Q 夫と離婚することになり、現在小学生の子どもは私が引き取り親権者になることとなりました。
現在夫と養育費について話合いをしていますが、夫は
「児童手当をもらえるんだから、その分養育費を減らせ。」
と言って聞きません。
このような夫の主張は認められるのでしょうか。
A 児童手当の分は養育費の算定にあたっては考慮されません。
夫婦が離婚した後、子どもを養育することになる者は、もとの配偶者に対して養育費を支払うよう請求できます。
養育費の金額は、裁判所の研究会が作成した「養育費算定表」というものを使って、双方の年収の数字から機械的に算出するというのが現在の家庭裁判所の実務です。
その金額については、どちらかが企業の役員であるなど相当の高収入でない限りは、子ども一人につきおおよそ5万円前後という金額になることが多いです(あるスポーツ選手の離婚の時は、養育費が月額500万円とか言われてましたが何とも夢の様な数字です。)。
この金額を高いと思うか、安いと思うかは人それぞれかと思いますが、この金額を決めるときによく出てくる主張が「児童手当の金額は考慮されないのか」というものです。
養育費を支払わなければならない側(一般的には夫が多い)は、月の支払を1万円でも2万円でも減らしたいがために「妻は子ども2人分の児童手当で、月~万円ももらっているんだから、その分は差し引くべきだ!」と主張することがあります。
このような主張が実際に裁判で争われましたが、結果的には認められませんでした。
広島高等裁判所平成22年6月24日判決は、上記のような夫の主張を認めなかった理由として
「子ども手当については、子育てを未来への投資として、次代を担う子どもの育ちを個人や家族のみの問題とするのではなく、社会全体で応援するという観点から実施するものであると説明されている」
と述べました。
要するに、子ども手当というのは、社会全体で子育てを応援するものなのだから、養育費のような夫婦間の問題とは次元が違うので一緒くたに考えるべきではない、ということのようです。
この判決が出された当時は、子ども手当は月2万6000円になることが予定されていましたし、収入要件もありませんでした。
しかし、今や「子ども手当」という名称すら変わり、金額やら収入要件やら色々と随分違う形になってしまいましたが、「子育てを社会全体で応援する」という根本的な思想は変わっていないように思いますので、今後もこの判決の考え方は維持されていくものと思われます。
2015年11月30日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。