弁護士コラム

住宅賃貸借契約における明渡遅延の場合の違約金の限度(消費者契約法との関係)

2025.08.10

1 違約金の設定において、消費者契約法を意識した対応が求められること

前回の記事では、

(1)賃借人が個人で居住目的である限り、その賃貸借契約は消費者契約法の適用を受けること(2)消費者契約法9条1項1号により、賃貸借契約の解除に伴う違約金については、その平均的損害の額を超えるような定め方をした場合、これを超えた部分が無効と判断されること

(3)消費者契約法10条により、賃貸借契約における違約金条項について消費者の権利を制限し又は義務を加重する条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効とされること

について説明しました。

住居の賃貸借契約においては、①賃借人が契約を中途解約する場合の違約金、②契約期間満了後(解除後)に明渡しが遅延した場合の違約金、が定められることが一般的であり、これらの違約金について、消費者契約法が適用されるのか、また、適用される場合には消費者契約法違反とならないためにどの程度の違約金額であれば問題がないか、ということを検討する必要があります。

前回は①の違約金と消費者契約法の関係について説明しましたので、今回の記事では、②契約期間満了後(解除後)に明渡しが遅延した場合の違約金について説明します。

2 契約終了後に明渡しが遅延した場合の違約金について

「借主は契約終了日の翌日から明渡完了日までの期間について、賃料相当額の●倍相当の使用料相当損害金」を支払う」といった条項が実務上多く見られます。

このような条項において、賃料相当額の何倍までを使用料相当違約金と定めても消費者契約法との関係で問題はないかが問題となります。

この点について判断した裁判例が東京高等裁判所平成25328日判決です。

この裁判の事例では、賃借人が契約終了日までに物件の明渡しができず遅延した場合に、賃借人は契約終了日の翌日から明渡完了日までの期間について、賃貸人に生じた実際の損害額に賃料等相当額の2倍の金額を加えた使用損害金を支払う、という条項が消費者契約法に違反するかどうかが問題となりました。

裁判所は、このような条項については、契約の解除に伴って発生する損害を定めたものではなく、契約の解除後に明渡し義務に遅延したことに伴って発生する損害を定めたものであることを理由として、消費者契約法9条1項1号ではなく10条の適用の有無が問題となる、としました。その上で、結論としては、賃料の2倍とした違約金条項については消費者契約法10条に該当せず有効である、と判断しました。

その主な理由としては、

「賃借人が明渡しを遅滞した場合、当該目的建物を他に賃貸して収益を上げることができなくなるほか、賃借人との交渉や明渡し訴訟の提起、強制執行などに要する費用の負担の発生などの損害が発生することが容易に想定されること、本件倍額賠償予定条項の予定する目的のための使用料相当損害金には、明渡し義務履行の促進の機能を有するための違約金としての要素も含まれることなどを考慮すれば、本件倍額賠償予定条項において使用料相当損害金の額を賃料等の二倍と定めることは、高額に過ぎるとか、同条項の目的等に照らして均衡を失するということはできない。」

と述べています。

この裁判例の以後、契約終了日以後の明渡し遅延に対する使用料相当損害金を月額賃料の2倍と定めていることについて、上記東京高裁の判旨と同様の理由により消費者契約法10条に違反せず有効であるという裁判例が続いています(東京地方裁判所令和378日判決、東京地方裁判所令和4624日判決など)。

したがいまして、居住用の賃貸物件であり消費者契約法10条が適用される賃貸借契約であっても、明渡が遅延した場合の違約金については、月額賃料の2倍までであれば有効とするのが裁判実務においても確立されているといえるでしょう。

3 賃料の2倍を超える違約金の設定は問題があるか

では、月額賃料の2倍を超える違約金、例えば3倍とか4倍といった使用料相当損害金を設定する条項は消費者契約法10条違反とされてしまうのでしょうか

この点、実際には賃料の3倍とする条項の有効性が争われた公刊判例は見当たりません。前述の裁判例の基準からすると、仮に裁判となった場合は、賃料の3倍という金額が「高額に過ぎる」かどうかは、賃貸人に生じ得る損害(新賃借人への対応費用、訴訟・強制執行費用等)と明渡義務の履行促進という目的から判断されますが、賃料の3倍という金額は、これまでの裁判例で有効とされてきた2倍を大きく上回るものであり、「不相当に高額」と評価される可能性が高いといえます。したがって、実務上は、賃料相当額の2倍を上限として違約金条項を定めることが望ましいでしょう。


ここの記事は2025年8月10日時点の情報に基づいて書かれています。

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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