遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が相続できることが保障されている最低限の持分・相続分のことをいいます。
そのため、被相続人の生前に、相続人との関係がどんなに疎遠であっても権利行使が認められるというのが原則です。
しかし、被相続人の生前に、相続人間で遺留分の放棄について合意に達していたような場合には、ごく例外的に、遺留分減殺請求権の行使が権利の濫用とされる場合があります。
東京高裁平成4年2月24日判決や、東京地裁平成11年8月27日判決において、被相続人の生前に相続人間で遺留分の放棄について合意していたものの、家庭裁判所に遺留分放棄の手続をせず、その後、相続発生後に遺留分の放棄に合意していた相続人が翻って遺留分の請求をした、という事案において、いずれも権利の濫用により遺留分減殺請求を認めませんでした。
すなわち
「遺留分減殺請求権も私法上の権利であるから、民法の一般原則に従い、信義に従い誠実にそれを行使することを要し、その濫用が許されないことは当然である。」
ということになります。
上記東京地裁の裁判例においては、
①遺留分の事前放棄の合意が地方裁判所の裁判官の主宰する和解手続においてなされたこと
②遺留分又はそれを超えるような財産の取得との対価関係において遺留分放棄が合意されていたこと
という事情を重視し
③単に家庭裁判所の許可がされていないという形式的な理由のみから、遺留分減殺請求を認めてしまうことは正義、公平の見地から問題である
として、遺留分減殺請求を権利の濫用と判断しました。
もっとも、上記考え方については、
・遺留分減殺請求権を信義誠実に行使すべきであるとして権利濫用は認めることが多くなると、遺留分減殺請求権の制度自体が意味がなくなり、共同相続人間の公平さを失うことになるという批判
・遺留分の事前放棄について安易に家庭裁判所の許可を不要とするような結果を導くことはできないという批判
もあります。
以上を踏まえますと、遺留分減殺請求権の行使が権利濫用と評価される場合というのは、極めて例外的事例と考えるべきですので、遺留分の放棄を検討する事案においては、基本的には遺留分の事前放棄の家庭裁判所の許可を得るよう努めるべきということとなります。
東京地裁平成11年8月27日判決
「本件和解により、亡信夫は、土地に関しては、四分の一の持分、即ち、亡義之介の相続によって得られる持分のみならず、亡キヨが死亡した際の相続によって得られる持分もあわせて取得しているところであり、それゆえにこそ、亡信夫は本件条項により、「亡信夫は、将来、亡キヨから受ける相続分に相当する財産を既に取得することを認める。」旨確認しているところである。そして、これに引き続いて、亡信夫は、「将来相続分及び遺留分を請求しないことを約束する。」と規定しているところである。本件条項がその重要性からして、単なる例文などではないことは明白である。
2そして、本件において亡信夫の包括承継人である原告らが、家庭裁判所の許可の手続が履践されていないことを奇貨として、遺留分を行使することを認めるならば、本件和解の合意に反し、原告らに二重取りを許すことになり、著しく信義に反することになる。」
2016年2月1日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。