弁護士コラム

相手が同性愛者であることを理由に離婚できる?

2015.12.07

Q 夫とは結婚してから4ヶ月ほどの間は性生活がありました。

しかし、4ヶ月を過ぎてから、夫から求めてくることもなくなり、また、私から求めても乗り気ではない態度を示すようになり、以後はセックスレスとなりました。

このような夫の態度が不満ではありましたが、子どもを授かったので、夫の態度に不満を抱きながらも結婚生活を続けていました。

しかし、結婚してから5年ほど経ったある日、警察官からの知らせで、なんと夫が3年前から他の男性と同性愛の関係にあり、しかも、その男性に振られた後も未練がありストーカーのようにつきまとうなどしていた、ということが発覚したのです。

私は、心の底からショックを受け、その日のうちに子どもを連れて実家に帰りました。もう夫の顔も見たくありません。

夫とは離婚できるでしょうか?

A 同性愛が原因で、夫婦関係が修復不可能な程度に至った場合は離婚が認められます。

上記の事案は、名古屋地裁昭和47年2月29日判決の事案とほぼ同じです。

この事案で、裁判所は妻からの離婚の訴えを認めると共に、精神的苦痛に対する慰謝料として150万円を認めました

妻の心情やショックを考えれば、この事案の結論としては妥当でしょう。

しかし、法律的には複雑な問題をはらんでいます。

同性愛、すなわち夫が「男性」と恋愛するということがは「不貞行為」すなわち「不倫」に該当するのか、という問題があります。

法律的に離婚原因として定められている「不貞行為」とは、「自由な意思に基いて配偶者以外の異性と性交渉を行うこと」とされています。

となると、同性愛者との交際は「異性」との性交渉ではないので、形式的には不貞行為には該当しないことになります。

そのため、この判決は、同性愛者との交際が不貞行為である、とは認定せず、

「妻がすでに、数年間にわたり夫との間の正常な性生活から遠ざけられていることや、妻が夫と相手の男性との間の同性愛の関係を知ったことによって受けた衝撃の大きさを考えると、相互の努力によって夫婦間に正常な婚姻関係を取り戻すことはまず不可能と認められる」

と認定し、いわゆる「婚姻を継続しがたい重大な事由がある」という理由で離婚を認めています。

また、そもそも、同性愛者という「性向」自体が夫婦関係にとって悪なのかどうかという問題もあります。

例えば、結婚した後で、夫が過去に同性愛者であったことが発覚した場合、たとえ現在はもう他の同性と交際をしていなかったとしても、同性愛者であったことを理由に離婚を求めることができるのかという問題もあります。

この点について、この判決は

「夫は、性的に異常な性格を有していることが明らかである。もっとも、それがいかなる程度のものであるかは明らかでなく、場合によっては、被告自身の努力と適確な医学的措置によって矯正することも可能なのではないかとも考えられる。」

と述べています。

上記のような判決の言いっぷりからすれば、

同性愛者であることは異常な性格であり、それが医学的に矯正できない程度の場合には、「同性愛者であること」を理由に離婚が認められる

とも受け取れます。

ただし、この判決は今から40年以上前の判決です。
性に関する価値観も今は変わってきており、今の時代では通用しない考え方かもしれませんので、あくまでも一つの参考事例として捉えた方が良いでしょう。


2015年11月30日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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