【店舗の借主からの質問】
当社は、店舗用の物件を一戸借りていましたが、賃貸借契約には
「借主が期間満了前に解約する場合は、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料・共益費相当額を違約金として支払う。」
という条項が設定されていました。
賃貸借契約期間は4年間とされていましたが、借りてからまもなく当社の経営が苦しくなり、10ヶ月程度で退去しなければならないという状況になってしまいました。
そのため、違約金条項により貸主からは
「まだ契約期間が3年2ヶ月分残っていた状態での中途解約なので、3年2ヶ月分の賃料相当損害金を払ってもらいたい」
と言われています。
このような特約及び貸主からの要求は正当なものなのでしょうか。
【説明】
まず、借主が賃貸借契約を中途解約する場合に、違約金を支払う旨の条項を設定することは有効です。
実務上よく見られるのは、中途解約の申入れを6ヶ月前までに行うとした上で、「賃借人の賃貸人に対する予告期間が6ヶ月に満たない場合には,賃借人は賃料及び管理費の不足月数相当額を賃貸人に支払うものとする。」と言った条項です。
このような条項については、裁判例でも「暴利行為として公序良俗に違反するなどの特段の事情のない限り,上記特約は有効である」とされています(東京地方裁判所平成22年3月26日判決参照)。
したがって、本件のように、賃貸借契約の残存期間分の賃料相当額を支払うとする条項についても「暴利行為として公序良俗に違反」しないかどうかが問題となります。
本件は、東京地方裁判所平成8年8月22日判決の事例をモチーフにしたものですが、裁判所は
「約三年二か月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は、賃借人である被告会社に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、その効力を全面的に認めることはでき」ない。
解約日から「一年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効と解する。」
と述べました。
この裁判例から読み取れることとしては、中途解約の場合の違約金としては、「借主から中途解約の申入れがされてから、貸主が次の賃借人を募集して入居に至るまでに必要と考えられる期間」(概ね6ヶ月~1年程度)が相当であり、これを超えるような違約金を設定する場合には、相応の理由が必要になる、ということです。
相応の理由としては、例えば物件がオーダメイド賃貸など、借主の希望に基づいて物件が建築され、他に転用が難しい場合などが想定されます。
【参照:東京地方裁判所平成8年8月22日判決】
「一 建物賃貸借契約において一年以上二〇年以内の期間を定め、期間途中での賃借人からの解約を禁止し、期間途中での解約又は解除があった場合には、違約金を支払う旨の約定自体は有効である。しかし、違約金の金額が高額になると、賃借人からの解約が事実上不可能になり、経済的に弱い立場にあることが多い賃借人に著しい不利益を与えるとともに、賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には事実上賃料の二重取りに近い結果になるから、諸般の事情を考慮した上で、公序良俗に反して無効と評価される部分もあるといえる。」
「二 そこで、第一契約による違約金について判断する。
本件で請求されている違約金は、被告会社が本件建物の六階部分を平成六年二月二六日に解約したことにより、実際に六階部分を明渡した日の翌日である同年三月五日から契約期間である平成九年四月三〇日までの賃料及び共益費相当額である。なお、この計算においては、第一契約の賃料及び共益費は本件建物の四階と六階部分のものであり、四階と六階は床面積が同一であるから、第一契約の賃料及び共益費の半額、すなわち平成六年三月五日から平成七年四月三〇日までは月一五六万三五七五円、平成七年五月一日から平成九年四月三〇日までは月一七三万〇六四二円で算定している。被告会社が本件建物の六階部分を使用したのは約一〇か月であり、違約金として請求されている賃料及び共益費相当額の期間は約三年二か月である。
被告会社が本件建物の六階部分を解約したのは、賃料の支払を継続することが困難であったからであり、第一契約においては、本来一括払いであるべき保証金が三年九か月の期間にわたる分割支払いとなっており、被告会社の経済状態に配慮した異例の内容になっているといえる。原告は、契約が期間内に解約又は解除された場合、次の賃借人を確保するには相当の期間を要すると主張しているが、被告会社が明け渡した本件建物について、次の賃借人を確保するまでに要した期間は、実際には数か月程度であり、一年以上の期間を要したことはない。
以上の事実によると、解約に至った原因が被告会社側にあること、被告会社に有利な異例の契約内容になっている部分があることを考慮しても、約三年二か月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は、賃借人である被告会社に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、その効力を全面的に認めることはできず、平成六年三月五日から一年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効と解する。」
この記事は、2020年7月26日時点の情報に基づいて書かれています。
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。