
高齢のお一人暮らしに安心して貸せるように~住宅セーフティネット法2024年改正の概要について
【賃貸住宅オーナーからの質問】
私は賃貸マンションを所有しているオーナーです。最近、高齢でお一人暮らしの方から入居の申込みがありました。お人柄も良さそうですし、できればお貸ししたいとは思っているのですが、正直なところ不安もあります。
万が一、入居中にお亡くなりになった場合、ご遺族がすぐに見つかるのか、室内の家財道具はどうなるのか、賃貸借契約の解約手続はどう進めればよいのか……。特に身寄りの少ない方の場合、相続人の調査や残置物の処理に大変な手間と費用がかかると聞いたことがあります。また、家賃の滞納リスクも気になるところです。
こうしたオーナーの不安を軽減するための法改正が行われたと聞きましたが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。
はじめに
住宅セーフティネット法(正式名称:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)の改正法が2024年6月に公布され、2025年10月1日より施行されました。
今回の改正は、賃貸住宅オーナーにとって大きな影響を及ぼす改正となっています。そこで、今回の記事では、改正の概要と弁護士の視点から特に重要と思われる点について解説します。
住宅セーフティネット法とは
住宅セーフティネット法とは、高齢、障害、低所得、子育て中など、賃貸住宅への入居にハードルを抱えている人(「住宅確保要配慮者」といいます。)が、民間の賃貸住宅に入りやすくするための法律で、2017年に施行されました。
この法律は、住宅確保要配慮者と賃貸住宅オーナーの双方を支援するため、以下の3つの制度を柱としています。
① 住宅の登録制度
オーナーが所有する空き家や賃貸住宅を、「要配慮者の入居を拒まない住宅」(セーフティネット住宅)として都道府県や市町村に登録する制度
② 経済的な支援
オーナーと入居者の双方への経済的な支援(登録住宅の改修費用の一部等の補助など)
③ 居住支援
NPO法人や社会福祉法人などが「居住支援法人」として指定を受け、入居前後(物件探し、入居手続、見守りなど)のサポートを行うこと
2024年改正の概要
今回の改正は、高齢者や低所得者などの住宅確保要配慮者が増加する中で、これらの方々に物件を賃貸する賃貸住宅オーナーにとって主な改正のポイントは、以下の3つの柱にまとめられます。
(1)オーナーの不安を軽減する仕組みの強化
①家賃債務保証業者の認定制度の創設
要配慮者が利用しやすい家賃債務保証サービスを提供する業者を、国土交通大臣が認定する制度が新設されました。これにより、家賃滞納リスクへの備えが強化されます。
②生活保護受給者の家賃の「代理納付」の原則化
後述する「居住サポート住宅」に生活保護受給者が入居する場合、自治体が家賃(住宅扶助分)をオーナーへ直接支払う「代理納付」が原則となりました。
(2)入居者死亡時の手続きの円滑化
①残置物処理の円滑化
入居者の死亡後、室内に残された家財(残置物)の処理をスムーズにするため、居住支援法人が入居者との生前の委任契約に基づき行える業務として、残置物の整理・撤去が追加されました。
②「終身建物賃貸借」認可手続きの簡素化
入居者の死亡によって契約が終了する「終身建物賃貸借」制度について、高齢者の居住の安定確保に関する法律の改正により、これまでの「住宅ごと」の認可から「事業者ごと」の認可へと手続きが簡素化されました。これにより、オーナーがこの制度を導入しやすくなりました。
(3)要配慮者への居住支援体制の強化
オーナーが、要配慮者に対して安否確認や見守りなどのサポートを提供することを前提とした賃貸住宅を「居住サポート住宅」として認定する仕組みが新たに創設されました。
今回の改正での大きなポイントは
今回の改正内容の中で、賃貸住宅のオーナーにとって特に大きな影響があると見ているのは、「終身建物賃貸借」の手続簡素化と、「残置物処理の円滑化」の2点です。 以下、これらがなぜ重要なのかを、実務上の問題点とあわせて解説します。
(1)賃借人死亡時にオーナーが直面する2つの問題
単身で居住していた高齢の賃借人が死亡した場合、オーナーが直面する問題は、大きく次の2つに分けられます。
- ① 賃貸借契約の終了 賃貸借契約はその相続人に引き継がれるため、相続人を探し出して契約の解約を協議しなければなりません。
- ② 残置物の処理 室内に残された家財道具(残置物)の所有権も相続人に帰属するため、オーナーが勝手に処分することはできません。
実務で特に問題となるのは、お子さんがいない賃借人の場合です。
この場合、賃借人の兄弟姉妹(場合によっては甥や姪)が相続人となります。オーナーは、まず戸籍を辿って相続人を探し当てて連絡を取る必要がありますが、この調査だけでも専門家の費用と調査のための時間を要します。 さらに、仮に探し当てたとしても、「兄弟姉妹も高齢で対応できない」「疎遠だったので相続放棄したい」と言われ、協議が進まない場面も少なくありません。
相続人が対応しない場合、オーナーは法的に、相続人全員(全員が相続放棄した場合は裁判所が選任する特別代理人)を相手にして明渡請求訴訟を起こさなければ、適法に残置物を処分し、部屋を明け渡してもらうことができません。これは非常に大きな時間的・金銭的負担となります。
(2)「終身建物賃貸借」で解決できること・できないこと
「終身建物賃貸借」は、賃借人の死亡によって賃貸借契約が終了する制度です。 これにより、上記①の「賃貸借契約の終了」の問題は解決され、相続人を探して契約解除の交渉をする必要がなくなります。
しかし、終身建物賃貸借だけでは、上記②の「残置物の処理」の問題は解決しません。契約が終了しても、室内に残された家財道具の所有権は相続財産として相続人に帰属したままだからです。したがって、オーナーが相続人の同意なく残置物を処分すれば、不法行為として損害賠償を請求されるリスクがあります。
(3)残置物問題の解決策――死後事務委任契約と今回の改正
この残置物の問題を解決するために有効な手段が、「死後事務委任契約」です。 これは、賃借人が生前に、自身の死後における残置物の廃棄や指定先への送付等の事務を第三者(受任者)に委任しておく契約です。
国土交通省及び法務省は、令和3年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しており、入居時にこの死後事務委任契約を締結しておくことで、賃借人の死亡後に残置物を円滑に処理できる法的な枠組みが整備されています。
なお、死後事務委任契約の受任者には、利益相反の関係上、賃貸物件のオーナー自身がなることは原則としてできません。受任者としては、推定相続人のいずれか、または居住支援法人等の第三者が適切とされています。
そして今回の改正では、居住支援法人の業務に「入居者からの委託に基づく残置物の整理・撤去」が明確に追加されました。 これにより、居住支援法人が死後事務委任契約の受任者として残置物処理を行う法的根拠が確固たるものとなり、実務上の活用がより進むことが期待されます。
まとめ~今後の対策
以上のとおり、高齢の単身入居者を受け入れる際のリスク管理としては、以下の2つを組み合わせることが最も有効な方策といえます。
- 終身建物賃貸借の利用(賃貸借契約終了問題の解消)
- 居住支援法人との死後事務委任契約の締結(残置物処理問題の解消)
今回の法改正により、いずれの手続も従来より利用しやすくなっています。高齢の入居希望者がいらっしゃる場合には、認定保証業者や居住支援法人との連携を積極的にご検討いただくのが良いでしょう。
この記事は2026年4月4日時点の情報に基づいて書かれています。
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。
