弁護士コラム

相続人への生前贈与は1年以上前のものでも遺留分減殺請求の対象となるか?

2015.11.26

Q 父が死亡し、相続人は私と兄の二人だけです。

父の遺産は4000万円の預金だけで、遺産はすべて私に相続させるという遺言がありましたが、兄にも遺留分として4分の1は権利がありますので、遺産のうち1000万円は兄に渡しました。しかし、父が死亡する5年前に、私は父から4000万円相当の土地をもらっています。兄はこれも自分の遺留分を侵害しているとして私に対して遺留分減殺請求をしてきました。

父が死ぬ5年も前に贈与された土地であっても、遺留分減殺請求の対象となり、兄に対してその相当額(1000万円)を支払わなければならないのでしょうか。

A 相続人への生前贈与は1年以上前のものであっても遺留分減殺請求の対象となります。(注意:2019年7月1日の改正法施行後は、原則として相続開始前10年間になされた特別受益に限定されます。)

相続人以外に対する生前贈与は、死亡する1年前までになされたものか、遺留分を侵害することを知ってなされたものでない限りは、遺留分減殺請求の対象とはなりません。

しかし、相続人に対する生前贈与は、基本的には死亡時の1年以上前になされたものであっても遺留分減殺請求の対象となります(最高裁判所平成10年3月24日判決)。なぜなら、死亡の1年以上前になされた生前贈与が遺留分減殺請求の対象とならない、ということになってしまうと、遺留分を主張されたくない相続人と被相続人が共謀して、被相続人が特定の相続人だけに全財産を生前贈与してしまえば、それから1年以上経ってしまえば遺留分減殺請求できなくなってしまい、結局遺留分の制度が全く無意味となってしまうからです。

もっとも、だからといって、相当昔になされた生前贈与まで遺留分減殺請求の対象となると、生前贈与を受けた相続人に酷になる場合もあります。したがって、そのような「特段の事情がある場合」は遺留分減殺請求の対象とはなりません

では、どれくらい昔の生前贈与が対象となるかについて、判例解説などを見る限りでは、例えば40年以上前の預貯金の生前贈与などがその例としてあがっています。

そうなると、5~10年前の生前贈与は、余程の事情がない限りは遺留分減殺請求の対象となる可能性が高いと考えられます。


【判旨:最高裁判所平成10年3月24日判決】

「民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。」

「けだし、民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法一〇四四条、九〇三条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ、右贈与のうち民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。」


2015年11月30日更新

2019年1月14日追記

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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