弁護士コラム

別居中の妻の住む家の住宅ローンを夫が支払っている場合、妻への婚姻費用を減らすことはできるか?

2015.12.07

Q 夫と不仲になり、夫は一人家を出て今は賃貸アパートに住んでいます。私は自宅に残っていますが、自宅は住宅ローンを組んで買ったマンションで、住宅ローンの名義人は夫なので、今も夫がローンを全額払っています。

夫からは離婚を求められていますが、協議がなかなか進まず、また、生活費も支払ってくれないので、私から婚姻費用分担請求をしています。家庭裁判所で用いられている「算定表」というものによると、夫が私に支払うべき標準的な婚姻費用は6万円程度とのことです。

しかし、夫は、

「自分は妻の住む家の住宅ローンで月10万円を払っており、妻は住宅費を全く負担していないのだから、これ以上妻に払うべき生活費はない。」と主張しています。

このような夫の言い分は正しいのでしょうか?

A 住宅ローンの全額を差し引くことは認められませんが、一部減額される場合もあります。

この問題は、実務上の取り扱いがまだ確立しておらず、ケースによって様々な考え方が示されています。

もっとも、確実に言えることは、

「住宅ローンで払っている金額全額が生活費の支払いとして認められることは無い」

ということです。

何故かと言うと、住宅ローンを支払い続けることによって、最終的には住宅の取得ができることになりますので、その支払いは、謂わば「資産を形成するための支払い」というべきものです。

賃貸住宅の家賃のように、払う一方で財産として残らない、というものとは意味合いが異なるからです。

したがって、このような住宅ローンの支払いについては、生活費の支払い(婚姻費用の分担)で考慮するのではなく、離婚の際の夫婦の財産分与において考慮すべき、という考え方が原則とされています。

しかし、妻が働いていて収入もあるような場合においては、夫が自分の賃貸住宅の家賃の支払いと、妻の住む家の住宅ローンの支払いの二重払いの状態を長く余儀なくされることは、夫にとっては大変酷ですし、他方で妻が収入がありながら住居費を全く払わないで住むことを認めるということは、公平を欠くとも言えます。

そこで、妻が無職ではなく働いていて収入があるような場合には、妻が全く住居費を払っていない、ということを婚姻費用の算定にあたって考慮すべきとするケースが多いです。

この場合の一つの考え方は、妻の収入に対応する平均的な住居関係費を、標準的婚姻費用相当額から差し引くという考え方です。

具体的には、家計調査年表等から、その人の属性や年収に対応する平均的な住居費というものを割り出し、その金額を標準的な婚姻費用相当額から差し引くというものです(大阪高等裁判所平成21年11月26日決定等)。

例えば、双方の年収から算出される標準的な婚姻費用相当額が6万円となる場合に、妻の年収から割り出される平均的な住居関係費が3万円である場合は、夫が妻に支払うべき婚姻費用は、6万円から3万円を引いた月額3万円ということになります。

他にも色々な考え方が裁判例において提唱されていますが、いずれにしても、

「住宅ローンとして支払っている金額を全て差し引ける」

という考え方は認められる可能性は低いです。

この点については、離婚相談をしていても一般的に誤解が多いように感じられます。

特に、住宅ローンを払っている夫側は、このような裁判実務の考え方に不満を持つことが多く、夫、妻どちらの側についても、弁護士として折衝に苦労することが多々あります。

以上を踏まえますと、ただひとつ言えることは、

自分が住宅ローンを払っている家から出て行くことは、相当の経済的リスクがある

ということですので、別居する場合には相当の覚悟を持っておくべきでしょう。


2015年11月30日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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