弁護士コラム

生命保険の受取金が特別受益となる場合はあるか?

2015.11.27

Q 父が亡くなりました。相続人は私と兄の二人だけです。

父の遺産は、土地と建物だけですが、合計で約1億円ほどの価値があります。

これ以外で、父は自らに生命保険をかけており、保険金は1億円でした。

しかし、その受取人は全て兄に指定されており、兄が全て受け取りました。

私には共済金が300万円程おりただけです。

兄は、父と同居して介護していたわけでもありません。それなのに、兄だけが遺産の総額に匹敵する1億円もの保険金を独り占めできるのは不公平です。

このまま遺産分割すれば、兄は、父の死で結果的に1億5000万円を手にしますが、私は遺産の半分の5000万円しか受け取れません。

この保険金について遺産分割の話し合いの中で何か主張することはできないのでしょうか?

A 原則として特別受益にはなりませんが、金額が大きい場合には特別受益となる場合があります。

生命保険の保険金は「受取人」が全て取得でき、遺産分割の対象にはならない、ということは、相続を経験した人にとっては「常識」のような知識として存在していると思います。

したがって、上記の事案でも兄は保険金1億円全額を受け取ることができ、それに対して弟は何も主張できないのが「原則」です。

しかし、この原則には当然「例外」があり、生命保険の保険金が遺産分割において考慮される場合も存在します。

最高裁判所の判例によれば、その例外的な場合とは「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間で生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」となります(最高裁判所平成16年10月29日判決)。

では、例外となる相続人間の不公平が著しい場合とはどういう場合か、という点について判断したのが東京高等裁判所平成17年10月27日決定のケースで、上記の事案のモチーフとなった事件です。

この事案で裁判所は、

・保険金額が遺産総額に匹敵する巨額の利益(約1億円)であること

・受取人である兄が、父と同居をしておらず、父が兄に対して扶養・介護を託する明確な意図を認めることも困難な事情であること

といった事情を重視して、1億円の保険金全額を兄が受け取っていることは著しく不公平である、と判断しました。

その結果、保険金1億円については「特別受益」として、遺産分割の中で考慮されることになりました。

この判例から読み取れることは、遺産の額と比較して保険金の額が同等かそれに匹敵する場合には、保険金の受取人が、多額の保険金を受け取れるだけの理由(親との同居や介護の約束があったか等)がないと、相続人間の公平を図るために保険金も遺産分割の際に考慮すべきであると判断されることとなる、ということになろうかと思います。

なお、東京家庭裁判所では、生命保険の受取金が遺産総額の6割以上の場合は、特別受益として取り扱う運用のようです。

昨今、相続対策として生命保険の利用が推奨されていますが、遺産の額と比べて保険金額が大きい場合には、この保険金を巡って死後に思わぬ紛争を引き起こしてしまう可能性がある、という点に留意しておく必要があります。


2015年11月30日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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