【質問:賃貸マンションのオーナーから】
私の所有する賃貸マンションの賃借人から、「日照に不満がある」とのクレームがあり、その直後、一ヶ月分の賃料の支払いがありませんでした。
そこで、管理会社に依頼して、その賃借人に電話をかけたり部屋まで訪問してもらいましたが返答がありませんでした。
そのため、管理会社の人が、賃借人の部屋のドアの前に、滞納家賃を催告し期限までに支払がない場合には賃貸借契約を解除し鍵を交換する旨の貼り紙を貼り付けました。
その後も連絡がなかったため、その二日後に賃借人宅を訪問しましたが、やはり返答がなかったので、再度同じ内容の張り紙をしました。
そうしたところ、賃借人から、「この張り紙のせいで名誉を毀損された」と言われ、慰謝料請求の訴訟を起こされてしまいました。
ドアの前に張り紙をすることは許されなかったのでしょうか。
【説明】
本件は東京地裁平成26年9月11日に事例をモチーフにしたものです。
この事例で、裁判所は、
「本件貸室のドアに滞納家賃を催告し期限までに支払がない場合には賃貸借契約を解除し鍵を交換する旨の貼り紙を2回貼付したものであるが,これらは原告の名誉を毀損する内容のものであることは明らかである」
「これらの行為は,管理会社の担当者が原告に対し連絡が取れない状況にあったことを考慮してもなお,1か月分の滞納賃料の督促の方法として社会通念上相当性を欠く違法なものである」
と認定し、慰謝料として3万円の支払いを賃貸人に命じました。
電話や訪問をしても返答がなかったとのことなので、賃貸人側には酷のようにも思われるのですが、それで裁判所がこのような判断をした理由としては、「賃料1ヶ月分」の滞納しか生じていなかった、という点が大きいように見られます。
したがいまして、賃料の滞納分が大きくなれば、張り紙をする方法が許容される確率も高まっていくものと考えられます。
実際、東京地裁昭和62年3月13日判決のケースでは、賃料を3ヶ月分滞納し、電話しても応答せず貸室にも不在であった賃借人の居室のドアに賃貸人が「連絡を請う。」とか「一二月一五日までに退去とのことであったが、未だに立ち退かず返答されたし。」といった内容の張り紙をしたというケースで、裁判所は
「賃料の支払を求めるためにやむをえず行った行為として社会通念上是認できるものであって、これを違法ということはできない。」
と判断しています。
以上を踏まえますと、ドアに張り紙をする場合には
・賃借人の賃料の滞納状況(最低でも2ヶ月以上の滞納は必要)
・賃借人側の連絡への応答状況(電話、訪問によっても応答なし)
・連絡を取るべき緊急性の有無(貸室内に異変が生じている兆候があるか否か)
を確認した上で、慎重に対応する必要があります。
2019年1月6日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。