弁護士コラム

DNA鑑定で父子関係がないことが明らかになった場合、どうすればよいか?

2015.12.07

Q 妻と結婚し、その後子どもが産まれました。

しかし、子どもが10歳になった頃、妻が長年不倫していたことが発覚し、離婚することになりました。

妻は私と結婚した直後くらいから、他の男性と関係を持っていたようなので、子どもが本当に私の子どもなのかDNA鑑定をしたところ、父子関係はないという結果が出ました。

色々と考えるところはありますが、子どもとの親子関係は切りたいと考えています。どうすれば良いでしょうか。

A 嫡出否認の訴えや親子関係不存在確認の訴えを起こす必要がある、というのが従来の考え方でしたが、平成26年7月17日に最高裁判所の判例により、DNA鑑定の結果如何によっても、訴えが認められないとの判断が示されました。

親子関係というものは、基本的には生物学上の関係を前提とするものですので、DNA鑑定によって父子関係が存在しないことが科学的に判明した場合には、父子関係は存在しないことになります。

しかし、そのままにしておいても、法律上(戸籍上)は、父子関係はそのまま存在することになりますので、これを削除するためには別途法的手続が必要になります。

その手続は、大別すると

①嫡出否認の訴え

②親子関係不存在確認訴訟

の2つです。

夫婦が婚姻した後に産まれた子どもは夫の子として推定され、原則として父子関係が発生します(もっと正確に言うと、婚姻後200日後に産まれた子、または離婚後300日以内に産まれた子が夫の子として推定されます。)。

このような子に対して、父親が

「この子とは父子関係はない。」

と主張して法的手続をするためには、①嫡出否認の訴えというものを裁判所に提起する必要があります。

しかし、この嫡出否認の訴えというものは、訴えを起こせる期間が制限されており

「子の出生を知った時から1年」

とされています。

このような訴えを無制限に認めてしまうと、子どもの身分が不安定に晒される期間が長期間になるおそれがあるからです。

したがって、結婚して、子どもが産まれてから数年後にDNA鑑定などで父子関係がないことがわかったとしても、上記の1年間という期間を経過してしまっているため、原則として嫡出否認の訴えを起こすことができません。

ちなみに、②の親子関係不存在確認の訴えというものは、上記のような嫡出子として推定される子(婚姻後200日後に産まれた子、または離婚後300日以内に産まれた子)との父子関係を否定するためには使えません。

②の親子関係不存在確認の訴えというものは、妻が夫の子を懐胎することが不可能な事情が客観的に明白な場合(長期別居中に産まれた子だったり、夫が刑務所にいる間に産まれた子といった場合)にのみ可能です。

となると、本件では、DNA鑑定によって生物学上は父子関係がないことが明らかになったとしても、法律上は父子関係を否定することはできないということになってしまうのでしょうか。

このような法の不都合を克服するために

「子の出生を知った時から1年」

という期間制限については、

「自分の子ではないとわかった時から1年」

と緩く解釈し、DNA鑑定の結果などで、父子関係が存在しないことが明らかになった場合には、その時点から1年間は訴えを起こせるようにすべきだ、という考え方も提唱されています。

そのような取扱いを認めた裁判例もあるようですが、裁判実務上確固たる基準となっているわけではありませんでした。

そうしたところ、平成26年7月17日、最高裁判所において、

「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、夫と妻が既に離婚して別居し、子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である 」

という判断が示され、下級審では判断が分かれていたこの問題にピリオドを打ちました。

したがいまして、本件においては、後にDNA鑑定の結果で父子関係が0%と証明されても、法律上の父子関係は削除されないということとなります。


2015年11月30日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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