相続人のうち、一人だけが親と同居して長年介護をしていたような場合、
介護をしていた者は
「親の介護のために相当の労力を費やしたのだから、それを遺産分割の際に考慮して欲しい。」
という寄与分の主張をすることが多いです。
しかし、この主張に対しては、親と同居していない者からの反論として、
「親の預貯金が減りすぎている。介護と言ってもこんなにお金がかからないのになぜ減っているのか。」
「同居していた者が自分の為に親の預金を勝手に使っていたのではないか。」
という主張がされることが多いです。
これに対して、同居して介護していた者は
「親の介護のためにしか使っていない!」
と反論するものの、証拠が十分でない場合も多いために話がなかなか噛み合わず、泥沼の紛争になり・・・というケースを我々弁護士は非常に多く目にします。
このような泥沼の紛争になってしまうと、遺産分割まで何とか終ったとしても、一旦お互いに抱いた深い不信感は消えず、その後の兄弟間の関係は最早修復不可能なほどに壊れます。
したがって、このような泥沼の紛争が起きないように、親が存命中の間に、兄弟間でのコミュニケーションを密にしておくことが何よりも重要です。
また、兄弟間が疎遠であるような場合でも、親が亡くなった後に不必要に相手への不信感を募らせないために、介護にまつわる行動や出費を出来る限り記録しておくことが必要です。
具体的には、介護をしている者としては
・介護日誌をつける
・介護にかかった費用の領収証をとっておく
・他の兄妹に、親の状態を電話やメール等で逐一報告するなどコミュニケーションを欠かさない
ということを心がけておく必要があります。
また、介護を他の兄弟に任せている者としても
・ひとりだけに介護の負担が集中しないよう心がける
・親から介護の実情を聞いておく
ということをしておけば、親が亡くなった後の話合いにおいて、お互いが徒に感情的になることを避けられるので、紛争が激化することを防止できるでしょう。
この介護と相続の問題というのは、
覆水盆に返らず
という言葉を痛感することが多いので、とにかく親の生前にできる限りのことを尽くしておくということが肝要です。
2015年11月30日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。