取得し,抗告人は現金200万円のみを取得しているのに対して,」「相互に代償金の支払を定めることもなく遺産分割協議が成立していることが認められることからすると,先行協議の当事者は,各相続人の取得する遺産の価額に差異があったとしても,そのことを是認していたものというべきである。」

「そうすると,先行協議の際に判明していた遺産の範囲においては,遺産分割として完結しており,その後の清算は予定されていなかったというべきである」

本件は、結果的に後で新たな遺産が判明したという事例ですが、この問題は、遺産の一部分割をした後の残余の遺産の分割方法の問題として議論されているところです。

相続法の改正により、遺産の一部分割が定められましたが、一部分割後の残余遺産の分割方法については明確に規定がされていないため、当事者の意思解釈に委ねざるを得ません。したがって、遺産の一部分割をする際には、どのような各人がどのような意思で一部分割をしたのか、協議書等で明確にしておくことが望ましいです。

【民法:907条】

1.共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2.遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3.前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。


この記事は2020年8月17日時点の情報に基づいて書かれています。

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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