遺留分として各相続人が有している割合は「各相続人の遺留分解説」で述べたとおりです。ここでは、各相続人の有している遺留分の具体的な計算方法について解説します。
遺留分侵害額の具体的な金額を出すためには、まず、各相続人の遺留分割合をかけるための「相続財産の全体額」を算出しなければなりません。
ちなみに、ここで基礎となる相続財産は「被相続人が死亡時(相続開始時)に有していた財産全体」ではありません。
なぜならば、このように考えてしまうと、被相続人が死亡直前にその財産を全て他人に贈与していた場合、計算の基礎となる相続財産はゼロになり、その結果遺留分もゼロになってしまうからです。そうなると、遺留分制度というものが認められた意味が無くなってしまいます。
したがって、「相続財産の全体額」は下記の順序で計算します。
STEP1
死亡時点の財産を確定
まず、被相続人が死亡時(相続開始時)に有していた全財産(遺言で誰かに贈与すると述べられていたものもこれに加えます)を計算します。
STEP2
生前に贈与した財産を加算
次に、被相続人が生前に贈与した財産のうち、下記に該当するものを加えて計算します。
死亡時(相続開始時)からさかのぼって1年以内にされた贈与(民法1044条1項前段)時期の基準となるのは贈与契約の成立時が1年以内かどうかです。
死亡時(相続開始時)からさかのぼって1年以上前の贈与で、被相続人と贈与受けた人の両方が、その贈与によって相続人の遺留分を侵害することを知っていた場合(民法1044条1項後段)には、当該財産も加えて計算します。
相続人の一人に対する贈与で、特別受益に該当するものがある場合、この財産も加えて計算します(2019年7月1日以降に発生した相続の場合は、相続開始前10年以内のものに限定されます(民法1044条3項)。
STEP3
不当に売却した財産を加算
さらに、被相続人が生前に売買で処分した財産のうち、不相当な対価でなされたものであって、かつ、被相続人と買い受けた者の両方が、その売買によって相続人の遺留分を侵害することを知っていた場合には、その財産から対価として支払われた金額を差し引いて基礎財産に加算します。
STEP4
被相続人の借金を控除する
以上の財産の全体額から被相続人の債務(借金)を引きます。
STEP5
基礎財産の算出
残った金額が遺留分を算定する基礎財産となります。この基礎財産に、上記の遺留分割合をかけた分が、各相続人が遺留分として最低限相続財産に対して有している持分となります。
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。