Q 私は毎月自分の小遣いで宝くじを買っていました。
運良く賞金5000万円があたったこともあります。ちなみに、その賞金は全て自宅の住宅ローンの支払に充てました。
それはさておき、妻と離婚することになり、自宅を処分することになりました。自宅のローンは全て私が買った宝くじがあたったお金で払ったものですから、自宅を処分して得られるお金は全て私が取得する、と主張しています。
しかし、妻は「財産分与だから、半分もらう。」と言って、譲りません。
私が全て取得することはできないのでしょうか?
A 基本的には財産分与の対象になります。しかし、その割合については、通常の場合とは異なる可能性が高いです。
夫婦が婚姻期間中に取得した財産は、どちらの名義で買ったものであっても、基本的には全て夫婦が協力して得た財産とみなされ、財産分与の対象となります。
しかし、婚姻期間中に取得した財産であっても、夫または妻の固有の事情で取得した財産、夫または妻の固有の才覚だけで取得された財産の場合は、夫または妻の「特有財産」として財産分与の対象とはなりません。
具体的には以下のような財産が特有財産になります。
・親から相続した財産
・芸能人、スポーツ選手、作家など特別な才能で稼いだ報酬など
では、夫が小遣いで宝くじを買って多額の賞金が当たった場合、その賞金は離婚の際に財産分与の対象となるのでしょうか。
今回のケースと似た事例で奈良家庭裁判所平成13年7月24日審判のケースがあります。
このケースは、夫が小遣いで買った宝くじで当たったお金で自宅を購入した、というケースで、離婚する際にその自宅を売却して得たお金が夫の特有財産として全て夫のものとなるのか、それとも財産分与の対象として妻にも分与すべきかということが争われました。
このケースで裁判所は、
「宝くじが当たったことは夫がもつ運によるところが大きい」
と言いながらも、
・購入の原資である小遣いはそもそも生活費の一部であって夫婦共有財産であること
・賞金は全て自宅の購入費用に当てられ、その自宅で12年間もの間夫婦として生活してきたこと
・宝くじの当選は所詮運に過ぎず固有の才覚によるところが大きいとは言えない
という理由で、夫の特有財産とすべきではなく、夫婦の共有財産として財産分与の対象とすべきという判断をしました。
とは言え、あくまでも夫の運によるところが大きいことを重視し、一般的な考え方であれば双方が半々で分けるべきところを、夫に3分の2、妻に3分の1ずつ分けるべきという判断をしました。
このケースは、宝くじの賞金が夫婦の生活の本拠となる自宅の購入資金に当てられていたことが、判断を左右する大きな要素となったように思われます。
また、自宅の売却資金以外に財産分与の対象となる財産がなかったことや、離婚後の妻の生活が困窮することなども判断要素としてあげられています。
したがって、本件のケースとは異なり、宝くじの賞金を例えばヨットや美術品などのぜいたく品などの購入に当てたような場合や、貯金で持っていたという場合には、また違った判断になるかもしれません。
2015年11月30日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。