Q 私は、父の生前、父の所有名義の土地上に私名義の建物を建てて、父と同居していました。
しかし、その後父と不仲になり、父は家から出て行ってしまいました。
父の死後に、私の家が建っている父名義の土地について、私の弟に相続させるという遺言書が遺されていました。
父の遺産は、土地が大半ですので、父の遺言書により私の遺留分が侵害されており、弟に対して遺留分減殺請求をしました。
すると、弟は
・兄は父の土地を無償で使用していたのであり、その賃料相当額の利益(贈与)を受けている
・父の土地を無償で使用していることについて使用貸借が成立しているから、使用貸借権相当の贈与を受けている
・したがって、遺留分相当額の利益(贈与)を受けており、遺留分は無い
と反論しています。
弟の主張は正しいのでしょうか。
A 使用貸借権が成立している場合、更地価格の15%前後の価格について贈与がされたと評価されます。
被相続人の子どもが、被相続人の生前に、その土地上に自分の名義の建物を建てて同居する、ということはよく見られる事例です。
そして、このような事例では、被相続人の死亡後に、遺産である土地の価値、その使用関係をめぐって紛争になることが多いというのも実情です。
すなわち、被相続人が生前に相続人に被相続人の土地上に相続人所有の建物を所有することを容認し,無償で一定期間使用させているような場合に,相続人の得た利益をどのように評価するのが相当かということが問題となります。
具体的に言えば、
① 子どもが親の土地を長年無償で使用していたことの利益(賃料相当額)が生前贈与として特別受益になるのではないか。
② 使用貸借が成立していることにより、使用貸借権相当額の利益の贈与を受けているのではないか。
という点を巡って問題となります。
本件は、東京地裁平成15年11月17日判決の事例をモチーフにした事例ですが、東京地裁は、
① 賃料相当額は使用貸借権から派生するものであり、贈与として認められない。
② 使用貸借権の成立については、更地価格の15%を使用貸借権の価格とし、同価格については贈与がなされたものと認められる。
と判断しました。
すなわち、東京地裁は、
「遺留分侵害額算定に当たり,本件土地の使用貸借権の価値をどのように評価するのが相当であるかということが問題となる。」
「この点について,被告は,使用期間中の賃料相当額及び使用貸借権価格をもって本件土地の使用貸借権の価値と評価すべきであると主張する。」
「しかし,使用期間中の使用による利益は,使用貸借権から派生するものといえ,使用貸借権の価格の中に織り込まれていると見るのが相当であり,使用貸借権のほかに更に使用料まで加算することには疑問があり,採用することができない。」
「したがって,原告が太郎から受けた利益は本件土地の使用貸借権の価値と解するのが相当である。」
と述べて、賃料相当額については利益性を否定しました。
そして、使用貸借権の価値については、
「鑑定の結果によれば,」「取引事例比較法に基づく比準価格及び収益還元法に基づく収益価格を関連付け,更に基準値価格を規準として求めた価格(規準価格)との均衡に留意の上」「本件土地の更地価格を算出し,これに15%を乗じた価格」「をもって本件土地の使用貸借権価格としているが,その算出経過には不自然,不合理な点は認められない。」
と述べて、更地価格の15%相当額であると評価しています。
上記の通り、本件判決は、使用貸借権相当額を、更地価格の15%と評価しましたが、他の裁判例等(東京高決平9.6.26)では、更地価格の30%と評価した事例もあり、概ね10〜30%の間で評価される傾向があると考えられます。
遺産分割調停・遺留分減殺請求調停・訴訟等に当たっていると、
「親の不動産を無償で長年使用していたのだから、その賃料相当額の利益は特別受益となるはずだ」
という主張は、とても多く目にするところです。
しかしながら、裁判実務の傾向に照らせば上記の主張が認められることは困難である、ということは留意する必要があります。
2016年2月23日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。