Q 妻が他の男性と不倫をして、子どもを連れて家を出ていきました。
今も別居状態で、妻は子どもと二人で生活しています。
離婚の話がまとまらないうちに、妻から婚姻費用の請求がなされました。この場合、私は妻に生活費を支払わなければならないのでしょうか?
A 妻の生活費相当部分の請求は認められませんが、子どもの養育費に相当する部分については、請求は認められる場合があります。
夫婦間が不仲になり、妻もしくは夫が家を出て別居状態となり、もはや復縁の余地もないような場合であっても、離婚していない限りは、夫婦間で互いに生活費を分担する義務、すなわち、収入の多い配偶者(一般的には夫)が、収入の少ない配偶者の生活費を負担する義務があります。
これは、民法で扶助義務(752条)と婚姻費用分担義務(760条)が定められていることから生じるものです。
したがって、別居状態となった夫婦間で、離婚の協議が進まない場合には、一般的には収入の少ない妻の方から夫に対して生活費の支払いを請求するというのが一般的です。
しかし、今回のケースのように、別居の原因、夫婦関係悪化の原因を作った者から相手方に対して婚姻費用の請求をした場合、それは「権利を濫用するもの」として認められないというのが裁判実務の傾向です。自らが別居の原因を作っておきながら離婚せずに生活費だけ請求できるというのは明らかに不公平ですので、当然といえば当然の話です。
基本的には請求自体認められないという裁判例が多いですが、事案の悪質性(有責性)などを考慮して、全額請求は認められないが最低生活を維持する限度の生活費の請求は許されるとした事例(札幌高判昭50.6.30、名古屋高金沢支判昭59.2.13)もあります。
しかし、仮に今回のケースのように妻が不倫をして家を出たというように、妻が別居及び夫婦関係破綻の原因を作ったとしても、そのことについては子どもには全く責任はありません。
したがって、今回のようなケースで妻から婚姻費用の請求をした場合、妻の生活費相当部分は請求は認められませんが、子どもの養育費に相当する部分については請求は認められるという裁判例があります(東京家裁平成20年7月31日審判)。
親の不始末について子どもには全く責任はありませんから、これは至極当然のことでしょう。
【判旨:東京家庭裁判所平成20年7月31日審判】
「以上によれば、別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというべきところ、申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって、このような場合にあっては、申立人は、自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず、ただ同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。」
2015年11月30日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。