弁護士コラム

別居中の妻に対する生活費の支払と、親に対する扶養料の支払のどちらを優先できるか

2015.12.07

Q 妻が離婚すると言って家を出てしまいました。

その後、離婚の話合いは難航して長引いており、その間、妻からは「離婚するまでは生活費を支払え」という請求を受けています。

しかし、私には生活に困窮している母がいて、母に仕送りをしているので、別居中の妻に払える生活費などありませんので払えません。

母への援助を優先させることはできないのでしょうか。

A 妻への生活費の支払いが優先されます。

一昔前、親の扶養が十分可能な収入なのに親に生活保護を受給させていた、という芸能人のニュースが世間を賑わせていました。

このニュースによって、民法上の親に対する扶養義務、というものがクローズアップされています。

この扶養義務の問題と、別居中の配偶者への生活費(婚姻費用)の支払いが交差する問題があります。

上記のような夫の言い分は法律上認められるのでしょうか。

この夫の言い分は原則として認められない、と判断したのが、大阪高等裁判所昭和62年1月12日判決です。

なぜかというと、妻や子供に対して夫が負うべき扶養義務というのは「生活保持義務」というものです。これは、夫自身の収入と見合い、かつ自己の生活程度と同程度の生活を妻や子供にも保障すべき義務と言われています。

要するに、法律上は、夫は、自分の生活レベルと同程度の生活を、妻と子どもにも保障しなさい、と言うことになります。

他方で、親に対する扶養義務というものは、「生活扶助義務」というものです。これは、子が(妻子のそれを含めて)社会的地位相応の生活をおくった上で、なお余裕があれば、その限度で最低限の金銭的援助をすれば足りるものと言われています。

したがって、夫としては、まず第一に妻と子供に自分と同程度の生活を保障した上で、余裕があれば、親の面倒を見て良い、というのが法律の建前なのです。

もっとも、以上はあくまでも原則であり、例えば、夫婦の別居前から親と世帯を同じくして生活の面倒をみていた、という場合には、親に対する扶養義務と、妻と子供に対する扶養義務は同列となります。


【判旨:大阪高等裁判所昭和62年1月12日判決】

「民法七六〇条の「婚姻から生ずる費用」とは夫婦が共同生活を維持することにより生ずる一切の費用をいい、この婚姻費用分担義務は夫婦の一方が他方及び未成熟子の最低生活を維持すればよいというものではなく、いわゆる生活保持の義務として、他方及び未成熟子の生活を自己と同一程度において保障すべき性質をもつものである。」

「したがつて、夫はまずもつて妻子に対し自身の収入と見合いかつ自己の生活程度と同程度の生活を保障すべきであるから、両親の生活扶助に関し夫婦の別居前から世帯を同じくし生活保持の義務に準ずべきものとなつていたなど特段の事情がない限り、自分がその社会的地位、職業にほぼふさわしい生活程度を維持しうる限度で扶養すれば足りる親に対する生活扶助の義務よりも優先して妻子の婚姻費用を分担すべきである。」


2015年11月30日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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