弁護士コラム

遺産の土地・建物について誰が取得するのか話し合いがまとまらなかった場合はどうなるか?

2015.11.27

Q 遺産として土地がありますが、相続人が5人いて相続人の誰が土地を取得するか話がまとまりません。また、誰もこの土地を欲しいという者もいません。

この場合、この土地はどのように遺産分割すべきでしょうか。

A 土地を競売にかけた上で、売れた代金を分けるという方法になります(換価分割)

遺産を分ける方法はいくつかありますが、原則的な方法は「現物分割」(まさにそのものを分ける)となります。

しかし、土地などの不動産の場合には、現物分割の方法に従ってそのまま法定相続分で土地を分けると、土地が細分化するなどして土地の利用価値がなくなる場合がほとんどです。

したがって、一般的な宅地が遺産の場合にはこの方法によることは出来ません。

そこで、次に考慮される方法としては、「代償分割」というものになります。

これは、誰かが土地を相続することと引き換えに、土地を相続しない相続人に対して法定相続分に相当する土地の価値相当額(代償金)を支払うという方法が検討されます。

しかし、誰も土地を欲しない場合や、そもそも代償金を支払えるような相続人がいない場合、最終的な手段として「換価分割」という方法になります。この方法は、不動産を競売にかけて、その競売代金を相続分に従って分割するという方法です。

もっとも、換価分割はあくまでも最終的な手段ですので、裁判所も簡単にはその方法での分割は認めないようです。

「現物分割」や「代償分割」が本当に不可能なのか、換価分割が本当にやむを得ないものなのかどうかを慎重に審理する傾向があります(仙台高決平成5年7月21日)。

現物分割も代償分割もできないような場合は、通常は、遺産分割調停の中で相続人間で不動産を仲介業者に委託して売却してもらいその売却代金を分割する旨の合意をし、その後に任意売却してその代金を分けるという方法がとられます。

競売にかけるよりも業者を通じた任意売却の方が売買代金も高くなりますので通常はこのような方向での話し合いがなされます。

しかし、不動産以外の遺産の分割で話し合い全てがこじれてしまったり、辺鄙な土地等で業者に委託してもなかなか売れないような不動産の場合には、やむを得ずに換価分割の方法をとり、不動産を競売にかけて不動産を処分するということになるのです。


【判旨:仙台高等裁判所平成5年7月21日決定】

「本件遺産につき、現物分割をすることが不可能であるとしても、直ちに、競売によりその代金を分割する方法を取ることは相当でない。」

「本件遺産につき、これを相続人のうちの特定の者(1人とは限らない。)に取得させて、取得者が債務を負担する方法をとることが可能であれば、競売による換価分割よりも望ましい方法であることは明らかである。ところが、原裁判所は、・・・抗告人ら及び相手方には本件遺産を取得する資力(分割支払い能力も含まれる。)を有する者はいないと認定して、債務負担の方法による遺産分割を否定しているが、相手方及び抗告人らに本件遺産を取得する資力を有する者はいないと認定するに足る充分な資料は一件記録からは明らかでない。」

「したがって、本件建物1の所有者である相手方及び抗告人甲野一郎、本件建物2の所有者である抗告人甲野三郎が本件宅地を利用している法律関係、本件遺産につき、これを相続人のうちの特定の者が取得して、取得者が債務を負担する方法が可能であるか否かにつき原裁判所は審理を尽くしていないというべきであり、これらの点につきなお審理を尽くさせる必要がある。」


2015年11月30日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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